「神の手」
手を触れただけでどんな病気でも治せる神の手を持った男
手を触れただけで誰でも殺せる悪魔の手を持った男
先日何気なくテレビを見ていたらこんなドラマが始まりました。
つい1時間見入ってしまいましたが、この先の展開が楽しみです。
ところで、あなたはどちらの手を持ちたいですか?
「どんな難病の人でも治せるなんてすばらしい!私は神の手を持ちたい!」
そんなあなたのためにこんなお話を作ってみました。
―――――――――
「神の手」
俺はつい3ヶ月前までは、片田舎の平凡な開業医だった。
何の能力もなかった俺がどうやって「神の手」を手に入れたのか・・・
それはここではあまり重要なことではないので、あえて話さないでおこうと思う。
しかし「神の手」を手に入れた俺が今、どこでどんな生活をしているのか・・
多分あんたたちにも興味があることだと思うので、これから少しだけ話をしたい。
俺が手に入れたのは、どんな癌でも触れただけで治せる「神の手」だ。
俺が患者に手をかざせば俺の手が患部を感知し、特殊な放射線が放出されて癌細胞を特異的に破壊する。
腫瘍は面白いように消える。
表面の小さな腫瘍ならものの5分。
内臓の腫瘍でも30分も俺が手をかざせば跡形もなく消え去る。
評判は口コミであっという間に広がった。
「あと何人?」
すでに午後8時をまわっている壁の時計を横目で見ながら俺は看護師に聞いた。
「今日の予約はあと二人です」
「もう今日は疲れたから明日にしてもらってよ」
「ダメですよ先生。明日も朝8時から予約でいっぱいです。この人たちも1ヶ月前からの予約の人たちなんです」
「わかったわかった・・・」
俺はしぶしぶ次の患者を呼びいれた。
最初は俺も得意になって片っ端から治してやっていたさ。
テレビや雑誌の取材にも得意顔で答え、きれいな女優さんとの対談も体験したし・・
夜の街に繰り出せば俺の周りにはきれいなホステスがどっと集まってきた。
しかし有名になると加速度的に患者は増えていった。
満足に飯も食えず、休みもない毎日に俺はほとほと嫌気がさしていった。
そんな俺の前にある日、黒塗りの車に乗った恰幅のいい男が現れた。
「おれを政府の機関に?」
「はい。あなたのすばらしい能力は国家の、いえ、人類の貴重な財産です。このようなところで診療をしていてはあなたがつぶれてしまいます。政府の管理が必要です」
そんなわけで俺は予約の患者を全てキャンセルして診療所を離れ、大きなビルの一角に入ることになった。
そこで俺が毎日治療するのは政府の要人と財界の有名人そしてテレビでよく顔を見る外国人たちだった。
彼らがどれだけの報酬を支払っているのかは知らないが、俺には十分な給料と、ビルの一角に快適な住居が与えられた。
そこで俺は朝8時から夜8時まで決められた患者の診療を行っている。
希望するものは何でも与えられ、食事時間は一応確保され、週に半日の休暇も与えられるが、外出は一切許されない。
俺が外に出ればあっという間に癌の患者に囲まれて身動きができなくなるからだそうだ。
そして俺という人間が存在することは日本の表社会からは抹消されたらしい。
「神の手」を手に入れた代わりに俺は、自由な人間らしい生活を奪われ、日本政府が所有する治療マシーンに成り下がったわけだ。
あんたたちの中で俺の「神の手」が欲しいやつがいたら喜んで譲ってやるよ。
「神の手」 終わり
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「神の手」を手に入れて幸せになれるのは、私利私欲を捨てて他人のために奉仕できる人間だけのようです。
もっともそのような人たちは神の手なんかなくても幸せなんですけどね・・・
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