玉手箱(1/3)
本日からおとぎ話の「浦島太郎」をモチーフにしたタイムトラベル小説「玉手箱」を3回にわたって掲載します。
表現も稚拙でこじつけも多く、今読み返すと笑ってしまう部分もあるのですが、それなりに感動的で、不覚にも自分の小説を読んで少々涙してしまいました。
玉手箱(1/3)
愛し合う二人も時の流れが違ってしまうと・・・
***********
「音葉(おとは)様!不時着します!」
ズーン!!!大きな音とともにドラゴンシップはある島の海岸に不時着しました。
「どこだ?どこに降りた?」
「はい・・・正確にはわかりませんが・・・西暦800年代の・・・日本のどこかの小さな島の海岸のようです」
「タートル。シップの被害状況を調べてくれ」
「かしこまりました。音葉様」
音葉と呼ばれた若い女性はシップの司令室に座ってタートルの報告を待ちました。まもなく亀のような顔を持ち人間の身体を持ったタートルが調査から戻りました。
「被害状況を報告します。三次元空間飛行は不能、マイナス方向への時間飛行も不能になっています。唯一プラス方向の時間飛行はかろうじて可能です」
「そうか・・・すると我々はここから一歩も動けず、移動できるとしたら未来の同じ場所へ行くしかないということだな。これで光樹(みつき)の追跡は難しくなった。今攻撃されたらひとたまりもない」
音葉がくやしそうに言いました。
「しかし音葉様。光樹様のドラゴンシップも性能は我々と同じです。さっきの亜空間での衝突で我々と同じように相当のダメージを受けているはずです。多分この近くに不時着しているのではないかと・・・」
タートルが答えました。
「その可能性もあるな。せめて光樹のドラゴンシップが時間飛行さえできなくなれば必死になって追いかける必要もなくなるのだが・・・」
「私がこの周りを偵察してまいります」
「十分気をつけて行ってくれ。それとこの時代の人間には影響を及ぼしてはならん」
「かしこまりました。もし光樹様を見つけたら何とか説得してみます」
ドラゴンシップを出たタートルはあたりを見回しました。そこはきれいな砂浜で波の音だけが聞こえています。さっきの亜空間での衝突事故の痕跡すらありません。タートルはふと浜辺を見やると、よろよろと歩いている人影を見つけました。
「いた!光樹様だ!怪我をしているらしいぞ。今なら俺の話を聞いてくれるかも・・・」
タートルは足早に砂浜を駆けて人影の後ろから近づきました。
「光樹様!」
その声を聞いた大柄な男は後ろを振り向きました。
「タートルか・・・お前たちもここに降りたのか。音葉も一緒か?」
「はい。音葉様もご無事です。光樹様!もうおやめください。我々と一緒に2896年に帰りましょう」
「ふふん。余計なお世話だ。一緒に帰ろうということはお前たちの船もまだ時間飛行ができるらしいな。あいにく俺の船もだいじょうぶだぜ。まあちょっと修理は必要なようだがな。ドラゴンシップはメインコンピュータさえ無事ならばある程度の損傷は自分で治してしまう。音葉の死んだ親父さんが俺に作ってくれたものだがすばらしいマシンだ。俺は自分の好きなように使わせてもらう」
「博士は平和利用のためにドラゴンシップを設計されたのです!今の光樹様のように自分の私利私欲のために使うべきものではありません」
「俺も最初はそのつもりだったさ。しかし俺は何回か過去へ跳んだが、そのたびにドラゴンシップの力の大きさに驚かされた。俺はどの時代に行っても神のようにうやまわれ大きな権力を持つことができた。あんまりいごごちがいいので、つい何十年も過去を飛び回って暮らしてしまったがな。いまじゃ音葉と俺の歳の差は20才くらいあるはずだ。俺にとってあいつはもう20年前の過去の女だ」
「音葉様もいまさら光樹様と一緒に暮らそうとは思っておられません。ただドラゴンシップを悪用することをやめてほしいと、それだけなのです」
「ふん。俺だけをパイロットにしておけばこんな面倒なことにはならなかったんだ。2隻目のドラゴンシップを作って音葉にも同じ力を与えたのが間違いなんだ」
「博士はドラゴンシップを悪用されないように最初から2隻設計されたのです。そしてその心配は当たってしまいました」
「俺は完全には信用されていなかったってことだだな。年月というものは人の外見だけではなく気持ちまで変えてしまうものだ。博士もそのことがよくわかっていたらしい」
「そんなことは・・・」
タートルが言い終わる前に光樹の右のこぶしがタートルの頬をとらえました。倒れたタートルはすぐさま光樹の足に飛びつきました。二人は砂浜に転がり激しい攻防が繰り広げられました。しかし体格で上回る光樹がタートルの上に乗り、今まさに、そばにあった岩でタートルの頭を砕こうとしていたとき・・・ガツン!光樹の頭を何者かが後ろから釣竿で殴りました。
「弱い者いじめをするでない!」
光樹は自分の頭を押さえて痛みをこらえながらこの土地の漁師らしいその若い男を思い切り殴りつけました。その男は5メートル向こうに飛ばされ気を失ってしまいました。タートルはそのすきを突いて光樹に後から蹴りを入れました。光樹は一瞬ひるんでタートルのほうへ向きなおりましたが、頭を押さえてそのまま一目散に走り去っていきました。タートルは光樹を追いかけようとしましたが自分も足を痛めていたので、あきらめました。
「しまった。この時代の人間を傷つけてしまった。おい、君!大丈夫か!」
しかしその男は微動だにしません。息はしています。脈も触れます。頭を強く打って脳震盪を起しているのでしょうが、ひょっとしたら頭の中に出血しているのかもしれません。すぐに手当てをしないと・・・。タートルはその若い男をドラゴンシップへ運びました。
「音葉様、申し訳ありません。この時代の人間を傷つけてしまいました」
タートルは意識を失ったその男をドラゴンシップの治療ベッドの上に寝かせました。
「意識がないのか・・・まだ年のころは二十歳そこそこではないか。すぐ頭部のスキャンを行ってくれ」
音葉がタートルに指示を出すとタートルはスキャンの機械を操作し始めました。
「音葉様、やはり急性硬膜外血腫のようです。直ちに血腫除去を行わないと」
「よし。すぐ治療システムに移してくれ。意識を取り戻すまでにどれくらいの時間がかかる?」
「約3日間です」
「光樹のドラゴンシップもかなりのダメージを受けているはずだ。修理にはある程度時間がかかるだろう。その間にせめて三次元空間飛行装置だけでも修理を急いでくれ。今攻撃を受けたら未来へタイムワープするしか選択肢がない。この男を連れたままではそれも不可能だ。ところで・・・こちらのパルスミサイルは使えるか?」
「はい。ミサイルは何とか・・・使用可能のようです」
「よし。メインコンピュータに男の治療とシップの修理を急がせろ」
「はい。しかし音葉様、三次元空間飛行エンジンの修理はドラゴンシップがオートで行いますが、時間飛行エンジンの修理は・・・博士がいないと・・・」
「すると父が死んだ今となってはこの船は二度と過去へ戻ることはできないということだな・・・」
そして3日が過ぎました。
「男の具合はどうだ」
音葉がタートルに聞きました。
「はい、順調です。もう1時間もすれば目を覚ますかと・・・」
タートルは男を見つめながら答えました。
「この男には申し訳ないことをしてしまった。丁重にもてなして元のところへ返してやらねば。それにしても・・・美しい顔をしている」
音葉も男の顔をじっと見つめました。
「私の命の恩人です」
「ドラゴンシップの修理はどうだ?」
「あと2時間くらいで終了します。そうすれば三次元空間飛行は可能となります」
ズーン!!!!!
二人は大きな音とともに大きな振動を感じました。
「どうした!」
「光樹様のドラゴンシップです!もう修理が終わったようです!ミサイルで攻撃してきます!」
「応戦しろ!」
「はい!」
ズーン!!!!
その時また大きな音と振動が襲いました。
「音葉様!狙い撃ちです!このままではやられます!」
「やむをえん!タイムワープしろ!」
「え?でもこの男は・・・」
「このままでは、どの道3人とも命はない。どこまでいける?」
「今の状態では50年単位でしか跳べません」
「50年か・・・よし、ありったけのミサイルを光樹のシップに発射してすぐにタイムワープだ!運がよければどれか命中するだろう」
激しい音と振動の中で3人を乗せたドラゴンシップは海岸から跡形もなく消えました。
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