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2009年7月10日 (金)

「五感の報酬」(1/3)

先日紹介した「五感の質屋」に感銘を受けて、私も「五感」をテーマにしたストーリーを書いてみました。

久しぶりに書いたらまともな文章がかけなくなっているのに気がつきました。

まあ、今回はリハビリのつもりで・・・・

     

*********

    

「五感の報酬」(1/3)

・・・・俺は不幸・・・・

世の中は全く不公平だ。

金持ちの家に生まれたやつ、きれいに生まれたやつ、明晰な頭脳を持って生まれたやつ、抜群の運動神経を持って生まれたやつ・・・

あいつらは何の努力もせずに幸せになることが約束されている。

この俺は・・・

学校の成績はいつもびり。

運動会もいつもびり。

しまりのない顔にがりがりの体。

母子家庭の安アパート暮らし。

おふくろは働きすぎて去年他界。

彼女いない歴25年。

この不景気で仕事も解雇。

何の能力もない俺がこの社会の中で幸せになんかなれるはずがないだろう?

こんな社会には未練はない。

いっそ、その辺のやつらを道連れにして死んでやろうか。

「あの・・あなたは不幸な方ですか?」

ぶらぶらしている俺を後から女の声が呼び止めた。

「なんだ?」

俺は振り返って不機嫌な顔でそいつの顔を見た。

20代後半くらいの整った顔立ちの女が、微笑みながら首をかしげて俺の顔をみつめている。

「すみません。あなたは不幸な方ですか?」

女は真剣な顔でもう一度聞いた。

「あんた馬鹿?」

心を見透かされた俺は食って掛かった。

「あ・・すみません。そうつぶやいているのが聴こえたので・・」

「余計なお世話だ!」

「申し送れましたが・・私こういうものです・・」

女はかばんからそそくさと名刺を取り出した。

()ブレインアナライザー  研究助手 早川純子』

「ブレインアナライザー??」

「あなたは能力がない方ですね?」

「お前、なに言ってんの?」

俺は声を荒げて女をにらんだ。

「あ・・すみません・・わたし、営業に慣れていないものですから・・」

女はあわてて言葉をつないだ。

「あの・・じゃあ・・もしあなたの能力が飛躍的に伸びたら、あなたは幸せになりますか?」

「俺の能力?」

「はい。あなたが他の人にはない能力を身につけたら幸せになれますか?」

「はあ?」

世の中が不景気だと時々こんなやつが出てくるようだ。

「じゃあ・・とにかく一緒に来てください!」

「おいおい!なんだよ!」

「すぐそこですから!」

*********

ブレインアナライザーという会社に連れてこられた俺に早川純子が言った。

「実はあなたの五感の感覚を5倍にすることができるんです」

「五感?」

「はい。あなたは100m先の文字を読むことができるようになるし、遠くの話し声を聞き分けることもできるようになります。犬並みの嗅覚を持って、味覚はソムリエ顔負けです」

「あんた本気?」

「あなたの脳の能力を極限まで引き出せば十分可能です。私の会社はそれを研究しているんです」

「本当に俺がそんなスーパーマンになれるの?」

「はい」

純子は自信を持って笑顔で答えた。

まあ・・・遠くから字が読めたって別になんてことないんだけど、結構有名になるよな・・・。ビックリ人間コンテストなんて出たりして、芸能界に入れるかもな・・・。

「それで・・?いくらかかるんだ?」

「費用は無料です」

「無料?ただってわけ?」

「はい・・でもその代わり・・あるテストを受けていただかなくてはなりません」

「テスト?」

俺、嫌い。その単語。

「はい」

「五感を活性化すれば脳に入る情報量が一気に増えます。それに耐える精神力を持っているかどうかを調べるんです」

精神力?そんなもんねーよ・・・

「どんなテスト?」

「あなたがご自分の感覚を失った状態で耐えられるかどうかを調べます。具体的には・・あなたの感覚を一つずつ消していきます。あ・・もちろん一時的にですが・・」

「消すって・・・」

「たとえば最初は味覚がわからない状態、3日後にさらに聴覚がわからない状態、その3日後にさらに視覚がわからない状態・・って言う具合です」

「見えなくなって聴こえなくなって?」

「12日後にはあなたの全感覚が麻痺します。そのまま3日間耐えることができれば合格です」

「なんだ?たった15日我慢すればいいのか?」

「はい」

「いいよ。それくらいなんでもないぜ。どうせ俺はこんな世の中にはおさらばしようと思っていたんだ。それが終われば俺はスーパーマンになれるのか?」

「スーパーマンかどうかわかりませんが・・・あなたの感覚は飛躍的に向上できます」

たった15日間だろ?今までの俺の25年間のつらさに比べたらそんなことがなんだってんだ?

「ところで・・向上するのは感覚だけなのか?たとえば力が6千6百倍になったり、時速91kmで空を飛んだりはできないのか?」

それができれば俺は本当のスーパーマンか!

「残念ながら・・・感覚だけです」

あ・・そ・・

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