1日遅れのクリスマス:その3(完結)
***「彩華(さやか)」***
「3500円!」
「うん。ちょっと高いよね・・・」
風香ちゃんの言葉に遥ちゃんはびっくりして聞き返しました。
「だってクリスマスプレゼントは3人でそれぞれ1000円までにしようって決めたじゃない」
「うん。でもね、さあちゃんサンタさんへの手紙書いてたでしょ?」
「ああ・・・見せてって言ってもだめって言って見せてくれなかったよね」
「風香ね、さあちゃんが寝てるときにこっそり見たんだ・・・」
「それに書いてあったの?そのハーティコミューンていうの」
「うん。ひらがなでね、『さんたさんへ。わたしはこばやかわさやかです。くりすますには、はーていこみゆーんください。ぜったいね』って・・・」
「はーていこみゆーん?」
「絵本を見ながら書いたんだろうね。プリティムーンに出てくるアイテムなの。コンパクトみたいな・・・。それを使って変身するんだけど、幼稚園の友達がみんな持ってるんだって」
「みんなが持ってるんだったら貸してもらったらだめなの?」
「それを持っている友達と通信ができるの。キャラクターを遊びにいかせたり遊びに来させたりできるんだ。さあちゃんだけ持ってないからお友達と一緒に遊べないの」
「そうなの・・・」
遥ちゃんはちょっと困った顔をしました。お父さんもお母さんもいない小早川家の家計はとても苦しいのです。自由に使えるお金はほとんどありません。でも遥ちゃんは風香ちゃんと相談してクリスマスにはケーキと、3人にそれぞれ1000円くらいのプレゼントを買おうって決めたんです。
もちろん彩華ちゃんはそんなこと知りません。サンタさんからのプレゼントがもらえると思って心待ちにしているんです。その彩華ちゃんがほしがっているものは3500円、これだけで予算オーバーになってしまいます。
「ねえ、おねえちゃん。買ってあげられないかなー?」
風香ちゃんが遥ちゃんの顔を覗き込みます。
「うーん。ちょっと高いよね・・・」
遥ちゃんが困った顔で下を向きます。来年は風香ちゃんも彩華ちゃんも入学でお金が沢山いるんです。
「あのね・・・風香のプレゼントいらないからさあちゃんに買ってあげて」
風香ちゃんが遥ちゃんの顔を見ながら言いました。
「え?だってふうちゃん新しい筆入れがほしいって言ってたじゃないの。さくらんぼの刺繍(ししゅう)のはいってる・・・」
「うん。でも今のやつ、まだ使えるから・・・おこづかいためて買うからクリスマスはいいよ」
風香ちゃんは笑って答えました。お父さんとお母さんがいなくなってから3人ともほしいものを買えるチャンスなんてほとんどないんです。お誕生日とクリスマスを本当に楽しみにしています。風香ちゃんはぼろぼろになった筆入れを使っていますが、この前お店で見た素敵な筆入れがどうしてもほしかったのです。でも彩華ちゃんのためにそれをあきらめる決心をしたのです。
「ふうちゃん、本当にいいの?」
遥ちゃんが心配そうに聞きます。
「うん」
風香ちゃんは明るい笑顔で答えます。
「じゃあ、私もいいや。今年はさあちゃんのほしいものを買ってあげようか」
遥ちゃんも笑顔で言いました。
「でもおねえちゃん、ウエストポーチを買うって・・・」
「いいのよ。どうしても必要なものじゃないし・・・」
二人はお互いの顔を見つめて微笑みました。
「でもおねえちゃん、私たちにだけプレゼントなかったら、さあちゃんおかしいと思わないかな?」
「そうよね。さあちゃん気を使うかもね」
二人は考え込みました。
「ふうちゃん、私に何か作ってくれない?」
「え?」
「アクセサリーでも何でもいいからふうちゃんが作って私にクリスマスプレゼントにしてちょうだい」
「じゃあ・・・今月の図工の時間にキーホルダー作るからそれ、お姉ちゃんのために作るよ」
「ありがとう。じゃあ私はふうちゃんのために刺繍でマスコットつくるね」
「本当?たのしみ!」
二人はニコニコ笑いながら一緒に彩華ちゃんの寝ている部屋を覗き込みました。彩華ちゃんは何にも知らずにすやすやと眠っています。
「さやかちゃんはハーティコミューン持ってないからだめだよ」
「そうそう。利香ちゃんも友ちゃんも持ってるから来てもいいけどさやかちゃんはだめ」
幼稚園でお友達からそう言われた彩華ちゃんは悲しくて泣きたい気持ちになりましたけどぐっとがまんして言い返しました。
「いいもん。さあちゃんもクリスマスにサンタさんからもらえるから」
彩華ちゃんは今にも涙が出そうなのを我慢して無理に笑顔を作ってその場を離れました。泣き虫だった彩華ちゃんも来年は小学校、人前ではめったに泣かなくなりました。
その日家に帰った彩華ちゃんは洗濯物をたたんでいる途中にふと手を止めて、自分のおもちゃが入った引き出しの奥に手を入れました。そして丁寧に折りたたんだ紙をひらいてゆっくりと読み上げました。
「さんたさんへ。わたしは、こばやかわさやかです。くりすますには、はーてぃこみゅーんください。ぜったいね」
自分の手紙を読んだ彩華ちゃんはまた丁寧に折りたたんで引き出しの奥にしまいました。
「サンタさんにお手紙書いたから大丈夫だよね。でもサンタさん、さあちゃんのお手紙見てくれるのかな?」
その時風香ちゃんが買い物から帰ってきました。
「ただいま、さあちゃん。洗濯物のかたづけ、おわった?」
「うん、もうすこし。ねえ、ふうねーちゃん・・・」
「なあに?さあちゃん」
「サンタさんてさ、さあちゃんのお手紙ちゃんと見てくれるかな?お手紙書いたけどポストに入れてないの」
風香ちゃんは笑いながら答えました。
「だいじょうぶだよ。サンタさんはね、いい子が書いたお手紙はお空の上からちゃんと見ているから、ポストに入れなくたってだいじょうぶ」
「ほんとう?さあちゃんっていいこかな?」
「うん。だってちゃんとお家のお仕事してるでしょ?」
「うん。そうだよね」
彩華ちゃんはうれしそうに残った洗濯物をたたみ始めました。
「でもさあちゃん」
「え?」
「サンタさんに何お願いしたの?」
風香ちゃんが笑顔で彩華ちゃんをじっと見つめて聞きました。
「ひみつだよー」
彩華ちゃんはそう言いながらニコニコ笑顔で洗濯物をたたんでいました。
「じゃあふうちゃん、お願いね」
「うんわかった!」
風香ちゃんはコートを着て長靴を履いて出かける準備をしています。
「お金落とさないでよ」
「うん、大丈夫!横のポケットに入れると手袋と一緒に落ちちゃうから胸のポケットに入れたの、ほら」
風香ちゃんはコートの胸ポケットに入れたお財布を遥ちゃんに見せました。クリスマスまであと3日。今日は土曜日ですが幼稚園のクリスマス会があります。彩華ちゃんがいない間に風香ちゃんはおもちゃやさんへ行って彩華ちゃんのプレゼントを買う予定です。
お財布には1000円さつが5枚入っています。もちろん彩華ちゃんのクリスマスプレゼントとケーキを買うお金です。小早川家にとってはとんでもない大金なんです。
風香ちゃんは胸ポケットに入った財布を赤い手袋をした右手で時々確認しながら歩いていました。道のあちこちに張っている氷をパキパキと割りながら風香ちゃんは楽しそうに時々小走りにおもちゃやさんへ向いました。
「ジングルベル、ジングルベル鈴が鳴る♪」
風香ちゃんは色々なクリスマスソングを順番に歌いながら歩きました。そして・・・
「そーれはクリスマースの・・・♪」
なにげなく『ママがサンタにキスをした』を歌いだした風香ちゃんは、はっとして歌声を止めました。そしてほんのちょっと下を向いて寂しそうな顔をして・・・
「真っ赤なお鼻の、トナカイさんは・・・♪」
また明るい声で歌いながら歩き始めました。
大通りを渡って路地に入ると風香ちゃんの前に大きな袋を持ったおばさんが歩いていました。大きな袋を右手に持ってゆっくり、よたよたと歩いています。日の当たらない路地にはあちこちに氷が張っています。風香ちゃんは大丈夫かなーと思いながらおばさんの後姿を見て歩いていました。すると案の定、そのおばさんが滑ってステーンと転んでしまいました。
おばさんの袋から大きなりんごがいくつもゴロゴロと転がっていきます。風香ちゃんはびっくりしておばさんの所に走って行って・・・
「おばさん!大丈夫?」
「あいたたた・・・すべっちゃったわ・・・お尻をうっちゃったけど・・・うん。大丈夫みたい」
「よかった。でも・・・あらら・・・りんごが・・・」
「アップルパイを作ろうと思っていっぱい買ってきたんだけど・・・あら大変」
道のあちこちに大きなりんごが転がっています。
「私も拾うの手伝うよ」
風香ちゃんはそう言うと一つ一つ大きなりんごを集めて袋に入れました。
「ありがとうね。えっと、ひとつ、ふたつ・・・ななつ、あと一つだけど・・・」
二人は周りを探しました。
「あ、こんなところに落ちてるよ」
最後のりんごは道路の横の溝の中に落ちていました。風香ちゃんがうつむいて手を伸ばすとやっとのことでりんごに手が届きました。
「はい、最後のひとつ。でもこのりんご汚れちゃったね」
「ありがとう。いいのよ、洗えば大丈夫。お礼に一個持っていく?このきれいなのどうかしら?」
おばさんは大きなりんごを手にとって風香ちゃんに手渡そうとしました。
「いいの。私、持てないから・・・。気にしないで。でもすべるから気をつけてね」
風香ちゃんはそう言いながら小走りに走っていきました。
遥ちゃんは家の大掃除をしていました。するとバタンと玄関のドアが開いて・・・
「おねえちゃーん・・・」
風香ちゃんが泣きながら帰ってきました。
「どうしたの?ふうちゃん!」
遥ちゃんがびっくりして玄関に出てきました。
「おねえちゃーん・・・お財布・・・ないの・・・」
風香ちゃんは顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら遥ちゃんの顔をじっと見つめました。
「ないって!?どういうこと?落としたの?」
遥ちゃんもびっくりして聞き返します。風香ちゃんは何も言わずに泣きながらうなずきます。
「どこで?どこでおとしたの?」
そんなこと風香ちゃんだってわかるはずないんです。それがわかっていれば拾いに行くんですから・・・。風香ちゃんは泣きながら首を横に振ります。
二人はあわてて外へ出て風香ちゃんが通った道を端から端まで探しながらおもちゃやさんへの道をすすみました。
「ここでりんごをひろったのね?」
「うん・・・」
おばさんのりんごを拾った路地へやって来ると二人はその周りをくまなく探し回りました。胸ポケットに入れたお財布は多分りんごを拾っているときに落ちたんです。二人は隅から隅まで溝の中まで一生懸命探しましたがついにお財布は見つかりませんでした。
風香ちゃんの顔はもう涙でぐしゃぐしゃ、服は泥だらけになってしまいました。遥ちゃんが決心したようにすっと立ち上がりました。
「しょうがないよ。交番へ行ってみよう。誰か届けてくれたかもしれないから」
風香ちゃんは鼻水をすすりながら無言で下を向いてうなずきました。
二人が交番の前で立ち止まると中からあのりんごのおばさんが大きな声を出しました。
「あっ、この子です。おまわりさん!きっとこの子のお財布よ」
風香ちゃんはびっくりして交番の中のおばさんをみつめました。
「あ・・・りんごの・・・おばさん」
りんごのおばさんは風香ちゃんのほうにいちもくさんに走ってきました。そしてその手の中には・・・
「これ・・・あなたのお財布でしょ?」
「あっ、風香のお財布!」
風香ちゃんは大声を上げてお財布を手に取りました。
「ああよかった。あなたがいなくなってから溝の近くにこのお財布が落ちているのを見つけたの。あわてて追いかけたんだけど追いつかなくって・・・。どこの誰かもわからないからおまわりさんのところへ届けに来たの。よかったわ」
「ありがとう!おばさん!」
さっきまで泣いていた風香ちゃんは真っ赤になった目を輝かせてりんごのおばさんの顔を見つめてお礼を言いました。
風香ちゃんと遥ちゃんはおまわりさんとりんごのおばさんに何回も何回も頭を下げて交番をあとにしました。風香ちゃんは手袋をはずしてコートのポケットに入れると大事そうにお財布を両手で抱えながらおもちゃやさんへ向いました。
それから3日後、今日は12月25日です。普通の家では12月24日のクリスマスイヴにケーキを食べて25日の朝にクリスマスプレゼントが枕元に・・・って感じですが、小早川家のクリスマスは1日遅れなんです。それはなぜかと言うと・・・。
「はるねーちゃん、まだかなー?」
「まだよ。あと30分ね」
ショッピングセンターのケーキ売り場の前で彩華ちゃんはそわそわして行ったり来たり落ち着きません。今、午後6時30分です。12月25日の午後7時になるとクリスマスケーキは4割引になるのです。小早川家では7時になってからケーキを買ってきてクリスマスパーティをする予定なんです。風香ちゃんは家で飾り付けをして二人が帰ってくるのを待っています。
彩華ちゃんはウインドーの中のケーキを遠目にじっと覗き込んでいます。ショートケーキや大きなケーキ、はるねーちゃんはどんなケーキを買ってくれるんだろうな?そんなことを考えながらそわそわしています。
「ねえ、はるねーちゃん。まだかなー?」
「さっきから5分もたってないじゃないの。もうしばらくここに座って待ってなさい」
遥ちゃんがあきれた顔で彩華ちゃんをさとします。するとその様子を見ていたケーキ売り場のおばさんが遥ちゃんと彩華ちゃんのほうをむいて手招きをしています。二人はなんだろうと思いながらケーキ売り場のウインドウへ向いました。
「これ、買うんでしょ?」
おばさんはクリスマスのデコレーションケーキを遥ちゃんに渡そうとしています。
「え?でも・・・」
「いいのよ。まだちょっと早いけど4割引にしてあげるから・・・」
そう言いながらおばさんは遥ちゃんにケーキの箱を渡しました。
「本当ですか?ありがとうございます!」
遥ちゃんはお金を払うとおばさんに丁寧にお辞儀をしました。それを見ていた彩華ちゃんも本当にうれしそうに笑いながら「ありがと」と言ってお辞儀をしました。
家へ帰ると風香ちゃんがちょうどクリスマスツリーを出したところでした。
「あれ?早かったね」
風香ちゃんがびっくりして聞くと・・・
「うん。ケーキ売り場のおばさんがちょっと早いけど4割引で売ってくれたんだ」
「そ、うってくれたの」
遥ちゃんと彩華ちゃんが笑いながら答えました。そして風香ちゃんと彩華ちゃんは一緒にクリスマスツリーの飾り付けをしました。
遥ちゃんは夕食の準備です。今日はクリスマスなのでトリのから揚げにしました。もうほとんど準備はできていてあとは油で揚げるだけです。遥ちゃんはジングルベルを口ずさみながら手際よくから揚げを揚げていきました。そして野菜を盛り付けてスープと一緒にテーブルに運びました。風香ちゃんと彩華ちゃんの飾りつけも終わりました。
「さあできた。さあちゃん、電気つけるよ。お姉ちゃん、つけていい?」
風香ちゃんが台所にいる遥ちゃんに聞きました。
「いいよ」
遥ちゃんがご飯をよそいながら答えます。
「いくよ、さあちゃん!いちにの・・・さん!」
「わーきれい!」
赤や青や黄色の明かりがいっせいに灯り、部屋の中は急に明るくなりました。そしてしばらくするとそれらが点滅をはじめ、ツリーのまわりに色々な色の光が飛び回りだしました。
遥ちゃんも食事の支度をちょっと休んでツリーを覗き込みました。静かな部屋の中で三人はしばらく無言でじっと光のダンスを見つめていました。
「さあ、たべよ!」
「はーい」
遥ちゃんの声で風香ちゃんと彩華ちゃんがテーブルにつきました。遥ちゃんはクリスマスソングのCDをかけました。そして三人は光が点滅する部屋の中で楽しくクリスマスの夕食を食べました。
「さあ二人ともお風呂に入ってきてね。早くしないとケーキ食べる時間なくなっちゃうよ」
食事が終わると遥ちゃんは洗いものをしながら風香ちゃんと彩華ちゃんに言います。
「はーい」
二人は大急ぎで着替えの準備をしてお風呂場に直行です。そのはやいことはやいこと・・・。
遥ちゃんも今日は洗濯や他の家の仕事はおやすみです。後はお風呂に入って楽しい時間だけが待っています。
最後に遥ちゃんがお風呂から上がるとクリスマスケーキをテーブルの上に乗せました。お皿やジュースの準備をしていた風香ちゃんと彩華ちゃんは目を輝かせてケーキを見つめました。
「さあ、ろうそくは何本立てようか?」
遥ちゃんが聞きました。
「3人だから3本にしよう」
風香ちゃんが言いました。
「3本じゃちょっと寂しくない?」
遥ちゃんが言うと・・・
「じゃあ、パパとママの分も入れて5本!」
彩華ちゃんが大きな声で言いました。遥ちゃんはにっこりうなずいてケーキの周りに5本のろうそくを立てました。
「この緑がパパで、赤がママ。青いのがはるねーちゃんで、黄色いのがふうねーちゃん。ピンクがさあちゃんのね」
彩華ちゃんが言うと遥ちゃんと風香ちゃんもうなずきました。
「さあ火をつけたから電気消して」
風香ちゃんが部屋の電気を消しました。暗くなった部屋の中には5つのろうそくの光がゆらゆらと輝き、クリスマスツリーの色とりどりの灯りがチカチカと点滅しています。
「きよしこの夜」が流れる中で3人はじっとろうそくの炎を見つめていました。去年はパパとママと5人のクリスマスでしたが今年は3人になってしまいました。遥ちゃんはちょっと寂しくなりましたが元気な声で言いました。
「さあ、3人で一緒に消そう」
遥ちゃんの合図で三人は一緒にふーっと息を吹きかけました。
三人はおなかいっぱいケーキを食べました。あの大きかったケーキがほとんどなくなってしまったのですから。そのあと三人はトランプやゲームをして楽しく過ごしました。
「楽しかったね、ふうちゃん」
「うん」
疲れて眠ってしまった彩華ちゃんを見つめながら遥ちゃんと風香ちゃんが話しています。
「じゃあ、さあちゃんのクリスマスプレゼント、枕元においておこうか」
風香ちゃんがおもちゃ屋さんで買ってきたプレゼントをサンタさんの靴下の中に入れて彩華ちゃんの枕元におきました。彩華ちゃんは何も知らずにすやすや眠っています。
「さあちゃんよろこぶかな?」
風香ちゃんが言いました。
「うん、きっと喜ぶよ」
遥ちゃんが答えました。
「あ、お姉ちゃんへのプレゼント持って来るね」
「わたしも」
風香ちゃんと遥ちゃんが自分の机へ向いました。
「これ、おねえちゃんに・・・」
風香ちゃんは遥ちゃんに子犬のキーホルダーを渡しました。3cmくらいのちっちゃな子犬は耳や足やシッポまで細かく細かく丁寧に彫ってありました。
「これ、風香が作ったの?」
遥ちゃんはびっくりして聞きました。
「うん。今月の図工の時間に作ったの。すごくよくできてるって先生もほめてくれたんだ」
風香ちゃんが得意そうに答えます。
「ありがとう。私、だいじにするね。私からはこれ・・・」
遥ちゃんは風香ちゃんにキルトで作った雪だるまのマスコットを渡しました。サンタさんの服を着て赤い帽子をかぶった雪だるまはおなかのところに「Fooka」と刺繍がしてありました。小さなアルファベットがひとつひとつこまかく丁寧に縫いつけられています。
「すごーい!これおねえちゃんが作ったの?」
風香ちゃんもびっくりして聞きました。
「うん。夜二人が寝てから少しずつ作ったんだ」
「ありがとうおねえちゃん。大事にするね」
風香ちゃんがうれしそうに答えました。
「じゃあこれもサンタさんの靴下に入れて枕元においておこう。明日3人で一緒にあけようね」
「うん」
二人はそれぞれのプレゼントが入ったサンタさんの靴下を自分の枕元におきました。
「ねえ、おねえちゃん」
「え?」
「パパとママの写真もプレゼントの隣に一緒におこうか?」
風香ちゃんが聞きました。
「うん。そうしよう」
風香ちゃんは鏡台から写真を持ってきて彩華ちゃんのプレゼントのそばにおきました。
そして風香ちゃんは彩華ちゃんの右側、遥ちゃんは左側の布団に入って二人とも彩華ちゃんの手を両手で握って眠りました。
その夜はとっても不思議なことが起こりました。
3人がすやすやと眠っていると彩華ちゃんの枕元においてあった写真が明るく輝きだしたのです。そして三人は同じ夢を見ました。それはパパとママと一緒にクリスマスを過ごしている夢でした。
「遥は大きくなったな。何センチになったんだ?」
パパがなつかしい声で聞きます。
「えっと・・・164センチかな?」
遥ちゃんが得意げに答えます。
「へえ、じゃあママよりも大きいのね」
ママもなつかしい声で答えます。
「そうか。風香も大きくなったな。一体何キロになったんだ?」
「パパひどーい!なんでおねえちゃんは身長で風香は体重なのよ!」
風香ちゃんが怒った顔で聞き返します。彩華ちゃんはパパのひざの上にちょこんと座って本当に楽しそうに笑っています。そしてみんなはママが作ってくれたおいしい料理と大きなケーキをおなかいっぱい食べました。
夢を見ている三人は本当に幸せそうに眠っています。遥ちゃんと風香ちゃんは時々にっこりと微笑んで、彩華ちゃんは時々口をもぐもぐ動かして眠っています。
3人の枕元にはサンタさんの靴下が一つずつおいてあります。
そしてパパとママと5人で写っている写真は・・・明るく輝いています。
それから・・・あれ?いつの間にそこにあったのでしょう?遥ちゃんと風香ちゃんの頭の上に小物がひとつずつおいてあります。
遥ちゃんの頭の上にあるのは遥ちゃんがほしかったウエストポーチです。そして風香ちゃんの頭の上には風香ちゃんがほしかったさくらんぼの刺繍の入った筆入れがおいてありました。それらは写真と同じように明るく輝いていました。
でも三人ともそんなことには気づかずにすやすやと幸せそうに眠っています。
時計の針は12時をまわりました。
するとさっきまで明るく光っていた写真とポーチと筆入れはゆっくりと光を失い、3人の枕元で窓の灯りに静かに照らされていました。
外はいつの間にか雪になりました。明日の朝はあたり一面真っ白になっているでしょう。朝になって目が覚めたときの3人の驚いた顔を、皆さん想像してみてください。
「1日遅れのクリスマス」 終わり
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今日も素敵なお話ありがとうございます。
涙でパソコンが良く見えませんが、何とか打っています。
この素敵なお話は、小学校の推薦図書にすべきではないかと思います。
そして絵本風に素敵な絵が加わると、さらに光輝くのではないかと思ったりしています。
堂島さんは、いつこのような文学的才能を磨かれたのでしょうか。
今日も心が洗われました。ありがとうございます。
追伸:リンクにお手数をおかけしてしまってすいませんでした。
投稿: あーちゃん | 2008年8月 5日 (火) 23時50分
過分なご評価ありがとうございます。
出版した原作では、イラストレーターさんのすてきなイラストを入れていただいたのですが、著作権の関係で残念ながら掲載できませんでした。ブログでお見せできないのが残念です。
投稿: 堂島翔 | 2008年8月 6日 (水) 22時57分
無茶苦茶感動しました。本当に心が洗われる思いです。今までこのブログに出合えなかったことを後悔するとともに、これから、いっぱい作品が読めるという幸せをかみしめてます。
投稿: ま~しゃ | 2010年10月22日 (金) 20時58分
ま~しゃさんコメント本当にありがとうございます。
迷惑コメントの削除にあけくれて閉口していましたが救われた気分です。
またがんばって新しい作品を載せて生きたいと思います。
投稿: 堂島翔 | 2010年10月25日 (月) 22時28分