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2008年10月12日 (日)

スーパーDr.うるとら万太郎:第2話(1/3)

スーパーDr.うるとら万太郎:第2話(1/3)

   第二話 ときめき

   *対抗意識*  

 解離性大動脈瘤(かいりせいだいどうみゃくりゅう)の患者は香田医師の見事な手術のおかげで助かった。手術が終わってからは集中治療室で治療中だが経過は良好のようだ。

 万太郎のことは高沢友里や香田医師の口から院内に広まってはいるが、思ったほどの話題にはなっていないようだ。しかしこの想太郎の目の前の二人の反応はちょっと違う。

「ふーん。その想太郎のいとこの万太郎っていう人、そんなにできるの?私たちと同じ、卒業して3年目なんでしょ?」

 綾乃はちょっと不機嫌そうに想太郎に聞いた。

―あー・・・そうだよな・・・。俺達と同じ歳ですごく仕事ができるって言われたら俺はともかく今まで一生懸命にやってきた綾乃にしたら面白くないよな。万太郎は俺より5歳くらい年上にしとけばよかったかな?―

「まあ・・・今回はたまたま診断が当たっただけだと思うけど・・・」

「でも心のう穿刺(せんし)を30秒もかからずにやっちゃったんでしょ?それにあの香田先生がえらく感心していたわよ。どこの病院に勤めてるの?」

「え?いや・・・俺もよく知らないんだけど・・・今は実験とか研究を中心にやってるらしいよ。時々俺の家に遊びに来るんだ」

 想太郎はしどろもどろに高沢友里にしたのと同じ答えを繰り返した。

「そいつはどんな奴なんだ?身長は?髪は長いのか?」

 諸星渡が想太郎に聞いた。

―なんだ?何でお前がそんなことを気にするんだよ。女の綾乃が聞くんならまだわかるけど・・・―

「身長は俺と同じくらいだし(ホントは全く同じね)、髪はちょっと茶色に染めてるかな・・・」

「・・・かっこいい奴なのか?」

―なんなんだよ。諸星。何でお前がそんなこと気にするんだ?―

「まあ・・・普通だと思うけど・・・なんで?」

 想太郎は諸星の顔を見つめて聞いた。

「いや・・・そんなすごい奴なら一回会ってみたいと思ってな・・・」

 諸星は想太郎から目をそらせて答えた。

「私もぜひ会ってみたいわ。今度来たら紹介してくれる?想太郎」

 綾乃がつんとした表情で言った。

―あーまずいよ。綾乃は完全に万太郎に対抗意識を持っちゃったよ。確かに綾乃は卒業3年目の内科医としちゃあ最高だよ。いろんな病気を知ってるし、救急の処置も一通りこなすし、それに勉強熱心だよな。でもさ、万太郎っていうのは次元が違うんだよ。なにしろあのCUPID(キューピット)にはあらゆる医学情報がぎっしり詰まってるんだぜ。万太郎は究極のスーパードクターなんだ。いくら綾乃でもかないっこないんだよ。頼むから万太郎と張り合おうなんて考えないでくれよ。俺がどうしたらいいかわからなくなっちゃうじゃないか―

   *万太郎の家。親父よ、あんた・・・*

「ただいま」

 当直明けで家に帰った万太郎はそう言いながらカバンを玄関に置いた。その声を聞くや否や父親の為太郎が走ってやってきた。

「どうじゃ、想太郎!ウルトラアイを使ったな?いや、隠してもわかる。CUPIDがものすごい勢いで活動していたからな。今でもまだ熱が冷めん。また、まともに動くようになるのには3日かかるじゃろう。で、どうだ?スーパードクターになった感想は?」

 為太郎は矢継ぎ早にまくし立てた。

「別に隠すつもりなんかないよ。昨日夜9時過ぎにこのメガネをつけてみたよ」

 想太郎がポケットからウルトラアイのケースを取り出しながら答えた。

「それで?」

「死ぬはずだった患者が一人助かったよ」

 想太郎はポソリと言った。

「そうか!それはよかった。わしも発明した甲斐(かい)があるってもんじゃ」

 為太郎はうれしそうに想太郎の顔を見つめた。

「親父よ・・・・」

「なんじゃ?」

 ちょっと間をおいて想太郎が言った。

「あんた・・・ものすごいものを発明したな。尊敬するよ」

「そんなにおだてるな」

 為太郎は息子にほめられて本当にうれしそうに顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

「いやいや。俺は今まであんたの発明を馬鹿にしてきたけどこれは本物だよ。今ここで変身して万太郎になった姿を見せてやりたいよ」

「万太郎?それがスーパードクターの名前か?もうちょっとましな名前をつけてやれよ」

「なんだ?万太郎ってあんたがつけたんじゃないのか?勝手にしゃべってたぜ」

「いや。そのスーパードクターがしゃべっていることは全部お前の潜在(せんざい)意識から出てくるんじゃよ。お前の潜在意識の中にあるヒーローがそんな名前なんじゃないのか?確かに今はお前はその潜在意識をコントロールできんからそいつが勝手にしゃべったり動いたりしているように感じているかも知れん。まるで別の人格が自分の中にいるようにな。しかし慣れてくればそいつは自分の思い通りに動くようになるぞ。知識や技術はスーパードクターのままでな」

「じゃあ・・・俺が万太郎に変身しているときに・・・誰かの手を握ろうとしても・・・できるのか?」

「ああ、慣れてくれば造作(ぞうさ)もないことじゃ。なんじゃ?万太郎に変身して誰かを誘惑しようというのか?いや、別にかまわんよ。手を握るどころか抱きしめたりキスしたりだって・・・それ以上だって簡単にできるぞ」

「本当か!いや・・・別に今誰かとそうしたいって訳じゃないぜ。たとえばの話だよ。たとえば・・・」

―だって綾乃は万太郎に対抗意識を抱いているからな。万太郎になって迫ったりしたらひっぱたかれるのは目に見えているじゃないか。でも高沢友里なら・・・いけるかもな―

「しかし今変身してはダメだぞ。CUPIDはまだ熱を持っておる。今変身したら・・・」

 為太郎は急にまじめな顔になって想太郎に諭すように言った。

「わかってるよ。命はない、だろ?俺もまだ腹がゴロゴロして気持ち悪いんだ。何とかなんないのか?この屁がひっきりなしに出るの」

「3日間は我慢しろ。それに屁が出たほうがその間は変身することを思いとどまれるからいいじゃろう?」

「まあ・・・この発明のすごさは充分わかったからもう少し改良してくれよ」

「わかったわかった。心配するな」

 そう言いながら為太郎は上機嫌で自分の実験室に消えていった。

   *再び症例検討会*

 想太郎の腹の具合はそれから3日間くらい、ぱっとしなかった。いつも腹がゴロゴロ鳴って屁が出るのを我慢するのが大変だ。

―なるほど・・・親父が72時間は変身するなと言ったのがよくわかるよ。これじゃあ変身する気になんかなれないって―  

 次の週の症例検討会は想太郎も何とか症例提示をこなした。評価は高くなかったが真田医局長も今回はあのくだらないジョークは言わなかった。

「ところで・・・先週尾形先生は部外者に診療させたらしいが、どうなっているのかね?ここで説明してくれないか」

 最後になって真田医局長が想太郎を問いただした。

―きた!そうだよな。何にも言われないわけがないよ―

「あの・・・あの日僕は急におなかの具合が悪くなって・・・急患の処置がとてもできそうになかったので、たまたま遊びに来ていたいとこの医者に診療を頼んだんです。患者さんの状態が悪くって他の先生を呼んでる暇がなかったものですから・・・すみません」

 想太郎はしおらしく答えた。

「どんな理由があろうと断りもなく部外者に診療させていいと思っているのかね?もし医療ミスでもおこったら誰が責任を取るんだ?どう思われますか?桐島先生」

 真田医局長は大声でまくし立てながら院長の同意を求めた。

「まあ・・・確かに誰にも相談しなかったのはほめられたことではないが・・・緊急事態なんだから仕方ないんじゃないかね?その万太郎って先生だってちゃんとした医師免許を持った医者なんだろう?」

―医師免許?俺は持ってるけど・・・まあ・・・同じようなもんだよな・・・―

「はあ・・・一応・・・」

「じゃあ、いいじゃないか。ここは公立病院じゃないんだ。ちゃんとした診療をしてくれれば細かいことを言う者もいないだろう。理事長には私から言っておくよ。それに話を聞くとなかなかすばらしい先生だそうじゃないか」

 桐島院長が優しい声で真田医局長に向って言った。

「はあ・・・桐島先生がいいとおっしゃるなら・・・まあ、尾形君。今回は何も言わないがその万太郎って先生に当院で厄介な問題だけは起こさんようにくれぐれも言っておいてくれよ。もっとも・・・君が当直しているよりは、はるかに問題は少ないかも知れんがね」

 真田医局長はいやみたらしく笑いながら想太郎に言った。

―本当にいやみな奴だぜ。いつか万太郎になってこいつをぎゃふんと言わせてやりたいよ。綾乃もそう思うだろう?―

 想太郎は向こうの席に座っている綾乃の顔をチラッと見て、あわてて前に向き直った。

―きげんわるー・・・万太郎がほめられたのが気に食わないのか?おいおい・・・そこまで競争心を燃やさなくってもいいじゃないの・・・俺、困っちゃうよ・・・でもまあ、院長先生も認めてくれたことだし、これからもたまには万太郎になってもよさそうだな。でも俺が変身してるってことは絶対にばれないようにしなきゃな。綾乃に嫌われるのもごめんだぜ―

    *あー・・・当直だよ・・・*

 それから数日後・・・

―あーいやだなー・・・今日はまた当直だよ。当直の日の朝はいつも気が重いよな・・・朝から仕事を始めて夜中ずっと病院にいて、次の日はまた朝から夜まで普通に仕事だよ。何時間勤務なんだ?これが当たり前のように誰も文句を言わないが、こんな長時間労働って労働基準法に違反してるんじゃないの?医者だって人間なんだぜ。ちゃんと法律は守ってほしいよ―

 そんなことを考えながら想太郎は思い足取りで病院へと向った。その日の午前中は外来勤務で午後は病棟回診だったが、大きなトラブルも急患もなく比較的スムーズに時間が流れた。

―あーあ・・・今から当直だ。これから病院に来る救急車は全部俺がひとりで診なきゃいけないんだよな。またこの前みたいなことはないだろうけどな。でもいいや。わからない患者が来たら万太郎先生に登場願えばいいんだよ。楽勝楽勝―

 そんなことを考えながら想太郎は救急室に下見に出かけた。

―一応今日の当直のナースに挨拶しとかないとな。今日は誰だ?―

 想太郎は救急室のドアを開けた。

―げげっ・・・なんだ・・・また高沢友里かよ・・・―

「あら尾形先生。今日もいっしょね。よろしくね」

「ああ・・・よろしくお願いします」

 想太郎はちょっと皮肉交じりに微笑みながら頭をぺこんと下げた。

「ところで尾形先生・・・万太郎先生、今日も来てくれるかな?」

―なんだよ。えらくあからさまじゃないの。あんた本当に万太郎に惚れてるの?―

「ああ・・・今日も俺の親父の手伝いをしてるみたいだけど・・・暇だったら来るかもな」

―いいのか?想太郎。そんなこと言っちゃって―

「本当!じゃあ・・・もし万太郎先生が来たら私に紹介してよ。約束よ!」

 高沢友里は想太郎の手を握りながら言った。

―あー・・・コリャ本気だよ。どうする?万太郎・・・―

 第2話(2/3)に続く

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