「ワーム」
今日車を運転していてふと横を見ると一匹の蜘蛛がウインドウにへばりついていました。
風に飛ばされないように丸くなって必死にしがみついています。
ウインドウの向こう側だったので、そのまま運転していたのですが、車が止まるともぞもぞと動き出して巣を作り出し、車が動き出すとまた丸くなるの繰り返し・・・気になって仕方ありません。
いっそのことウインドウを開けてつぶしてしまおうかと思いましたが、そのまま我慢して目的地についてから植木の上においてやりました。
ふと、こんなお話を考えてみました・・・・。
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『ワーム』
「明日のあいつらの顔が見たいものだ」
俺は夜の国道を空港へと急いでいた。
専務から不正の依頼を受けたのがちょうど今から一年前。
この一年間、俺は会社の裏金つくりに翻弄されてきた。
そろそろやばくなりかけてきた頃、会社の上層部は案の定、俺を切り捨てにかかってきたわけだ。
帳簿上は全て俺の名前で不正が行われている。
だから俺が責任を取れば全てが丸く収まるってわけだ。
「5年ほど我慢してもらえないだろうか?あとの面倒は我々が見るから・・・」
そんな言葉にだまされるものか。
「今回のことに関しては書類上、全て君の責任になっている。もし君が我々の期待を裏切るようなことがあっても我々は痛くもかゆくもないんだ。ただあまり面倒なことはしたくない。君が黙って会社に忠誠を尽くしてくれれば悪いようにはしないつもりだがね・・・」
あんたたちは最初からそのつもりだったんだろう。
会社にすれば俺は一つの歯車にすぎない。なくなればまた新しいものに取り替えるだけ。
虫けら以下って訳だ。
でも、そうはいかない。
こんなこともあろうかと、俺はあんたたちとの会話は全て録音してきたんだ。
それをさっき社内のNet上に公開してやった。
明日になればそれらが全て明らかになるってわけだ。
まあ、俺は今晩中に金を握って中東付近におさらばだけどね。
「虫けらだってその気になればあんたたちの息の根を止めることができるんだぜ」
俺は鼻歌を歌いながら遠くなった街の灯りを見ていたが、ふとドアウインドウに一匹の蜘蛛がへばりついていることに気がついた。
「なんだ蜘蛛か。縁起でもないぜ」
俺はつぶしてやろうと手を伸ばしたがウインドウの向こう側にいるようで微動だにしない。
「しかたねーな・・・」
俺は気にしないようにして空港への道のりを急いだ。
蜘蛛は風に飛ばされないように必死にしがみつき、車が止まると糸を吐いて車のサイドミラーに巣を作っている。
俺はイライラして蜘蛛を振り払ってやろうとスピードを上げたが、蜘蛛は必死にへばりついている。
そして信号で止まると俺をあざ笑うように巣を作り始める。
「このやろう・・・虫けらの分際で俺を馬鹿にしているのか!」
俺は一気に加速して車を左右に振り、蜘蛛を振り払おうとしたが奴は必死にしがみついている。
「もう我慢ならん!」
俺は窓を開けると、右手を伸ばして糸を切り、蜘蛛を振り落とそうとした。
その瞬間、奴は糸を伝って俺の腕にあがってきやがった!
「このやろう!離れろ!」
俺は吾を忘れて右手を振って蜘蛛を振り落とそうとした。
その瞬間・・・・
俺の車は大きく左にそれ、ガードレールに激しくぶつかり、スピンして数回横転した。
フロントガラスに激しく頭をぶつけ、もうろうとした俺の目に最後に映ったのは、俺の顔をあざけるように見つめる蜘蛛の姿だった。
「ワーム」終わり
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