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2008年8月 3日 (日)

1日遅れのクリスマス:その1

 なんとか最初の作品の掲載が終わりました。

 次は昨年出版した「1日遅れのクリスマス」を3回に分けて掲載します。

  

   ・・・両親をなくしてけなげに生きる3姉妹に訪れたクリスマスの奇跡・・・

 

「1日遅れのクリスマス」:その1

 

 小早川家では今年からクリスマスが1日遅れになりました。

  

  

 小早川家の一番上のお姉さんは遥(はるか)という名前です。大きな志を持って育ってほしいという願いから名づけられました。

 

 遥ちゃんは今年15歳、高校1年生になりました。すらりとした体つきにしなやかな長い髪。それをきちんと後で結んでいます。きりっとした意志の強そうな眉にすっきりしたきれいな目。学校の成績もよく、いつも人の先頭に立って仕事をします。

 二番目のお姉さんは風香(ふうか)という名前です。風のように自由に育ってほしいという願いから名づけられました。

 

 風香ちゃんは今年12歳、小学6年生になりました。ちょっぴり太めの身体に人懐こい丸顔。大きな目とちょこんと上向きの鼻。いつも明るい風香ちゃんはクラスの人気者です。性格はちょっとのんびりやさんで細かいことにはこだわりません。

 一番下の彩華(さやか)ちゃんは今年6歳、幼稚園の年長さんです。華のある女の子に育ってほしいという願いから名づけられました。

 

 くりんとした癖毛で長いまつげに大きな瞳。見るからにかわいらしい女の子です。でもちょっぴり甘えん坊で泣き虫なんです。

 3人ともとっても仲のいい姉妹ですが性格は全然違います。もちろん長女、次女、三女と育った環境のせいもありますが、持って生まれた性格というものもあるようです。3人の小さいころの様子はこんな感じです。

 遥ちゃんが小さい頃、おもちゃのブロックを片つけるときには必ず大きいものから順番に丁寧に箱の中に入れていきました。そして最後の一つを満足げに箱に入れるとゆっくりとふたを閉めました。

 

 風香ちゃんはとにかく「ふたが閉まればいい」って感じです。がさがさっと一気にブロックを箱にほうりこむと、ふたをして「えい!えい!」とうえから押さえ込んでおしまいです。

  

 彩華ちゃんは・・・一人では片つけません。いつもお母さんかどちらかのおねえちゃんのそばへ行って「ねえ・・・一緒にかたつけて」って甘えた声を出します。みんなは「しょうがないなー」って思いながら彩華ちゃんのかわいい笑顔を見るとついつい一緒に手伝ってしまうのです。そして終わったあとは彩華ちゃんは必ずお辞儀をしながら「ありがと」ってかわいくお礼を言うのです。

 宿題をするときも・・・。3人が通っていた幼稚園では(彩華ちゃんは今でも通っているのですが・・・)時々土日月の三連休であったことを絵に描く宿題が出ます。

 

 三連休の最後の日、遥ちゃんは3日目の絵は上手に描いたのですが、前の2日間にしたことがどうしても思い出せません。遥ちゃんは「昨日なにをしたのか思い出せないよー」といって泣き出してしまいました。

 

 風香ちゃんはというと3日目にしたことをささっと描くと「はい、おしまい」といって片つけてしまいました。「あれ?ふうちゃん、昨日のことは描かないの?」ってママが聞くと・・・「うん、いいの。だって忘れちゃったんだもん」と言いながらけらけらと笑っていました。

 

 さて、彩華ちゃんは例によって自分では描こうとしません。まずテレビを見ている風香ちゃんの所によってきて「おねえちゃん、てつだってえー」といって1日目の絵を描くのを手伝ってもらいます。風香ちゃんが「しょうがないなー」と思いながら手伝って描いてあげると彩華ちゃんは自由帖とクレヨンを両手で抱えながら「ありがと」といいながらうれしそうにお辞儀をします。

 

 そして次に勉強している遥ちゃんのところへとことこと走っていきます。あどけない笑顔で自由帖をさしだす彩華ちゃんを見ながら遥ちゃんも「しょうがないなー」と思いながら2日目の絵を描くのを手伝います。彩華ちゃんはやっぱりうれしそうに「ありがと」とお辞儀をして今度はママのところへ走っていきます。

 

 「あら、上手に描けたわね」と言うママに・・・「うん。1枚ずつお姉ちゃんたちに手伝ってもらったの。だから今日の分はママ手伝ってえー」といってちょこんとママのひざの上に座ります。ママも「しょうがないわね」と言いながら一緒に絵を描くのを手伝ってくれるのです。

 三人はとっても仲良しです。実はこの家には三人だけですんでいるのです。なぜかというと1年前、今年の1月に3人のお父さんとお母さんが交通事故で亡くなってしまったからです。

 

 当時中学3年生だった遥ちゃんはお葬式の日も涙を我慢してじっと前を向いて座っていました。風香ちゃんはもう最初から最後までわんわん泣き通しでした。まだ5歳だった彩華ちゃんはちっちゃくってお父さんとお母さんが死んだということがよくわかりませんでした。それでも、もう会えないんだということがなんとなくわかってずっと遥ちゃんの横にすわってじっとうつむいていました。

 お葬式の後、親戚の人たちが集まって、三人を一人ずつ引き取る相談をしていました。どの家庭もあまり裕福ではなかったので3人一緒に育てるのは無理だったのです。三人はその様子を隣の部屋からじっと見ていましたが、遥ちゃんが突然大声で叫びました。

 「風香や彩華と離れ離れになるなんて絶対いやです。私たち3人でこの家に住ませてください!」

 二人を抱きかかえる遥ちゃんの目からは、お葬式の間じっと我慢していた涙が次から次からあふれてきました。風香ちゃんも彩華ちゃんも 泣きながらおねえちゃんにしがみついていました。

 こんなわけで三人はお父さんとお母さんがいなくなった家に子供だけですむことになったのです。少しばかりの貯金と両親の死亡保険金があったのでとりあえずの生活は大丈夫でした。

 

 遥ちゃんは自分たちの手元のお金をしっかりと把握し、自分が大学を卒業するまでの間に毎年いくらくらい使えるのかをきちんと計算しました。家のローンや学校の授業料、衣類や食費、そんなことを全部考えて何度も何度も計算しました。

 

 わからないことはお母さんの妹の優子おばさんが色々と相談に乗ってくれました。風香ちゃんと彩華ちゃんはお姉ちゃんの言うことを聞きながら家の仕事を分担して3人でがんばっているのです。

              ***「遥(はるか)」***

 「風香、彩華、早く上がってね」

 遥ちゃんが夕食の洗いものをしながら、お風呂に入っている二人に声をかけます。

 「はーい」

 二人の声がお風呂場の中から聞こえてきます。小早川家では役割分担がしっかりしています。買い物は風香ちゃん、夕食の準備と洗いものをするのは遥ちゃん、彩華ちゃんをお風呂に入れてあげるのは風香ちゃんです。風香ちゃんはお風呂から上がると彩華ちゃんの身体と髪をきれいに拭いてあげます。

 

 パジャマを着た風香ちゃんと彩華ちゃんは冷蔵庫から小さなアイスクリームを出してテーブルに座っておいしそうに食べます。お風呂上りにアイスを食べるのが彩華ちゃんの一番の楽しみなのです。洗い物が終わった遥ちゃんはそんな二人をニコニコ横目で見ながら畳の部屋のふすまを開けました。すると、そこには・・・

「さや!」

 お姉ちゃんから名前を呼ばれた彩華ちゃんはドキッとしてアイスをお皿においてゆっくりと遥ちゃんの所へ歩いていきました。風香ちゃんも心配そうにその後に続きます。

 「さや!どうして洗濯物をたたんでないの?あなたの仕事でしょ?」

 遥ちゃんは怖い顔で彩華ちゃんをにらみつけます。彩華ちゃんは下を向いてじっと立ちすくんでいます。夜のうちに洗濯機に入れた洗濯物は遥ちゃんが朝学校へ行く前に干します。夕方学校から帰った風香ちゃんが乾いた洗濯物を下ろし、風香ちゃんが夕食の買い物に行っている間に彩華ちゃんが一つ一つたたんで3人の分を分けてタンスの引き出しにしまうことになっているのです。でも今日は風香ちゃんが取り込んだ洗濯物がそのまま畳の上においてあります。

 「だって、今日は・・・プリティムーンがスペシャルで1時間あったの。だからお洗濯物かたつけてる時間なかったの・・・」

 彩華ちゃんは泣きそうな顔で下を向いておねえちゃんの顔を見ずにとぎれとぎれに答えます。

 「テレビを見ながらでもできるでしょ!」

 遥ちゃんが怖い顔で彩華ちゃんをにらみます。

 「ごめんなさい・・・」

 彩華ちゃんは涙をこらえて小さな声でつぶやきました。

 「もうパパもママもいないんだよ!私たちは3人で自分たちのことをやらなきゃいけないの!あまえるんじゃないわよ!」

 彩華ちゃんの目からは涙があふれてきます。でも彩華ちゃんはじっとこらえて下を向いています。

 「お姉ちゃん、もういいじゃない。さあちゃんはまだ小さいんだから・・・」

 風香ちゃんが彩華ちゃんをかばいます。

 「何言ってるの!さやも来年は小学校なのよ。決められた仕事はちゃんとできるようにしないといけないの」

 じっと我慢していた彩華ちゃんは風香ちゃんのパジャマをつかんでひっくひっく泣き出しました。風香ちゃんはそんな彩華ちゃんの頭を撫でて抱き寄せます。でも遥ちゃんは・・・。

 「こんなことくらいで泣くんじゃないよ、さや!泣く時間があったらちゃんと自分の仕事をしなさい!」

 怖い顔で彩華ちゃんをにらんでどなります。

 「もういいじゃないよ!さあちゃんだってあやまってるんだから!」

 風香ちゃんが彩華ちゃんを抱きしめながら遥ちゃんをにらみます。その時、彩華ちゃんが急に大声で泣き出しました。

 「うえーん。ままー・・・ままー・・・」

 お母さんを呼びながら泣き出す彩華ちゃんを見て遥ちゃんも風香ちゃんも泣きたくなってきました。

 「やめなさい、さや!ママはもう死んじゃったんだから、泣いたって帰ってこないの!」

 遥ちゃんは自分も涙が出そうなのをぐっとこらえて言いました。彩華ちゃんはいっそう激しく泣き出しました。

 「そんな言い方しなくたっていいじゃないの!さあちゃんはまだ6歳なんだから!ママがいなくて寂しいのは仕方ないじゃないの!」

 風香ちゃんも泣きながら遥ちゃんに言い返します。

 「それなら二人でママのところへ行きなよ!」

 遥ちゃんは言ったあとで「しまった」と思いました。こんな事をいうはずじゃなかったのに・・・。でもいったん口から出た言葉は取り戻せません。風香ちゃんと彩華ちゃんは泣きながら遥ちゃんをじっと見つめています。いたたまれなくなった遥ちゃんはぷいっと横を向いて二人の横を通って部屋を出て行きお風呂場へ向いました。

 ―なによなによ。寂しいのは私だって・・・私だって同じよ―

 遥ちゃんは泣きながら服を脱ぎました。

 ―私だって友達と遊んだりテレビを見たりしたいわ。私がこんなにがんばっているのに・・・なによ、二人とも何にもわかってくれないのね。私だって・・・私だって・・・ママにあいたい―

 遥ちゃんは湯船の中に顔をつけて泣きました。実は遥ちゃんは今日、学校でも嫌なことがあったのです。クリスマスにクラス全体で何か催し物をすることになって遥ちゃんがその責任者に決まったのですがみんな人任せで何も意見を出してくれません。遥ちゃんはクラス会の時ちょっと大きな声を出してしまったのです。

 

 でも遥ちゃんは家に帰るときにそんな気持ちを切り替えて風香や彩華のためにおいしい料理を作ってあげようと心に決めて家のドアを開けたのです。それなのに・・・。

 お風呂から上がった遥ちゃんは二人と顔を合わせないようにまっすぐ自分の部屋に入って自分の机に座りました。目の前にはパパとママと家族5人で撮った写真が立てかけてありました。それを見た遥ちゃんの目からはまた涙があふれ、そして遥ちゃんは机にうつむせになって声を殺して泣きました。

 

 遥ちゃんは今日学校であったことやさっき風香ちゃんや彩華ちゃんとけんかをしたことを思い出しながらしばらく泣いていましたが、そのうちに眠ってしまいました。すると机の上の写真が明るく光りだしました。遥ちゃんは自分の名前を呼ぶなつかしい声で目を覚ましました。

 「遥・・・」

 「ママ?」

 遥ちゃんが振り向くとそこには死んだはずのお母さんが立っていました。

 「遥、ごめんね。何もしてあげられなくて・・・。あなたが毎日がんばっていること、ママはよくわかっているわ」

 「ママ・・・」

 遥ちゃんは潤んだ目でじっとお母さんを見つめました。

 「毎日毎日、風香や彩華のために一生懸命なのね。それに自分の勉強もしっかりがんばっているわ」

 笑顔で優しく話しかけるお母さんを見て遥ちゃんは目に涙を浮かべて無言でうなずきました。

 「でも遥ちゃんは一番のお姉ちゃんだから・・・つらいこともいっぱいあると思うけど風香と彩華のことお願いね。あの子たちにはもうあなたしかいないの。でもママはいつもあなたのことをみているわ」

 「ママー」

 遥ちゃんは泣きながらお母さんに抱きつきました。お母さんはそんな遥ちゃんを優しく抱きしめてくれました。遥ちゃんはそのまま目をつむって暖かいお母さんの腕の中でしばらくの間、気持ちよさそうに抱かれていました。

 遥ちゃんははっと目が覚めました。机の上を見ると写真の中のお母さんがやさしく微笑んでいます。

 「ママ・・・。天国から遥のことを励ましに来てくれたのね」

 遥ちゃんは写真を手にとって微笑みました。遥ちゃんは自分の部屋を出て、そして畳の部屋のふすまをそっと開けて中を覗き込みました。

 部屋には3つの布団が引いてあり、真ん中に彩華ちゃん、右の布団に風香ちゃんが二人抱き合うような格好で寝ていました。その枕元には1枚ずつの紙がおいてありました。遥ちゃんは風香ちゃんの頭の上の紙を手に取りました。

 『おねえちゃん、さっきはごめんね。いつもありがとうね。風香』

 下のほうには猫がごめんなさいをしているイラストが書いてありました。遥ちゃんは風香ちゃんの寝顔を見つめました。幸せそうな寝顔です。風香ちゃんの左手は彩華ちゃんの右手をしっかりと握っていました。

 「ごめんね。ふうちゃん」

 遥ちゃんは風香ちゃんの髪を優しく撫でました。そして今度は彩華ちゃんの頭の上においてあった紙を手に取りました。

 『ごめんね、はるねーちゃん。さやか』

 そこにはちょっとにじんだ、大小ふぞろいのひらがなが並んでいました。でも『ち』の字は反対を向いていて『さ』に見えました。下にはウサギのような猫のような動物が書いてありました。遥ちゃんが彩華ちゃんの頬にそっと手を触れると、まだほんの少しぬれていました。

 「ごめんね、さあちゃん・・・。おねえちゃん、きつく言い過ぎちゃったね」

 遥ちゃんはゆっくりと立ち上がりもう一度彩華ちゃんの書いた手紙を読み直しました。

 「明日からもう一度ひらがなの復習ね」

 遥ちゃんは微笑みながらふすまをそっと閉めてお風呂場に向うと、今日の分の洗濯物のかごを手に取りました。

        その2に続く

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コメント

ブログ開幕(?)おめでとうございます!
ファンタジックな中に、心を揺さぶられるようなお話を、ありがとうございます
これからも楽しみにしています!

1日遅れのクリスマスの、第一話を読ませていただきました。

じ〜んとくるものがあります。

今後の展開を楽しみにしています。


日本中の多くの人に読んでもらいたいと思いますので、私の2つのブログでも紹介の上、リンクさせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。

もし、操作になれられましたら、相互リンクしていただけますと、嬉しいです。

http://aachan1219.jugem.jp/
http://aachan8910.jugem.jp/

rinrinrinさん。最初のコメントありがとうございます。これからも可能な限り連日掲載していきます。
あーちゃんさん。リンクありがとうございます。慣れない操作ながらも、何とかリンクさせていただきました。

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