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2008年11月

2008年11月 1日 (土)

スーパーDr.うるとら万太郎:第7話(3/3)完結

スーパーDr.うるとら万太郎:第7話(3/3)完結

   *万太郎は・・・*

「レントゲンできた?・・・大丈夫ね。カテーテルの位置はすべて的確よ。さすが万太郎ね」

 ナート(縫合:ほうごう)が終わった綾乃はレントゲンフィルムを見ながら言った。

「綾乃・・・祐介は・・・どうだ?」

 諸星が聞いた。

「あ・・・ありがとう。大丈夫。今のところ循環動態(じゅんかんどうたい)も安定しているわ。万太郎とあなたたちのおかげよ」

 綾乃は微笑みながら諸星に答えた。

「そうか・・・それはよかった。あとは祐介のがんばり次第だな」

「うん。万太郎は?私、ちゃんとお礼を言わなきゃ・・・」

 綾乃はあたりを見回して諸星に聞いた。

「綾乃・・・君に言わなきゃいけないことが・・・あるんだ」

 諸星が綾乃を見つめて言った。

「なあに?あ・・・想太郎は?想太郎もいないの?どこ?」

「あのな・・・綾乃・・・信じられないかもしれないけど、聞いてくれるか?」

「どうしたの?」

 綾乃はけげんそうな顔で諸星を見上げた。

「万太郎はな・・・想太郎なんだ・・・」

「え?何言ってるの?渡ちゃん」

 綾乃はきょとんとした顔で諸星を見つめた。

「万太郎は想太郎が変身した姿なんだ。想太郎の親父がスーパードクターになれるメガネを発明して、想太郎がそれをかけると万太郎に変身するんだよ」

「????」

「綾乃が信じられないのは無理もない。でもな万太郎と想太郎は間違いなく同一人物なんだ」

「そんなこと・・・信じられるわけないでしょ?」

 綾乃は諸星から目を背けた。

「信じなくてもいいから聞いてくれ!もうひとつ大事なことがあるんだ・・・」

 諸星は綾乃の肩をつかんでこちらを向かせてじっと顔を見つめて続けた。

「想太郎が万太郎に変身するためにはな、72時間の間隔が必要なんだ。72時間以内に変身すると・・・」

 しばらく二人の間に沈黙が流れた。

「・・・どうなるの?」

 綾乃が不安そうな声で聞いた。

「想太郎は・・・死んでしまう・・・」

「死ぬ?」

「ああ・・・君は日曜日に万太郎と会っただろう?」

「ええ。私の誕生日に来てくれたわ」

「今日は何曜日だ?」

「火曜日よ・・・じゃあ・・・」

「ああ・・・あれからまだ2日しかたってないんだ。それなのにあいつは万太郎に変身した。君の弟を助けるために変身しちまったんだ」

「じゃあ・・・想太郎は?想太郎は!どこなの!どこにいるの!」

 白衣の襟にすがりつく綾乃を諸星は黙って隣の準備室に案内した。そのベッドにはぐったりと仰向けになっている想太郎がいた。

「想太郎!」

 綾乃は走りよってベッドの横で膝をついて想太郎の手を握った。

「ああ・・・綾乃か?祐介は?大丈夫か?」

 想太郎は綾乃の声のするほうに顔を向けて聞いた。ウルトラアイをつけている想太郎を見て綾乃は全てを悟った。

「うん・・・大丈夫よ。今のところ血圧も酸素飽和度も安定しているわ。あなたの・・・あなたののおかげよ」

 綾乃は想太郎の手を握り締めながら涙声で答えた。

「そうか・・・よかったな」

 そう答える想太郎の目は綾乃の顔は見ていなかった。

「想太郎・・・あなた・・・目が・・・見えないのね・・・」

 綾乃はじっと想太郎を見つめながら、握った想太郎の右手を自分の頬にすり寄せた。

「ああ・・・でも綾乃の声は・・・よく聞こえるよ。ごめんよ・・・万太郎のこと・・・今まで言えなくって・・・」

「いいの・・・全部渡ちゃんから聞いたわ。ありがとうね。色々と助けてくれて・・・。私のほうこそごめんね。今まで気がつかなくて・・・」

 綾乃は想太郎の右手を涙でぬれた両手でギュッと握り締めた。

―ああ・・・綾乃が俺の手を握っている・・・。俺は・・・綾乃に手を握られながら死ねるんだ・・・。綾乃・・・俺・・・ずっと前からホントにお前のことが・・・好きだったんだよ・・・―

 想太郎は本当に満足そうな顔で仰向けになって綾乃に手を握られたまま静かに最後の時を迎えようとしていた。

 その時、ドアがバタンと開いた。

「想太郎!」

 そこにはあわてて飛んできた父親の為太郎の姿があった。

「想太郎・・・やっぱり・・・。CUPID(キューピット)が急に活動し始めたからもしやと思ったが・・・。お前、万太郎に変身したな?」

「ああ・・・親父か・・・。ごめんよ、約束破っちまったよ」

「ばか!あれほど72時間は変身するなと言ったのに・・・」

 為太郎は想太郎を見つめて言った。

「すみません・・・。想太郎は・・・私のために・・・私の弟を助けるために無理に変身したんです・・・」

 綾乃は想太郎の手を握ったまま為太郎を見ながら涙声で答えた。

「あなたが・・・綾乃さんじゃな?そうか・・・。あんたのために想太郎は変身したのか」

 為太郎は綾乃をじっと見つめた。そして想太郎のほうに目を移して言った。

「でもな・・・想太郎・・・。CUPIDは今オーバーヒートしてしまった。もう取り返しがつかん。お前は・・・二度と万太郎になることはできんぞ・・・」

「????」

「万太郎は二度と復活できん」

「復活って・・・万太郎に変身できないのはわかるけど・・・俺はどうなるんだ?」

 想太郎は父親の声のするほうを向いて聞いた。

「お前?お前はまたもとの無能な内科医に逆戻りじゃよ」

「無能な内科医?俺は?俺は死ぬんじゃないのか?」

 想太郎は父親の声がするほうに向って言った。

「おまえが?死ぬ?何でお前が死ぬんじゃ?」

「だって・・・72時間以内にウルトラアイをかけたら命はないって言ったじゃないか!」

「命がないのはスーパードクターじゃろ?何でお前まで死ななきゃいけないんじゃ?」

 為太郎はあきれた顔で想太郎を見ながら言った。

「死ぬのは万太郎だけ?じゃあ・・・俺は?」

「だから・・・元の無能な内科医に逆戻りだって」

 部屋の中には沈黙が流れた。

「・・・俺は・・・助かるのか?でも・・・俺、目が見えないぜ」

「目が見えん?そりゃあお前、大事そうにそのウルトラアイをつけたままにしているからじゃろう?CUPIDが飛んじまったんだからそこからは何も見えてこんのは当たり前じゃろ?」

 為太郎はあきれた顔で言った。

―なんだって?俺は死ななくって、この目もウルトラアイをはずせば見えるようになるって?それじゃあ・・・このシリアスな状況・・・どうすんのよ?俺はどんな顔して綾乃の顔を見ればいいのよ?―

「これをはずせば・・・見えるってか?」

 想太郎はウルトラアイをゆっくりとはずして綾乃の顔を見つめた。

「・・・やあ・・・綾乃・・・」

「見えるの?想太郎!」

「ああ・・・見えるよ・・・。綾乃、相変わらず・・・きれいだな」

 想太郎はちょっとばつが悪そうに綾乃の顔を見つめた。

「想太郎!」

 綾乃は両手で握っていた想太郎の手を離して泣きながら想太郎の胸に抱きついた。

―あ・・・綾乃・・・怒らないの?―

「まあ、今晩は体がだるくって動かんじゃろうな。でも明日になれば体内の老廃物が処理されてまた大量のガスが出るはずじゃよ」

 為太郎が想太郎を見ながらニヤニヤ微笑みながら言った。

「ああ・・・やっぱり明日になれば屁が出るのか?」

 想太郎は綾乃に抱きつかれたまま父親のほうを向いて聞いた。

「その通りじゃ。しかも今回はとびっきりのがな」

「覚悟しておくよ。でも親父よ・・・悪かったな。あんたの一世一代の発明を台無しにしちまって・・・」

「そんなことはどうでもいいんじゃよ。わしはお前の役に立てればそれでいいんじゃ。それに・・・ちょっとは役に立ったような気が・・・するんじゃがな・・・」

 為太郎は想太郎に抱きついている綾乃を見て満足げに微笑みながら言った。

「まあ・・・ぐうたらな息子じゃがこれからも力になってやって下さるか?カヤノさん」

「あ・・・はい・・・。あの・・・綾乃・・・ですけど・・・」

    *さようなら万太郎*  

 それから数日間、想太郎はガスがたまって張った腹と臭い屁に悩まされたが日曜日にはやっと元気を取り戻した。

「なあ親父よ。あのシステムはあんたが作ったんだろ?だったらまた同じものが作れるんじゃないのか?俺はもう万太郎になるつもりはないけど、しかるべき人間がちゃんと使えばすごく役に立つ発明だと思うぜ」

 想太郎は実験室で作業をしている父親に向って言った。

「ああ・・・確かにわしが作ったシステムじゃよ。しかしな、あれは二度と作れんのじゃ」

 振り向いた為太郎が笑いながら言った。

「なんで?」

「あのウルトラアイはな、わしも父親から、つまりお前のじいちゃんから譲り受けたんじゃよ。もっともわしの場合はスーパードクターではなくってスーパー発明家じゃったがな」

「じいちゃんが?」

「ああ。それをかければ今までの偉大な発明家の頭脳が1時間だけわしの頭の中に入り込んでくるって代物(しろもの)じゃ。しかしな、わしが貰ったものはお前に渡したよりもはるかに未完成でな、たった一回しか機能しないんじゃよ。わしはそのウルトラアイを半信半疑でずっととっておいた。しかしお前が医者になって色々と苦しんでいるのを見てお前のために使ってみようと思ったんじゃよ。わしは恐る恐るウルトラアイをかけてみた。するとその瞬間わしの身体は青白い光に包まれてわしの頭の中には宇宙全体が広がった。わしは大急ぎでこのCUPIDシステムの基本を作り上げたんじゃ。しかし1時間後にウルトラアイは輝きを失ってただのメガネになってしまった。そこからはわしが独自に作り上げたがな」

 為太郎はちょっと得意げに言った。

「じゃあ・・・その基本システムは今の親父にも二度と作れないって事?」

「そういうこと」

 為太郎は作業を続けながらあっけらかんと答えた。

「ふーん・・・でもじいちゃんは、誰にウルトラアイを貰ったんだ?」

「なんでも・・・宇宙人に貰ったって言ってたぞ」

 為太郎は想太郎のほうをふりむかずに平然と答えた。

「・・・・」

―聞くんじゃなかったよ。まあ・・・そういう事にしとくか。俺も親父を見習って細かいことは考えないことにするよ。でも・・・やっぱり万太郎には・・・もう会えないんだな―

「あばよ・・・色男。色々とありがとうな」

 想太郎は上を向いて小さな声でつぶやいた。

   *エピローグ*

―それからの毎日は全く以前と同じように過ぎて行った。俺はまた無能な内科医に逆戻りをしたわけだが以前とちょっと違うのは、わからないことは自分でまず何とかしてみようって気持ちがほんの少しだけ出てきたことだ。不思議なもので、今まで俺は自分のことを能力の劣った無能な医者だと思っていたが、自分であれこれ勉強していると俺にも色々なことができるのに気がついた。そして自分が努力したことで患者さんがよくなってくれると本当にうれしい気分になるってもんだ。今日は苦手な症例検討会だけど今までほどにはブルーな気分じゃないんだぜ―

「次、尾形先生」

 真田医局長の声が想太郎を呼んだ。

「はい!」

 想太郎は元気に返事をして手元の資料をさっと手にとってプレゼンテーションデスクに向った。

―これからは何があっても、もう万太郎にはなれない。でも、たとえもう一度万太郎になれるとしても俺にはそのつもりはないぜ。たとえどんなつらいことがあっても、もう万太郎の力を借りようとは思わない。だって・・・幸せってものは『他人(ひと)から与えられるものじゃなくって自分の力でつかむもの』だからな。そうだろう?綾乃―

 想太郎はプレゼンテーションデスクの椅子に腰掛けながら、こちらを見つめている綾乃をチラッと見て微笑んだ。綾乃は想太郎を見つめながら左手の親指をちょっと上に向けて「がんばれ」と合図して、微笑みながら小さくウインクした。

「症例は84歳女性。主訴(しゅそ)は呼吸困難です。この患者さんは色々と調べた結果、チャーグ=ストラウス症候群という・・・・・」

 想太郎の元気な声が症例検討室に響き渡った。

(スーパーDr.うるとら万太郎 終わり)

この物語はフィクションです。登場する人物、背景に特定のモデルはありません。

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