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2009年7月

2009年7月31日 (金)

お嬢さんをください

私には3人の娘がいますが、いつかはこんなことを言ってくるヤローが出てくるのでしょう。

こんなときのせりふの定番は

「お嬢さんを必ず幸せにします」

と言う言葉ですが、この言葉には明らかに二つの間違いがあります。

まず「必ず」と言う言葉がありえません。

物事には絶対なんていうことはありえません。

なぜ「必ず」なんていう言葉が出せるのでしょうか?

正確に言うならば

「私はお嬢さんをかなりの確率で幸せにします」

もしくは

「私はお嬢さんを現時点では幸せにしたいという気持ちを持っています」

と言うところでしょう。

次に「幸せにする」という言葉が疑問です。

「幸せ」というのは人から与えられるものではなく自分で努力してつかむものでしょう。

自分が努力せずに他人に幸せにしてもらうなんていうことはありえません。

これも正確に言うならば

「私はお嬢さんと一緒に幸せになる努力をします」

という言い方になるでしょうか?

これらをあわせると

「私は現時点では、お嬢さんと一緒に幸せになる努力をするという気持ちを持っています」

ということになるでしょう。

これが正確な気持ちでしょうが、もし、目の前でこんなことを言うやつがいたら

「バカヤロ!顔洗って出直して来い!」

という感じでしょうか?

対話と言うものは「自分の気持ちを正確に表現すること」よりも「自分の表現が相手にどういう印象を与えるか」のほうがはるかに重要なことです。

ですから、たとえ真実ではなくても

「お嬢さんを必ず幸せにします」

と単純に言ったほうがいい結果が出るものです。

でも

「バカヤロ!顔を洗って出直してこい!」

と言われて、すっと席を立ったヤローが・・・

「出直してきました!」

と、水しぶきがついた顔で戻ってきたら・・・

「(娘を)もってけよ・・」

と苦笑して言ってしまいそうです。

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2009年7月28日 (火)

「悪魔の手」

今日は前回とは逆の「悪魔の手」のお話です。

手を触れただけで誰でも殺せる「悪魔の手」。

誰を殺しても証拠は残らない。

そんな「悪魔の手」を手に入れたらあなたはどうしますか?

「気に食わないやつを片っ端から殺したい」

それとも

「法律ではさばけない悪いやつらを俺が一掃してやる」

そんなことを考えますか?

これはまさに「デスノート」の「キラ」です。

「キラ」は犯罪のない理想の社会を作るために悪人を次から次へと闇に葬って行き、その結果、社会から犯罪が激減します。

しかし「キラ」がどういう結末を迎えたかは・・・

多くの皆さんがご存知のことと思いますので、ここではあえて触れません。

「悪魔の手」を持った人間が悪を一掃しようとすることは一見すばらしいことに思えますが、どうして問題がおこるのでしょうか?

それは「悪」を選別するためには「正確な事実認識」と「公正な社会的判断」が不可欠だからだと思います。

個人が行った行為を正確に認識し、その行為が公正な立場の人たちから「社会的に悪」であると判断されて始めて「悪魔の手」を使うことが許されるのであり、決して個人の判断で使用されるべきものではありません。

すなわち「悪魔の手」は「神の目」と「神の判断力」を伴ってこそ初めて社会に受け入れられるのです。

ではこの3つを兼ね備えたシステムが機能するようになったとしたら・・・

社会からは犯罪が消えて幸福な理想社会になるのでしょうか?

そのようなシステムが究極まで発展したとしたら・・・

こんなお話はどうでしょう。

――――――――

「悪魔の手」

2xxx年。犯罪抑止法の成立に伴い、シティの全ての人間は生まれるとすぐに脳に微小チップを埋め込まれることになった。

このチップから全ての個人の知覚と思考が中央のマンモスコンピュータ「ビーナス」にリアルタイムで送られる。

個人の行動は全てビーナスに監視されることになるので犯罪行為を行えば、個人が容易に特定され、正確な状況再現が行われることになる。

それどころか犯罪行為を計画しただけでビーナスの知るところとなり、事前に警察権力を関与させることさえできる。

さらにビーナスが危険と判断すれば個人に埋めこまれたチップを遠隔操作して脳の全機能を停止させることもできるのだ。

ビーナスの管理により、人間には犯罪行為を行うことに対して強い抑止力が働いている。

シティでは犯罪行為はほとんどなくなり、人々は平和に暮らしている。

さらにビーナスにより個人の全ての情報は一元管理されている。

そして最もトラブルが少なく、建設的にシティが発展するように人々の行動は規制されている。

「あなた・・・誰?」

サヤカは台所にいる見知らぬ男に声をかけた。

「やあ・・すまない。あんまり腹がへったもんで・・ちょっとお邪魔したよ」

カイジは冷蔵庫のソーセージをほおばりながら挨拶した。

「どこから入ったの?」

「そこの窓が開いてたから・・・」

「そんなことしてあなた・・・ビーナスに感知されて捕まるわよ」

「ビーナス?」

「あなた・・異端者ね・・」

シティに属さず、山や森で暮らすものたちの集団は異端者と呼ばれる。

シティの管理からはずれ、独自に農耕や狩猟を行って生活している。

異端者はシティの中では警察権力行使の対象となるので普通はシティの周辺に現れることはない。

捕らえられた異端者は脳に微小チップを埋め込まれることになる。

「ふーん・・・じゃあ、あんたたちの生活はそのビーナスっていう機械が監視しているのか?」

「そうよ。そのおかげで私たちは平和な生活が送れるのよ」

「でも自由に外に出たり、酒を飲んだりはできないんだって?」

「夜間の外出は許可がなければ原則として禁止よ。アルコールは1日に1杯だけに規制されているわ」

「食べたいものも自由に食べれないのか?」

「その人に合わせた基準栄養素の範囲なら自由よ。肥満や生活習慣病にならないようにビーナスが管理してくれるのよ」

「あんたたち、それで幸せ?」

「確かに窮屈なこともあるけど、ビーナスが決めたことだから・・・」

「なぜ人間が自分で決めないんだ?なぜ機械に管理されなくちゃいけない?」

「あなたたちの社会では規則はないの?」

「規則はちゃんとあるさ。俺たちはチーフが決めたことはきちんと守る。でもそんな細かいことは言わない。他人と争うなとか、困っている人を助けろとか・・・・・・かな?うまいものを食うな、なんてことは聞いたことないぜ」

「そのチーフって言う人が厳しい規則を作ったら?どうするの?」

「チーフに意見があればみんなで相談する。そしてみんなが納得した規則に作り直すんだ。機械の意見なんていらない」

「あなたたちの世界には犯罪はないの?」

「そりゃ、けんかすることもあるけど、ちゃんとかげんするし、明日になればみんな忘れている。食べ物はみんなで分けるし、病気や年をとって働けなくなったやつは他のみんなが助けてやる。家に鍵はあるがそれは動物から身を守るためだけだ。」

「友達もいっぱいいるの?」

「ああ・・・君は?」

「私が話していい人間はビーナスが決めるの。趣味や性格が合って争いにならないような人たち。そんなに多くないけど・・」

「ふーん・・・恋人は?」

「まだ決められていないの」

「決められていない?それも機械が決めるのか?」

「結婚してうまくやっていける人をビーナスが・・・」

「わかったわかった・・・俺にはとても考えられないぜ。ああ・・・そろそろ行くよ。今から海を見に行くんだ」

「海?こんな夜に?」

「俺は夜の海が好きなんだ。波の音しか聞こえなくて、どこまでも広がる空には星がいっぱいだ。まるで宝石箱の中にいるようだぜ」

「そうなの・・・」

「よかったら一緒に行くか?」

「ダメよ!私の行動は・・・」

「ビーナスさんに監視されている・・・か?」

カイジはちょっと間をおいて言った。

「じゃあ・・・俺がそのビーナスっていうのを壊してやろうか?」

「何言ってるの?」

「なあに、壊すって言ったって爆発させるわけじゃない。機械なんて基盤の一つも壊してしまえばまともに動かないさ。まあ、半日で修理されるがな・・」

「ダメよ!あなた、殺されるわよ!」

「俺の頭の中にはチップなんて入っちゃいない。俺の行動はビーナスさんもわからないさ」

そういいながらカイジは窓から思い切りよく飛び出した。

ほんの100mほど走ったカイジの背中を突然鋭い痛みが襲った。

草むらの上に倒れたカイジはもうろうとしていく意識の中で集まってくる警官たちが無線で話す声を聞いた。

「麻酔で眠らせました。異端者です。ビーナスの破壊は食い止めました。今からチップ埋め込みに向います」

・・・どうして・・・どうして俺の行動が・・・

カイジの姿や声はサヤカの脳に埋め込まれたチップからビーナスにリアルタイムで送信されていた。

「悪魔の手」 終わり

ーーーーー

人間の中に存在する「悪」が究極まで抑制されたら、人生なんてカスみたいな物?

オヤジじゃなくても人間は「チョイ悪」がいいでしょうか・・・

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2009年7月27日 (月)

「神の手」

手を触れただけでどんな病気でも治せる神の手を持った男

手を触れただけで誰でも殺せる悪魔の手を持った男

先日何気なくテレビを見ていたらこんなドラマが始まりました。

つい1時間見入ってしまいましたが、この先の展開が楽しみです。

ところで、あなたはどちらの手を持ちたいですか?

「どんな難病の人でも治せるなんてすばらしい!私は神の手を持ちたい!」

そんなあなたのためにこんなお話を作ってみました。

―――――――――

「神の手」

俺はつい3ヶ月前までは、片田舎の平凡な開業医だった。

何の能力もなかった俺がどうやって「神の手」を手に入れたのか・・・

それはここではあまり重要なことではないので、あえて話さないでおこうと思う。

しかし「神の手」を手に入れた俺が今、どこでどんな生活をしているのか・・

多分あんたたちにも興味があることだと思うので、これから少しだけ話をしたい。

俺が手に入れたのは、どんな癌でも触れただけで治せる「神の手」だ。

俺が患者に手をかざせば俺の手が患部を感知し、特殊な放射線が放出されて癌細胞を特異的に破壊する。

腫瘍は面白いように消える。

表面の小さな腫瘍ならものの5分。

内臓の腫瘍でも30分も俺が手をかざせば跡形もなく消え去る。

評判は口コミであっという間に広がった。

「あと何人?」

すでに午後8時をまわっている壁の時計を横目で見ながら俺は看護師に聞いた。

「今日の予約はあと二人です」

「もう今日は疲れたから明日にしてもらってよ」

「ダメですよ先生。明日も朝8時から予約でいっぱいです。この人たちも1ヶ月前からの予約の人たちなんです」

「わかったわかった・・・」

俺はしぶしぶ次の患者を呼びいれた。

最初は俺も得意になって片っ端から治してやっていたさ。

テレビや雑誌の取材にも得意顔で答え、きれいな女優さんとの対談も体験したし・・

夜の街に繰り出せば俺の周りにはきれいなホステスがどっと集まってきた。

しかし有名になると加速度的に患者は増えていった。

満足に飯も食えず、休みもない毎日に俺はほとほと嫌気がさしていった。

そんな俺の前にある日、黒塗りの車に乗った恰幅のいい男が現れた。

「おれを政府の機関に?」

「はい。あなたのすばらしい能力は国家の、いえ、人類の貴重な財産です。このようなところで診療をしていてはあなたがつぶれてしまいます。政府の管理が必要です」

そんなわけで俺は予約の患者を全てキャンセルして診療所を離れ、大きなビルの一角に入ることになった。

そこで俺が毎日治療するのは政府の要人と財界の有名人そしてテレビでよく顔を見る外国人たちだった。

彼らがどれだけの報酬を支払っているのかは知らないが、俺には十分な給料と、ビルの一角に快適な住居が与えられた。

そこで俺は朝8時から夜8時まで決められた患者の診療を行っている。

希望するものは何でも与えられ、食事時間は一応確保され、週に半日の休暇も与えられるが、外出は一切許されない。

俺が外に出ればあっという間に癌の患者に囲まれて身動きができなくなるからだそうだ。

そして俺という人間が存在することは日本の表社会からは抹消されたらしい。

「神の手」を手に入れた代わりに俺は、自由な人間らしい生活を奪われ、日本政府が所有する治療マシーンに成り下がったわけだ。

あんたたちの中で俺の「神の手」が欲しいやつがいたら喜んで譲ってやるよ。

「神の手」 終わり

ーーーーーーー

「神の手」を手に入れて幸せになれるのは、私利私欲を捨てて他人のために奉仕できる人間だけのようです。

もっともそのような人たちは神の手なんかなくても幸せなんですけどね・・・

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2009年7月22日 (水)

私は「  」で死にたい・・

昨日の続きです。

ここから読んだ方はまず昨日のブログからお願いします。

ーーーーーーーー

日本人の6大死因。

癌、心疾患、脳卒中、肺炎、不慮の事故、自殺・・・

このどれかで死ななくてはならないとしたら、あなたはどれを選びますか?

心疾患が一番楽に死ねていいけど・・あとのことも気になるし・・・

交通事故なら保険料が多くなるから家族にはいいかも・・・

癌ならゆっくり後始末ができるけど、死ぬのをまつのが怖いし・・・

それくらいなら自殺がいいかも・・・

ーーーーーーーー

私がこのどれかで死ななくてはならないとしたら・・・

「私は癌で死にたい」と思います。

癌なら死を宣告されてもまだ少し時間的な余裕があります。

その間に身の回りのことをきちんとして・・・

遺書も書いて家族にもお別れを言って・・・

温泉にも行きたいし・・・

それに死ぬ間際も麻薬を使ってるからつらくないように死ねるし・・・

・・なんて考えてしまいます。

ただ、夜中に目が覚めると・・毎日死の恐怖にさいなまれるのではないかと思います。

でも本当は・・・・・・

「私は自殺で死にたい」と思っています。

自分のものなのに自分が自由にできないもの・・・それが「命」です。

私は最後を向えるとき、まだ意識があるうちに家族を集めて・・・

「今までありがとう。じゃあ、今から逝くから・・」

と言って自分で毒薬を飲んで死にたいな・・と思います。

もちろんこんなことは今の日本の社会と文化では認められていませんが、わけがわからなくなって数日生きるより、分別がある間に自分の意思で最後を迎えたいと思うのは私のわがままでしょうか?

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2009年7月21日 (火)

あなたは・・なにで死にたいですか?

1)癌

2)心疾患

3)脳卒中

4)肺炎

5)不慮の事故

6)自殺

日本人の死因の多いものから順に挙げました。

あなたはこのうち何で死にたいですか?

ーーーーーー

たとえば次のようなケースを考えてみてください。

1)癌:いきなり末期がんと診断されて3ヵ月後に死亡

2)心疾患:急に胸が痛くなり、救急車で運ばれたが途中で意識がなくなり病院で死亡

3)脳卒中:突然くも膜下出血となり意識消失。治療の甲斐なくそのまま意識が戻らず2週間後に死亡

4)肺炎:インフルエンザにかかり、肺炎を併発。入院するが徐々に悪化して2週間後に死亡

5)不慮の事故:交通事故で即死

6)自殺:自分で毒薬を服用して死亡

ーーーーーーーーー

死は誰にでも必ず訪れます。

あなたがこのどれかで死ななくてはならないとしたらどれを選びますか?

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2009年7月12日 (日)

「五感の報酬」(3/3)

「五感の報酬」の最終話です。

いよいよ主人公は最後の視覚を失い、全感覚が麻痺することになります。

テストは合格するのでしょうか?

    

********

         

13日目、ついに最後の視覚を失う日が来た。

「大丈夫ですか?まだ続けますか?」

純子が紙に書いて見せた。

「大丈夫じゃないがあと3日だからやってくれ!」

「これであなたは全ての感覚を失うことになります。今から3日間、あなたは周囲に起こったことを何一つ感じることができません。もちろんこの状態では食事や排泄もできませんのであと3日間このままここで生活していただきます」

純子の書いた紙を見て俺は無言でうなずいた。

何も見えない・・何も聴こえない・・俺の前に何があるかもわからない

俺がどこにいるのかも・・

誰かが俺に触れていても俺にはわからない。

この世の中で俺は全く一人きりだ。

俺には多分点滴で栄養が補給されている。

排尿は?

尿道に管が入っているのか?

排便は?

考えるのはよそう・・・

今何日の何時だ?

あとどのくらい耐えれば元に戻れる?

戻れるのか?

ひょっとして・・・このまま戻れなかったら・・・

このまま一人きりでずっと過ごさなくてはならないとしたら・・・

とてつもない恐怖感が俺を襲う。

それから俺は色々な幻聴や幻覚に悩まされることになった。

感覚は麻痺しているはずなので何も聴こえない、何も見えないはずだ。

しかし聴こえる!見える!

もうやめたら?

馬鹿じゃないの?

殺してやる・・・

恐ろしい殺人鬼

冷たい顔の女

無関心なエリートたち

俺はどこにいる?

いまはどの時代?

何のため?何のため?何がある?

俺は誰?

感覚?

純子です・・純子です・・・じゅんこです・・・

あならいず・・あならいず・・・かぶしきがいしゃぶれいんあならいず・・・

不幸でしょう?不幸だから・・不幸・・

あなた不幸でしょう?不幸なんでしょう!

無能・・・むのう・・・無能だから・・・

なぜいきてるの?ねえ・・・あなた・・・いきてるの?

そのまま俺は気を失っていった。

********

目が覚めるとそこはベッドの上だった。

「おはようございます」

俺の目に純子の美しい顔が映った。

「おはようございます。テストは無事終了しました」

「おれは・・・どうなったんだ?」

「最終日に気を失ってしまったんです。あれから丸1日たっています」

俺は辺りを見回した。

窓からは心地よい風が注ぎ込み、緑の木々の間から朝の光がこぼれている。

遠くから小鳥のさえずりが聴こえる。

見えるもの聴こえるもの全てがなつかしい。

「コーヒーいかが?」

「ああ・・・もらうよ」

香ばしい香りが15日ぶりに俺の嗅覚を刺激する。

「ああ・・・おいしい」

久しぶりに手に触るカップの感触がいとおしい。

「それで・・結果ですが・・」

純子がレポートを取り出しながら切り出した。

「え?」

俺は一瞬何のことかわからず純子を見つめた。

「あの・・・テストの結果ですけど・・」

「ああ・・・テストね・・」

「はい。見事に合格です」

「そう・・・」

「これであなたは超人的な感覚を身につけられますよ!」

「ああ・・・それはよかった」

俺はコーヒーを一口すすった。

「・・・でも・・・いいよ」

「え?」

「そんなものはいらないよ」

「・・・どうしてですか?」

純子が不思議そうに俺の顔を覗き込む。

「俺は今のままでいいんだよ」

「・・・不思議です・・・」

「何が?」

「このテストに合格した人たちは皆さんおなじことを言われます」

「俺の他にも合格した人間がいるのか?」

「はい。みなさん口をそろえたように今のままでいいと・・・」

「そうか・・」

「どうしてでしょうか?」

「さあ・・どうしてかな?」

******

俺は純子に見送られてビルの外へ出た。

明るい日差しが俺の目に眩しい。

「あの・・・」

「え?」

俺は純子の声に振り返った。

「テストに合格した方は・・・皆さん社会で成功しておられます」

純子が笑顔で言った。

「そう・・」

俺は初夏の香りを感じながら並木道を歩いた。

多分・・・俺には・・・できることがたくさんあるような気がする。

 「五感の報酬」 終わり

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2009年7月11日 (土)

「五感の報酬」(2/3)

「五感の報酬」の2回目です。

いよいよ主人公はその五感を一つずつ失っていくことになります。

    

********

    

いよいよテストの当日になった。

失う感覚の順番は自分で決めることができるそうだ。

散々悩んだあげく俺は「嗅覚、味覚、触覚、聴覚、視覚」の順番にした。

においなんて鼻が詰まってりゃわかんないし・・・

大して重要な感覚じゃないだろ?

味覚だってうまいもん食うわけじゃないからどうでもいいでしょ?

でも熱いとか痛いがわかんないとあぶないよな・・

それに目が見えないってのは最後まで勘弁して欲しいよ・・

変な機械を頭にかぶりながら俺はそんなことを考えていた。

*******

においがわからない生活は以外に不便だった。

まず味がしない。

食いものってのはにおいがなかったら味がしないもんだ。

好きなハンバーガーを食べてもしょっぱいだけでうまいとも感じない。

奮発してメロンを食べてみたが砂糖水をなめているようなもんだ。

*******

「どうですか?臭いのない生活は?」

「思ったより大変だぜ。これがあと12日続くと思うと気がめいるよ」

「じゃあ今日から味覚を停止します」

*******

味もにおいもわからない生活は一言で言うと・・・

「バカヤロー!」

て感じか?

飯がぜんぜんうまくない(あたりまえか)!

何を食っても砂を噛んでるみたい。

それ以前に食いもんが腐っててもわからん!

俺は早速冷蔵庫の生ものを全部捨ててインスタント食品だけを買い集めた。

********

7日目さらに触覚を失う日が来た。

これはきつい・・・触覚は最後にすべきだった・・

まず食っているかどうかがわからん!

どこで飲み込んでいいかわからんから硬いままのみ飲む。

硬いものが食道につかえてもわからん。

次のを飲み込むと吐いて初めて詰まっていることがわかる。

それにまともに歩けん。

床の固さやへこみ具合がわからないので簡単に転ぶ。

何を踏んでも痛くないので知らん間に血が出てる。

こんな生活をしていたら命はないぜ。

俺は家から一歩も出ずに好きな音楽をずっと聴いて寝ていた。

今まで何気なく聴いていた音楽が心に染みてくる。

今までほとんど聴かなかったがクラシックってこんなにいいものだったのか?

*********

10日目、聴覚を失う日が来た。

もう好きな音楽も聴けない。

外へ出ることもできない。

音のない世界でじっとしていると気が狂いそうになる。

一瞬でも目を閉じると俺の脳には全く情報が入らない。

それがとんでもなく怖い。

俺は味のしない流動食を口に流し込みながらずっと目を開けて何かを見つめていた。

目を開けていないと俺の周りから全てがなくなってしまうようでとんでもなく怖い。

俺は家にある本を片っ端から読んだ。

漫画やイラスト、今まで読まなかった難しい小説が俺を支えてくれている。

「五感の報酬」(3/3)へ

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2009年7月10日 (金)

「五感の報酬」(1/3)

先日紹介した「五感の質屋」に感銘を受けて、私も「五感」をテーマにしたストーリーを書いてみました。

久しぶりに書いたらまともな文章がかけなくなっているのに気がつきました。

まあ、今回はリハビリのつもりで・・・・

     

*********

    

「五感の報酬」(1/3)

・・・・俺は不幸・・・・

世の中は全く不公平だ。

金持ちの家に生まれたやつ、きれいに生まれたやつ、明晰な頭脳を持って生まれたやつ、抜群の運動神経を持って生まれたやつ・・・

あいつらは何の努力もせずに幸せになることが約束されている。

この俺は・・・

学校の成績はいつもびり。

運動会もいつもびり。

しまりのない顔にがりがりの体。

母子家庭の安アパート暮らし。

おふくろは働きすぎて去年他界。

彼女いない歴25年。

この不景気で仕事も解雇。

何の能力もない俺がこの社会の中で幸せになんかなれるはずがないだろう?

こんな社会には未練はない。

いっそ、その辺のやつらを道連れにして死んでやろうか。

「あの・・あなたは不幸な方ですか?」

ぶらぶらしている俺を後から女の声が呼び止めた。

「なんだ?」

俺は振り返って不機嫌な顔でそいつの顔を見た。

20代後半くらいの整った顔立ちの女が、微笑みながら首をかしげて俺の顔をみつめている。

「すみません。あなたは不幸な方ですか?」

女は真剣な顔でもう一度聞いた。

「あんた馬鹿?」

心を見透かされた俺は食って掛かった。

「あ・・すみません。そうつぶやいているのが聴こえたので・・」

「余計なお世話だ!」

「申し送れましたが・・私こういうものです・・」

女はかばんからそそくさと名刺を取り出した。

()ブレインアナライザー  研究助手 早川純子』

「ブレインアナライザー??」

「あなたは能力がない方ですね?」

「お前、なに言ってんの?」

俺は声を荒げて女をにらんだ。

「あ・・すみません・・わたし、営業に慣れていないものですから・・」

女はあわてて言葉をつないだ。

「あの・・じゃあ・・もしあなたの能力が飛躍的に伸びたら、あなたは幸せになりますか?」

「俺の能力?」

「はい。あなたが他の人にはない能力を身につけたら幸せになれますか?」

「はあ?」

世の中が不景気だと時々こんなやつが出てくるようだ。

「じゃあ・・とにかく一緒に来てください!」

「おいおい!なんだよ!」

「すぐそこですから!」

*********

ブレインアナライザーという会社に連れてこられた俺に早川純子が言った。

「実はあなたの五感の感覚を5倍にすることができるんです」

「五感?」

「はい。あなたは100m先の文字を読むことができるようになるし、遠くの話し声を聞き分けることもできるようになります。犬並みの嗅覚を持って、味覚はソムリエ顔負けです」

「あんた本気?」

「あなたの脳の能力を極限まで引き出せば十分可能です。私の会社はそれを研究しているんです」

「本当に俺がそんなスーパーマンになれるの?」

「はい」

純子は自信を持って笑顔で答えた。

まあ・・・遠くから字が読めたって別になんてことないんだけど、結構有名になるよな・・・。ビックリ人間コンテストなんて出たりして、芸能界に入れるかもな・・・。

「それで・・?いくらかかるんだ?」

「費用は無料です」

「無料?ただってわけ?」

「はい・・でもその代わり・・あるテストを受けていただかなくてはなりません」

「テスト?」

俺、嫌い。その単語。

「はい」

「五感を活性化すれば脳に入る情報量が一気に増えます。それに耐える精神力を持っているかどうかを調べるんです」

精神力?そんなもんねーよ・・・

「どんなテスト?」

「あなたがご自分の感覚を失った状態で耐えられるかどうかを調べます。具体的には・・あなたの感覚を一つずつ消していきます。あ・・もちろん一時的にですが・・」

「消すって・・・」

「たとえば最初は味覚がわからない状態、3日後にさらに聴覚がわからない状態、その3日後にさらに視覚がわからない状態・・って言う具合です」

「見えなくなって聴こえなくなって?」

「12日後にはあなたの全感覚が麻痺します。そのまま3日間耐えることができれば合格です」

「なんだ?たった15日我慢すればいいのか?」

「はい」

「いいよ。それくらいなんでもないぜ。どうせ俺はこんな世の中にはおさらばしようと思っていたんだ。それが終われば俺はスーパーマンになれるのか?」

「スーパーマンかどうかわかりませんが・・・あなたの感覚は飛躍的に向上できます」

たった15日間だろ?今までの俺の25年間のつらさに比べたらそんなことがなんだってんだ?

「ところで・・向上するのは感覚だけなのか?たとえば力が6千6百倍になったり、時速91kmで空を飛んだりはできないのか?」

それができれば俺は本当のスーパーマンか!

「残念ながら・・・感覚だけです」

あ・・そ・・

「五感の報酬」(2/3)へ

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2009年7月 6日 (月)

楽しい顔

小学校2年になる娘がお風呂場で・・・

「パパの顔、楽しいっていう漢字みたい」

両目の間にシャボンの泡をつけた私の顔を見て笑いながらこう言いました。

「楽しい?」

「真ん中に白があるでしょ?その隣に眉毛と目が・・ほら・・」

鏡を見ると眉毛と、細くて垂れている私の目が「白」の両側にあります。

「鼻から下は木っていう字みたいだし・・」

鼻と鼻唇溝と人中の線が本当に木にみえます!

なんという独創的な感覚でしょう?

鏡で自分の顔を見ながらすっかり感心してしまいました。

娘はこれからどんどん成長していくのでしょうが、

大人になってもこんな感性を失わないでほしいと思います。

でも、そんな風に見えたのは・・・

きっと娘と風呂に入っている私が本当に楽しそうだったのでしょう・・

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