スーパーDr.うるとら万太郎:第4話(1/3)
スーパーDr.うるとら万太郎:第4話(1/3)
「決心」
*万太郎さん?*
―あー・・腹の具合が悪いよ・・・昨日は中3日で万太郎に変身したから腹の中はずっとガスがたまりっぱなしだぜ。まあ3日あいてれば命には別状ないみたいだけど屁ばっかり出て仕事になんねーって・・・―
次の日の朝、想太郎はナースセンターの椅子にぐったりと座っていた。
―昨日は俺もすげー疲れて、あれから綾乃には会えなかったけど・・・患者も元気そうだからまあ、よかったよな。それにしても万太郎に変身した時には頭はすっきりするし身体には力がみなぎってくるし、気持ちいいんだけどあとがしんどいよ。腹が張るのもそうだけど体中がぐったりして力がはいんねーよ。まあ今回は綾乃のためだから仕方なかったけどな。確かにこれじゃあ3日以内に変身したりしたら命はないよ―
想太郎が目をつむって椅子に仰向けになって腰掛けていると後から綾乃が声をかけた。
「おはよう。想太郎」
「ん?ああ・・・綾乃か・・・おはよう」
想太郎はゆっくりと肩を回しながら綾乃のほうに向き直った。
「昨日はありがとね。あの・・・万太郎さんに・・・連絡してくれて・・・」
綾乃はちょっとはにかみながら言った。
―万太郎・・・さん?なんだよ。綾乃は万太郎が嫌いなんじゃなかったのか?―
「おかげでPTCDうまくいったわ。想太郎にも見ていてもらいたかったけど・・・」
「ああ・・・わるい。なんか急に腹の具合が悪くなってな・・・しばらく休んでいたんだ」
―言い訳はいつも同じだぜ―
「また?あなた最近おかしいじゃないの。一回検査してもらったほうがいいわよ」
―綾乃が心配してくれるのはうれしいんだけどね。俺の腹のことはほっといてくれよ―
「ああ・・・考えておくよ」
想太郎はちょっとめんどくさそうに答えた。
「本当に検査してもらってよ。それでね・・・今日は想太郎にお願いがあるんだけど・・・」
綾乃は想太郎の顔を見つめてちょっと微笑みながら聞いた。
―あーかわいいよな・・・綾乃の笑顔。やっぱり俺が好きなのは綾乃だよ。なんだ?お願いって。綾乃の頼みなら俺、何だって聞いちゃうよ―
「万太郎・・・さんにもう一度来てもらえないかしら?」
―えー??なんでー??―
「万太郎に?なんでよ?」
綾乃はちょっと恥ずかしそうに目をそらしながら答えた。
「実はね、ちょっと相談したい患者さんがいるの。色々調べているんだけどなかなか診断がつかなくって・・・。万太郎さんなら何かわかるんじゃないかなって思うんだけど・・・」
―どうなってんのよ?綾乃。あんた万太郎のことあんなに嫌ってたじゃないよ。昨日万太郎にPTCD教えてもらってそんなにうれしかったのか?―
「それに・・・昨日のお礼もちゃんと言ってないの。私が着替えたらもういなくなっていたから・・・」
―言ったじゃないの。「ありがと」って。俺ちゃんと聞いてたよ―
「でも・・・綾乃は万太郎のこと嫌いなんじゃなかったのか?」
「最初はね・・・うわさを聞いて仕事はできるのかもしれないけどなんか気に食わない奴だなって思っていたのよ。でも昨日彼を見て誤解だったってわかったの。あの人、話し方はつっけんどんだけど心の奥にはとっても優しい心を持っているわ。昨日だって私のプライドを傷つけないようにずいぶん気を使って教えてくれた。それに・・・なんとなく昔からの友達みたいな気がするの。変よね、昨日初めて会ったのに・・・」
―すごいよ・・・綾乃。あんたの人を見る目ってたいしたもんだねー。でも俺には万太郎が優しい心を持っているって言うのはよくわかんねーけど・・・―
「ふーん。じゃあ、万太郎と張り合うのはもうやめたのか?」
「張り合うなんて・・・確かに私と同じ歳で仕事ができるって言われたときは競争意識も持ったわよ。私だって学生時代からずいぶん頑張ってきたんだから」
―そうだよね。俺が一番よく知ってるって―
「でもね・・・あの人はきっと特別な人なのよ」
「特別?」
「そう。なんて表現したらいいのかよくわからないけど、私たちとは次元が違うっていうか、頭の中が宇宙みたいに広くって、その中にすべての医学知識が入っているって感じなのよ」
―綾乃、あんた・・・本当にすごいよ・・・一回会っただけなのに全部わかっちゃってるね。親父が聞いたらびっくりするぜ。俺にはあんたのほうが次元の違う世界にいる人のような気がするよ。でもまあ、なんにせよ綾乃は万太郎と仲良くしてくれそうだってことね。よかったよ―
「ふーん。俺にはよくわかんないけど・・・それで?万太郎にいつ来てもらえばいいんだ?」
「いつでもいいの。彼の時間が空いたとき。明日でもあさってでも」
―無理!・・・絶対無理!・・・今週はもう勘弁してくれよ―
「今週は・・・ちょっとあいつ忙しいって言ってたよな。今度の日曜の午後じゃだめ?」
「日曜日?4日後ね。いいわ。」
「あ・・・でも俺はちょっと都合が悪いから万太郎だけ来てもらっていいか?」
「いいわよ。じゃあお願いね。想太郎」
そう言いながら綾乃は医局に向って歩いていった。
「俺もいいか?」
「わ!なんだ!諸星!お前いつからここにいるんだ!」
想太郎はびっくりして椅子から転げそうになった。
「今度の日曜日、俺も万太郎に会っていいか?」
―なんだよ、こいつ。何考えてんだ?―
「ああ・・・いいけど・・・なんで?」
「いや・・・俺もちょっと教えてもらいたい患者がいるんだ」
―ああそう・・・まあいいよ。何でもいいけど諸星、本当に大丈夫なのか?おまえ、変な趣味はないんだろうな?―
*ごめんね友里っぺ*
想太郎が廊下を歩いていると誰かが後から腕をつかんだ。
「なんだ?誰だよ!」
想太郎が振り向くとそこに立っていたのは・・・高沢友里・・・だ。
―なんだ?友里っぺじゃないの・・・あ・・・しま・・・った・・・―
高沢友里は想太郎の右腕を両手でつかんで怖い顔でにらんでいる。
「尾形先生!」
「はい。なんでしょう・・・」
想太郎は身体をのけぞらせながら力なく答えた。
「なんでしょうじゃないわよ!昨日万太郎先生呼んだでしょ!」
―ああ・・・やっぱり・・・ごめんよ友里っぺ・・・昨日は俺もあわてていて、あんたを呼んでる暇がなかったんだよ―
「すまん・・・でも君は・・・勤務時間だったじゃないか・・・忙しそうだったから声をかけなかったんだよ」
―本当か?友里は本当に勤務中だったのか?そんなでまかせ言って大丈夫なのか?想太郎・・・―
想太郎は祈るような気持ちでしどろもどろに思いついたままの言い訳をした。
「いくら勤務中だって・・・確かにあの時間は急患が来て忙しかったけど・・・連絡くらいしてくれたっていいじゃないのよ!」
―ホント?ホントに勤務中?しかも急患だったの?あー神様っているもんだよ―
「ごめんごめん。でも万太郎も忙しかったからすぐ帰っちゃったよ。呼んでも会えなかったと思うよ」
想太郎はさっきよりはちょっと余裕を持って答えた。
「そうなの・・・でも・・・万太郎先生、綾乃先生のPTCDを手伝ったんでしょ?何か話・・・してた?綾乃先生と・・・」
友里は心配そうな顔でちょっと目を伏せて想太郎に聞いた。
―何?何?あんた綾乃と万太郎のことを心配してんの?あー大変だね・・・恋する女の子っていうのは・・・そりゃあ心配だよね。あんたの惚(ほ)れてる万太郎先生があの美人でお嬢様で非の打ち所のない綾乃先生と出会っちゃったんだからね。そりゃあ心配だよ。うんうん。あんたの気持ちよーくわかるよ・・・でもね、大丈夫だよ。友里っぺ・・・確かに綾乃はもう万太郎に敵対心は持ってないみたいだけど、そんなことくらいで万太郎に惚れちゃうような安っぽい女じゃないって(じゃあ高沢友里は安っぽい女ってこと?)―
「おれは・・・そこにいなかったからよく知らないけど・・・PTCDが終わったらすぐに帰っちゃったみたいだぜ。綾乃がナート(縫合)終わる前にな」
「そう・・・じゃあ・・・いいけど・・・」
―確かに友里っぺはかわいいけど・・・綾乃には・・・勝てないよな・・・あの日は俺も友里っぺが一番なんて思っちゃったけど・・・やっぱり俺が好きなのは・・・綾乃だよな。ごめんよ、綾乃。ちょっとでも迷った俺を許してくれ・・・って言ってもあんたは俺のことなんかこれぽっちも想ってないんだろうけどな・・・。
―それにしても・・・男なんて単純な生き物だよな。腹が減ったときに目の前においしい御馳走(ごちそう)があったらなんにも考えずに飛びついちゃうもんだよ。きっと食べた後にしまった!って後悔するんだぜ。でも、この世の中の男なんてみんなそんなもんじゃないの?酒飲んで女の子の相談に乗ったりして「あーこの子かわいいよな」って思ってつい手を出しちゃうんじゃないの?それから逃げられなくなってずるずると最後までってこと、すーごくいっぱいあると思うんだよ。ひょっとしたら今結婚してる奴ってほとんどがそうじゃないのか?たとえ好きな子がいたってその子が相手にしてくれなかったら・・・別のかわいい子が目の前に現れた時には行っちゃうよなー。たとえどんなにステーキが好きだっていうやつでもステーキが食べれないときに目の前においしそうなたこ焼きが出てきたら・・・やっぱり食べるよな・・・うん。そうだよ―
―でもな・・・なぜステーキが食べれないかっていうと、金がないからだろ?金がないのにステーキを食べようっていうのがそもそも間違ってるんだよ。ステーキが食べたかったら金を稼がなきゃいけないんだ。じゃあ・・・俺が綾乃を手に入れるためにはどうすりゃいいんだ?ステーキを買う金を稼ぐってことはどういうことなんだ?―
*潜在意識*
「すると何だ?そのカヤノとかっていう女医さんは万太郎の正体に気がついているのか?」
為太郎がけげんそうな声で聞いた。
「カヤノじゃないって、アヤノ!」
想太郎はあきれた声で答えた。
「おおすまんすまん。その綾乃さんじゃよ」
「別に気がついてるわけじゃないけどな、万太郎と一回会っただけなのに以前に会ったことがあるような気がするとか、頭の中にすべての医学知識が入ってるとか言うんだよ」
「ふーん・・・そりゃあ感のいいおなごじゃな」
為太郎は腕組みをして言った。
「おなごってなんだよ?あんた、なに時代の人?それにその『じゃ』をやめなって」
想太郎の忠告にはかまわずに為太郎は続けた。
「この前も話したが万太郎の言葉はすべてお前の潜在(せんざい)意識の中から出ておる。綾乃さんは万太郎が話す言葉や態度からお前の潜在意識の一部を感じているんじゃろう」
「ふーん・・・言葉はつっけんどんだけど心は優しくって私のプライドを考えてくれたって言ってたけどな。俺は万太郎の言葉を聞いても全然そんなふうには思わなかったぜ」
「お前はその綾乃っていう女医さんのことが好きなんじゃな?」
為太郎はちょっとニヤニヤしながら想太郎を見つめて言った。
「別に・・・そんなんじゃないって!ただ学生時代からずっといっしょだから助けてやりたいって思っただけだろ?」
想太郎は身体を横に向けて父親から顔をそらして答えた。為太郎はそんな息子を微笑みながら見つめて言った。
「じゃあ・・・お前は万太郎が綾乃さんを指導するときに何を考えた?優しくしてやりたいとか、プライドを傷つけたくないとか思わなかったか?」
「そりゃあ・・・思ったよ」
「そうじゃろう?その気持ちがお前の潜在意識にあるから万太郎はそれに従って行動した。それをその綾乃さんが敏感に感じ取ったってことじゃな。そうやって何回か変身を重ねるたびにだんだんお前の意思が万太郎に反映されるようになるはずじゃ」
「そういえば・・・俺が綾乃やそばにいた看護師に『よくやったよ』って思ったら万太郎も『よくやった』って言ったよ。そういうことなのか?」
「ああ・・・慣れてくればもっと万太郎はお前の気持ちのままに動くようになる。ただし!患者を助けることが最優先じゃ。お前の気持ちがそれに反するものならば万太郎はお前の言うとおりには動かん」
―やっぱりな・・・俺が万太郎を思い通りに動かすためにはもう少し俺が勉強しないといけないってことだな―
「まあ、これからも時々万太郎に変身してカヤノさんを助けてやれよ」
「カヤノじゃなくってアヤノ!」
第4話(2/3)に続く
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