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2008年10月27日 (月)

スーパーDr.うるとら万太郎:第6話(1/2)

スーパーDr.うるとら万太郎:第6話(1/2)

   第6話 二人きり

   *諸星上機嫌!* 

―あー・・・昨日は散々だったよな・・・万太郎から俺に戻った後も次々と患者が来るし、あいつは相変わらず「どうしましょう、どうしましょう」の繰り返し・・・。まあ・・・簡単な患者ばっかりだからよかったけどな・・・。寝たのは5時だぜ。あー眠いよ・・・―

 朝7時半、想太郎は眠い目をこすりながら医局のソファにぼんやりと座っていた。

「おう!想太郎!元気か?」

 大声であいさつしながら諸星が元気よく入ってきた。

「ああ・・・見たらわかるだろ?元気そのものだよ」

 想太郎はぐったりして軽く右手を上げてた。

「当直ごくろうさん。それから・・・昨日はありがとうな」

 諸星は想太郎の肩を軽くたたいてから自分の机の前に立って鼻歌交じりに白衣に着替えはじめた。

―なんだ?こいつ・・・えらく上機嫌じゃないの。昨日なんかいいことあったのか?昨日は・・・そうだよ・・・思い出したよ。高沢友里にサヨナラを言ったんだよな。そのあとで・・・あー!こいつ・・・ひょっとして、友里っぺと・・・―

「おい、諸星よ。えらく上機嫌じゃないの。なんかいいことでもあったのか?」

 想太郎はソファに座ったままで諸星の顔をにらみつけながら皮肉交じりに聞いた。

「いいこと?ああ、あったよ。聞きたいか?」

 白衣に着替えた諸星は満面の笑顔で想太郎の隣に座った。そして想太郎の手を握って言った。

「想太郎・・・お前は俺のホントの親友だよ。ちゃんと約束守って友里のこと振ってくれたんだな」

―あーやっぱりだよ・・・万太郎が友里にさよなら言って、その後であんたが登場して慰(なぐさ)めたわけね。それから・・・あー考えたくねー!お前の上機嫌から察するとあんたたち最後まで行っちゃったね?俺が「どうしましょう」を聞きながら寝ずに患者を診(み)ていたときにあんたは友里っぺといっしょに寝ずに楽しいことしてたわけ・・・なんかすっげー腹立つぜ!夜中にこいつを呼んでやればよかったよ―

「よかったな・・・諸星よ。目にクマができるほどずっと友里を慰めていたんだろ?」

 想太郎は皮肉のつもりで言ったが諸星には全然通じていないようだ。

「え?まあ・・・そんなところだ。でも今日はお互い眠いけど頑張ろうな!」

―勝手に頑張れよ―

 諸星は想太郎の肩をたたいて鼻歌を歌いながら意気揚々と医局から出て行った。

   *綾乃の誘い*

―あーしんど・・・やっと5時かよ。あと1時間で帰れるぜ。今日は帰ったらすぐ寝て何があっても朝まで起きないからな―

 1日の仕事を終えて想太郎は医局のソファにぐったりともたれかかっていた。

「想太郎」

「なんだ?綾乃か。なんか用?」

「お疲れさん。昨日は大変だったみたいね。今度は万太郎、血管造影して喀血を止めたんだって?すごいわよねー。研修医の女医さんも昨日はホントに勉強になりましたって言ってたわよ」

「ああ・・・そりゃあよかったよ。ホントによかったよな。その女医さん万太郎に会えて」

「あら・・・彼女、万太郎よりも想太郎に感心してたわよ。本当に色々なことを教えてもらったって・・・『私も尾形先生を見習って、できることはまず自分でできるようにする』って言ってたわよ」

 綾乃は想太郎を見て微笑みながら言った。

―あの「どうしましょう」が?俺に感心?何で?まあ・・・言われてみれば昨日は俺も色々勉強したあとだったからテンション上がってたからな・・・ちょっとはいいとこ見せちゃったかもな―

 想太郎はちょっとニヤニヤしながらうなずいていた。

「それでね、想太郎。話は違うんだけど、今度の日曜日私の家に来ない?」

「え?綾乃の家へ?」

 想太郎はびっくりしてソファから飛び起きた。

「うん。今度の日曜は私の誕生日なの。だから想太郎と渡ちゃんと・・・万太郎と4人で食事でもどうかなって思ったんだけど・・・」

―食事?綾乃の家で?行く!俺、絶対行く!―

「でも渡ちゃんは急用でこれなくなっちゃったんだって」

「急用?諸星が?」

「うん。昨日は大丈夫って言ってたんだけど今朝になって急にお友達と用事ができたらしいの」

―今朝になって?そりゃあ・・・今朝じゃなくて夜中にできた用事だろ?多分。それも「お友達と用事」ができたんじゃなくって「用事のあるお友達」ができたんだろうよ―

「じゃあ・・・おれと・・・万太郎だけってこと?」

「うん・・・どう?」

―どう?って・・・俺は二つ返事でOKに決まってるけど・・・万太郎といっしょっていうのは・・・ちょっと無理じゃないかなー・・・―

「ああ・・・じゃあ万太郎にも伝えておくよ。今度の日曜日ね」

「お願いね、想太郎。私、腕によりをかけておいしいものを作るわ」

 そう言うと綾乃はうれしそうに医局を出て行った。

―どうするんだよ?想太郎。万太郎といっしょに綾乃の家へ行くって?そりゃあ・・・物理的に無理じゃないの?まず俺が行って、時間が来たら万太郎に入れ替わるか?そんなイリュージョンみたいなことできるわけないじゃないの。じゃあ・・・どうするんだよ。どっちが行くんだ?綾乃の家―

   *さあ日曜日・・・綾乃の家へ行くのはどっちだ?*

―さあ・・・どうすんだよ。もう11時過ぎだよ。そろそろ出ないと間に合わないぜ。どっちが行くんだ?俺か?万太郎か?綾乃は・・・どっちに来てほしいんだ?そりゃあ・・・万太郎だよな・・・。だって今まで俺や諸星とずっといっしょにいたのに食事に誘われるなんてこと1回もなかったもんな。万太郎が現れたから綾乃はおしゃれもするようになったし誕生日だから俺達といっしょに食事しようって気にもなってるんだよ。本当は万太郎と二人っきりで食事したいんだよな。俺や諸星はいわばおまけっていうか万太郎を誘うための口実って訳だよ。もっとも諸星は今頃、友里っぺと遊園地だけどな―

―いいよな・・・二人でデートなんて。まあ俺も・・・どっちで行くにせよ綾乃と二人きりなんだけどこの重たい気分は何だよ。やっぱり綾乃に隠し事をしてるっていうのがいけないんだよな―

 想太郎は自分のベッドに仰向けになったまま天井を見つめてあれこれ考えていた。

―いつからだっけ・・・綾乃のこと好きになったの。大学の入学式のときに初めて綾乃を見て、きれいな子がいるなって思ったよな。だけど最初はなんかつんつんした感じで嫌な奴って思ってたっけ。入学してから全然話をしたこともなかったけど確かあれは5月ころだよ。雨の日に授業が終わって帰り道にたまたま綾乃が俺の前を歩いてたっけ。そしたら道端に子犬が捨てられてたんだ。雨にぬれて泥だらけで汚い子犬だったけど綾乃は抱き上げて連れて行ったんだよな。きれいな服が泥だらけになってたっけ・・・―

―それからだよ。俺が綾乃のことを気にするようになったの。次の日に勇気を出して話しかけてみたら全然つんつんしたところがなくって俺の冗談にも明るく笑ってくれたよな。俺はいっぺんに綾乃に惚れちゃったんだ。相手になんかされないことはわかってたけどな。あれからもう9年もたつのか・・・俺って9年間ずっと綾乃の事を想ってたわけ?それで、今日始めて綾乃と二人っきりになれるわけか?本当ならすごく楽しい気分になるはずなんだけどな―

 想太郎は仰向けになったままため息をついた。

―いい機会じゃないの。綾乃に本当のことを言おうよ。このまま万太郎になって綾乃をだまして一緒にいたってきっとちっとも楽しくないよ―

 想太郎はポケットから取り出したウルトラアイを見つめていた。

「よし!決めた!想太郎で行くぞ!」

 そしてそう言いながらウルトラアイをポケットに片つけてベッドから身体を起こして身支度(みじたく)を始めた。

―綾乃の誕生日なんだからなんか持ってかなきゃな・・・。しまったな・・・万太郎のことで頭がいっぱいで全然忘れてたよ。もう今から選んでたんじゃ間に合わないよな。しょうがないや。花でも買っていくとするか―

「想太郎。出かけるのか?」

 為太郎が靴を履(は)こうとしている想太郎のうしろから声をかけた。

「ああ。ちょっと友達の家に行ってくるよ」

「そうか。車に気をつけてな」

―あのね・・・俺もう27歳なの。子供じゃないって―

「ああ・・・それからな、ウルトラアイじゃがもう少し改良してやったぞ」

「改良?」

「変身時間を30分延ばしてやったからな。万太郎になって1時間半くらい活躍できるじゃろう」

「ああ・・・そうか・・・助かるよ」

―親父には悪いが俺はもう万太郎にはならねーからな。どーでもいいんだけどな―

   *そしてついに綾乃の家*

―ここが綾乃の家か。やっぱり立派だよ。ちゃんと門があって広い庭があるよ。でも想像してたほどじゃないよな。俺、テレビに出てくるおっきなお屋敷みたいなものを想像してたけど・・・。まあ、大きいけど普通の家じゃないの―

 想太郎は花束を左手に持ち替えて右手でベルを押そうとした。

―綾乃・・・きっと万太郎のこと待ってるんだろうな・・・。万太郎にご馳走するためにきっと今日は朝早くから準備して一生懸命料理を作ってるんだよ。それなのに万太郎がこれなくて俺だけだってわかったら・・・がっかりするだろうな・・・―

 想太郎は右手をベルのボタンの上においたままじっと下を向いていた。

―今日は綾乃の誕生日だよ。なにもこんな日に綾乃をがっかりさせるようなことをしなくってもいいんじゃないのか?本当のことを言うのはまた今度でいいんじゃないの?―

 想太郎は右手を力なく下ろした。

―よし!決めた!今日は綾乃をめいっぱい楽しませてやろうじゃないの!万太郎だ!万太郎で行くぞ!―

 想太郎は花束を持ったまま近くの路地に身を隠した。

―ここなら・・・大丈夫だな―

 そう思いながらポケットからウルトラアイを取り出した。

―今度こそ・・・今度こそ最後の変身だ―

 想太郎は左手を腰につけると小さくつぶやきながらウルトラアイを装着した。

「・・・まんたろう・・・」

 その瞬間想太郎の身体は青白い光に包まれた。光が消えると万太郎(想太郎)は綾乃の家の門に向ってゆっくりと歩き出した。そして道路に止めてあったトラックのサイドミラーをチラッと見つめた。

―また会ったな。色男―

 万太郎はゆっくりとベルを押した。

『・・・どうぞ・・・鍵あいてるわよ』

 スピーカーから綾乃の声が聞こえてきた。万太郎は門をあけて庭へとすすんだ。

―こじんまりとしてきれいな庭だな。なんとなく落ち着くよ―

 玄関の前でドアを開けようとした万太郎はその脇にある大きな物体に気がついた。

―わ・・・!なんだ?こりゃ。ああ・・・犬じゃないの。でっかいの・・・―

 そこには大きな犬が万太郎には見向きもせずにぐったりと寝そべっていた。そのときドアが開いて中から綾乃が顔を出した。綾乃は黄緑色のパステルカラーのシャツに少しスリットの入ったベージュのタイトスカート、それに清潔感のある真っ白なエプロンをしている。

「いらっしゃい。ああ・・・それプータロ。私の家で飼ってる犬なの。大丈夫よ。人畜無害だから。泥棒が入っても寝てるだけなの。さあ入って」

―プータロ?もうちょっとまともな名前をつけてやれよ。綾乃だって人のことは言えないぜ―

 万太郎はプータロを横目で見ながら中へ入った。

―それにしても・・・綾乃の私服姿を見るのって学生時代以来だな。そのエプロン姿、むちゃくちゃかわいいじゃないの―

「あら?想太郎は?いっしょじゃなかったの?」

 綾乃は万太郎の後ろをちらっと見て聞いた。

「ああ・・・すまない。想太郎は親父の仕事で急にこれなくなったんだ。これ預かってきたよ」

 万太郎は手に持っていた花を綾乃に渡した。

「ありがとう」

 綾乃はにっこりと笑って花を受け取った。

「そう・・・そうなの・・・想太郎これないんだ」

 綾乃は残念そうにちょっと下を向きながら花の香りをかいだ。

―よかったよ・・・綾乃が残念そうにしてくれて・・・俺が来なくて本当は万太郎と二人きりになれてうれしいのかもしれないけどな。でも目の前でそんな綾乃を見たら・・・やっぱり悲しいよ―

「悪いな。俺一人で・・・」

「ううん。いいの。でも今日はたっぷり作っちゃったから二人分食べてね。あまりおいしくないかもしれないけどね」

 綾乃は笑いながらそう言うと万太郎をダイニングルームに案内した。

 第6話(2/2)に続く

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