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2009年9月 6日 (日)

「あかね色の堕天使」(1/3)

「あかね色の堕天使」

神の手、悪魔の手シリーズ第4弾です。

今回のお話では「天使」に「人間の望みをかなえる力」を持たせてみました。

 

――――――――――

天使ルシフェルはゼウスの怒りをかい、天界から追放されることになった。

「しかしゼウス様!私は人間を幸せにしようと力を使っただけなのです!」

「一部の人間にだけ富を与え、一部の人間の病気を治す。それがお前の、人間を幸せにする方法なのか?」

「いけないのですか?食事も食べれないほどの貧困にあえぐものは、富をつかんで好きなものを食べられるようになりました。病んだ人間は健康な体を取り戻しました。人をあやめてのさばっている人間にはきつい罰を与えました。全ては人間を幸せにするためです。それがいけないのですか?」

「お前はまだ人間の幸せというものがわかっていないようだ」

その瞬間ゼウスの右手から青い光が飛び散り、ルシフェルをつつんだ。

ルシフェルの背中の羽はなくなり、美しい金髪はぼさぼさになり、美しかった顔は泥を塗りたくったように真っ黒になり、真っ白な聖衣はみすぼらしい土色の服に変わってしまった。

「その姿で人間界に行くがいい。そして人間の幸せというものをゆっくりと考えてくることだ」

「ゼウス様・・・この姿ではあんまり・・・」

「一つだけ天使としての力を残してやろう。おまえには目の前の人間が望めば一つだけ望みをかなえる力が残っている。その力を使って人間を幸せにしてみろ。そしてお前が本当に人間を幸せにできるようになれば、再びここで暮らすことができるようになるだろう」

こうしてルシフェルは堕天使となり時空を超えて人間界をさまようことになった。

――――――

【18世紀 フランス】

「なぜ俺がこんな目にあわなくてはならないんだ・・・。ゼウス様は人間のことをかまいすぎだ。いくら自分が作ったからといって俺たち天使よりも人間のほうが大切なのか・・・」

俺はみすぼらしい格好で冬のパリの郊外をとぼとぼと歩いていた。

「それにしても腹が減った。何か腹に入れないと・・・」

俺は思わず店に並んでいるりんごを一つつかんでかじってしまった。

「このやろう!何するんだ!」

「あ・・すまない・・・腹が減っているんだ。一つ食わせてくれ」

「ばかやろう!薄汚いなりでくるんじゃねー!」

「待ってくれ!俺は・・・天使なんだ!食わせてくれればあんたの願いを一つ聞いてやるから・・・」

「なに寝言言ってんだ?二度とちかづくな!客が寄り付かなくなるじゃねーか!」

俺はりんごをほおりだして逃げ出した。

「なんてことだ・・・これじゃあ天界に戻るどころか、ここで飢え死に、凍え死にだ」

空腹と寒さに耐えながらふらふら歩いていた俺はついに道端で意識を失って倒れてしまった。

俺は暖かい部屋の中で目を覚ました。

「目が覚めたかい?」

俺は小太りで赤ら顔の40歳くらいの女を見つめた。

「あんたは・・・?」

「あたしの名前はマリアってんだ。家の前であんたが倒れてるから運んでやったんだよ」

「そうか・・・すまなかったな」

「何も食ってないんだろ?こんなものしかないけど食うかい?」

マリアと名乗った女性はスープを差し出した。

スープを飲んですこし落ち着いた俺は辺りを見回した。

「そこに寝てるのはあんたの子供か?」

「ああ・・・体が弱くってね。冬は喘息が出て寝てばかりさ。まだ6歳だけどあんまり長く生きれそうにないやね。ろくに食うもんもないしね」

マリアはあきらめたような顔で息子を見ながら言った。

「あんた・・・なんか望みがあるか?」

「望み?」

「一つだけ望みがかなうとしたら何がいい?」

「望みねー。あの子が元気になってくれればあたしゃ何にもいらないよ。でも医者に見せる金もないし、それにまともな医者そのものがほとんどいないだろうよ」

「金よりも何よりもそいつの病気が治ればあんたは幸せなんだな?」

「まあ、そういうことになるかね」

マリアはあきらめたような笑顔で答えた。

この親子を幸せにすることにはゼウス様も異論がないだろう。こいつの息子の病気を治してやりさえすればこの親子は幸せになれるはずだ。

「俺が治してやろうか?」

「あんたが?あんたは医者かい?」

マリアはビックリした顔で聞いた。

「いや、俺は医者じゃない。天使なんだ。訳あって地上に降りているが、俺の力を使えばそいつの病気くらい治すのは簡単なことだ」

「こりゃ大変なのを助けちまったようだ・・・。医者に診せなきゃならないのが一人増えちまった」

「信じなくたっていい。俺が治してやる。その代わり、俺が力を使えばあんたは二度と俺に会うことはできない」

「それは助かるよ。医者を呼ばなくてもすむわけだ」

俺は無言で息子に近づくと右手を差し出した。

俺の右手から出た黄色い光がマリアの息子をつつんだ。

「じゃあな」

俺が出て行く姿をマリアはぽかんとした顔で見つめていた。

「ママ」

マリアはビックリして振り向いた。

「アラン!おまえ・・・」

「ママ、おなかすいたよ」

「アラン!おまえなんともないのか?」

「息もつらくないんだ。歩けるし・・・」

「神様!」

マリアは涙を流して息子をしっかりと抱きしめた。

俺はゼウスの力により再び天界に戻された。

「ゼウス様・・・いかがですか?私は一人の女と子供を幸せにしました。彼女たちは貧しい中で必死に生きている善良な人間です。私を救ってくれた優しい心も持っています。私の力によって子供の病気は治り、彼女たちは幸せをつかむことができました。これがゼウス様が望んでおられたことなのですね?」

ゼウスは静かな声で俺に言った。

「ルシフェルよ・・・お前はあの人間たちを幸せにしたつもりなのか?これをよく見てみなさい」

ゼウスが手を差し出すとそこから下界の様子が現れた。

マリアが冬の夜道を呆然とした表情で歩いている。

画面はマリアの家に変わった。

息子がやはりベッドに寝ている。

「私が助けたはずなのに!どうして・・・」

「あの息子の病気は確かにお前が治した。しかしその2日後、あの子は母親にプレゼントする花を取ろうとしてがけから転がり落ちてしまった。頭を強く打って死にかけているのだ。そして母親は、お前を1日中探し回っているのだ。再び息子を治してもらおうと思ってな」

「そんな・・・」

「これがお前の言う幸せか?」

「それは・・・私の責任ではありません!」

「お前が息子の病気を治さなかったら崖から落ちなかったな?」

「それはそうですが・・・」

「お前は人間を幸せにすることはできなかったようだ」

ゼウスが右手を上げると俺は青い光につつまれて天空から人間界に逆戻りとなった。

   

あかね色の堕天使(2/3)に続く

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