「天国への手紙」
久しぶりにメルヘンファンタジーを書いてみました。
どうも自分には似合わないような気がするのですが、一応アップしておきます。
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「天国への手紙」
【てんごくのぱぱへ
ぱぱが、てんごくにいってしまったので、かなこはとてもかなしいよ。
でも、かなこがなくと、ままがかなしそうなかおをするので、かなこはもうなきません。
きてぃちゃんの ばっぐも、かってもらえなくなったけど、がまんするよ。
りょこうたのしかったね。
うみもたのしかったね。
てんごくで、おさけのみすぎないでね。
じゃあ、げんきでね。
かなこもげんきです。
たちばな かなこ】
K町郵便局の大塚聡さんは配送不能の葉書を手に取っていました。
そのあて先には「てんごく ぱぱへ」とだけ書かれていました、。
葉書を読み終えた大塚さんは、引き出しから新しいはがきを取り出すとゆっくりペンを進めました。
*立花家*
「ままー!かなこに おてがみきたよ!」
かなこちゃんが郵便受けの中にあったはがきを持って走ってきます。
「誰から?」
初七日の法要の後始末をしながらママが聞きかえします。
「えーっと・・おおつか・・さとし・・だって」
「大塚さとし?」
ママは手を止めてかなこちゃんから葉書を受け取りました。
そこには読みやすいひらがな文字でこう書いてありました。
【かなこちゃんへ
てんごくの、おとうさんへのてがみは、おじさんがとどけます。
すこし、じかんが かかりますが、かならずとどけますから、あんしんしてください。
ゆうびんきょく おおつか さとし】
お母さんは、微笑みながらかなこちゃんに聞きました。
「かなこ。パパにお手紙出したの?」
「うん。でも、おうちのじゅうしょは かけたんだけど、てんごくのじゅうしょが わからなかったから、『てんごく』ってだけかいたの」
「そう・・・でも郵便局の大塚さんっていう人が届けてくれるんだって。ほら・・・必ず届けますから安心してくださいって・・」
「ほんとう?じゃあ、かなこのおてがみ、ぱぱのところに とどくんだ!」
かなこちゃんはうれしそうに葉書を手に持って何度も何度も読み返しました。
―きっと配達できない葉書を見た郵便局の人が、かなこのためにわざわざこんな葉書を書いてくれたのね・・・―
お母さんはご主人の遺影を見つめながら微笑みました。
*1ヵ月後*
かなこちゃんとお母さんはお父さんの死亡保険金の手続きをするために郵便局に来ていました。
「あの・・大塚聡さんっていう方はこちらにおられますか?」
お母さんはあの手紙を書いてくれた大塚さんにお礼が言いたくて窓口で聞いてみました。
「え?大塚さん・・ですか?」
窓口の人はちょっと困った顔をしました。
「大塚さんは・・・先週・・・退職されました・・」
「え?やめられたんですか?」
気になったお母さんは窓口で聞いた大塚さんの住所まで、かなこちゃんを連れて訪ねてきました。
「え?大塚さん、亡くなったんですか?」
「はい・・・先週の月曜日に・・」
大塚さんの奥さんがちょっと寂しそうに答えてくれました。
「大塚に会ってやってください」
まだ線香の香りが残る部屋に入ると、その片隅に置かれた仏壇に優しい笑顔の大塚さんの遺影がおいてありました。
お母さんとかなこちゃんは大塚さんの遺影の前で丁寧に手を合わせました。
「ああ・・この子がかなこちゃんですか」
大塚さんの奥さんは微笑みながらかなこちゃんを見つめました。
「かなこをご存知なんですか?」
「ええ・・」
そういいながら大塚さんの奥さんは仏壇の引き出しを開けて紙を1枚取り出しました。
「これを・・・かなこちゃんに・・・」
「あ・・かなこがかいた おてがみだ!」
かなこちゃんはビックリして紙を手に取りました。
「主人は半年前に末期の胃癌だと宣告されていたんです。でも最後まで仕事は続けると言って、つい3週間前まで郵便局に通っていたんです」
「胃癌・・・ですか」
「1ヶ月前に葉書を持って帰ってきて、『俺が死んだら必ずこの葉書を一緒に入れてくれ』って何度も何度も言っていました。あんまり上手に書いてあるので、私、コピーをとっておいたんです」
「そうだったんですか・・・・・・・・1ヶ月前に、こんな葉書が大塚さんからかなこに・・・」
お母さんは大塚さんからの葉書を奥さんに見せました。
奥さんは丁寧に書かれたひらがな文字の葉書をゆっくりと読みました。
「あの人も天国の住所がわからないから、自分で持って行こうと思ったんでしょうねえ・・・」
奥さんはぼろぼろ涙を流しながら笑顔で言いました。
そしてかなこちゃんの頭をなでながら・・・
「かなこちゃんのお手紙は、このおじちゃんが自分で天国に持っていったのよ。必ずパパのところに届いているから安心してね」
「ほんとう?じゃあ、ぱぱ、かなこのおてがみよんでくれた?」
「うんうん・・きっと今頃かなこちゃんのことを考えながら何回も何回も読んでいるわよ」
涙声でかなこちゃんに話しかける大塚さんの奥さんに、お母さんも涙を拭きながら丁寧に頭を下げました。
かなこちゃんはもらった紙を、首からかけている小さな古いバッグに入れると、もう一度仏壇の遺影の前に座って手を合わせました。
「おじちゃん!かなこのおてがみ、とどけてくれてありがとう!おじちゃんも、てんごくで げんきでね!」
「それから、ぱぱは、さみしがりやだから、おともだちになってあげてね!」
お母さんとかなこちゃんは大塚さんの奥さんに何度も頭を下げて家路へと向いました。
ふと空を見上げたかなこちゃんが思わず声を上げました。
「あ!ゆうやけ!」
「ほんとう・・・」
暖かい夕焼け雲が西の空いっぱいに広がっています。
かなこちゃんはお母さんと手をつないで、夕焼けを見上げながら笑顔で歩きはじめました。
不思議なことに、かなこちゃんが首にかけていた古いバッグが、いつの間にか新しいキティちゃんのバッグに変わっています。
明日はきっといいお天気でしょう。
「天国への手紙」終わり
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