「日本の医療は今」風の軌跡あとがき(3/3)
第3章 医療従事者の人間性について
私は医師なので医療従事者のことがよくわかります。医療に関しては色々な見方がありますが、私は医療従事者を擁護しなくてはならない立場にあると思いますので、くどいようですが最後に医師の内情に関してもう一度述べさせていただきます。
一般の皆さんは医療従事者、特に医師にどんな人間性を期待しているでしょうか?
「どんなときでも一生懸命に患者のことを考えてくれる。患者が具合が悪いときには体調が悪くても家族をなげうってでも病院に駆けつけてくれる」
そんな医師像を期待しているのではないでしょうか?
私もそう思います。自分が病気になった時はそんな医師に診てもらいたいと思います。
しかし考えてみてください。世の中の人々の95%は普通の人間です。他人よりは自分のことが大切で、それでも与えられた日常の仕事をこなし、他人に迷惑をかけないように生きています。
医師の世界も同じです。私も含めて医師の95%は普通の人間です。目の前の患者さんよりも自分や自分の家族のことを大切に思っています。でも自分が選んだ医師という仕事に一生懸命になろうと自分の生活を犠牲にしてがんばっています。
しかしそんな普通の人間が自分の生活を犠牲にして仕事をすることには限界があります。毎日毎日家に帰れない、毎晩夜中に呼び出される、家族と旅行に行っていても途中で帰らなくてはならない、2日間眠れなくても普通に勤務することが要求され、ミスは許されない、きちんと診療していても結果が悪ければ刑事訴訟を受けて犯罪者の汚名を着せられるかもしれない。
普通の人間にはそんなことはできないことなのです。そして、できないことを要求された人間はどんどんその場所から逃避していきます。
社会は医師に聖人のような人間性を要求するのではなく、普通の人間性を持った多くの医師がきちんと仕事ができるような環境を作ってほしいと思います。
そして医師をはじめとした医療従事者の方へ・・・。
医療従事者になった人間はそんな社会を批判するだけではなく社会の要求にこたえる努力をしなくてはなりません。
医療従事者、特に医師には普通の人たちよりも高い社会的地位と経済的安定が保証されています。ですからある程度自分を犠牲にして社会貢献をする義務があると思います。
先ほど述べたとおり、ほとんどの医師は普通の人間です。自分や自分の家族が大切です。しかし医師という職業は患者さんに幸せを与える職業で、それができなければプロではありません。患者さんの心をいつも考えている必要があります。
プロとしてそんな気持ちを持って仕事をすることが医師には必要です。
そして私のような普通の人間でもそんな気持ちで患者さんに接することができたときは不思議なことに毎日の仕事が楽しくなります。
医療側と患者側の認識の違いがトラブルの原因となり、医療訴訟に発展します。
医療側が自分の生活を省みずに一生懸命に診療したにもかかわらず、患者側から過度に攻撃されるような言葉を受ければ悲しい気持ちになるのは当たり前です。つい声を荒げて反発してしまうでしょう。
しかし考えてみてください。患者や家族は医療従事者よりも病気や死ということにずっと慣れていないのです。突然自分達に不幸なことが起これば感情的になってしまうのも当たり前のことなのです。その気持ちを冷静に受け止めて的確な対応ができることも医療従事者としての技量の一つなのではないでしょうか。
2006年8月、「脳性まひに対する無過失補償」「第3機関による医療関連死の調査」などを法制化する動きがようやく出てきました。「終末期医療」に関しても指針を作ろうという動きが出てきています。
しかしその財源や、人材の確保、倫理的問題など、問題点は山ほどあり、それらがきちんと機能するにはまだまだ時間がかかるでしょう。
しかし多くの人たちが日本の医療を少しでもよくしようと一生懸命がんばっています。
この本が出版される頃には日本の医療情勢が好転し、「風間俊介診療録(完全版)」が時代遅れの内容になっていることを期してやみません。
終わり
« 「日本の医療は今」風の軌跡あとがき(2/3) | トップページ | 国母和宏選手の服装問題 »
「小説」カテゴリの記事
- 「虹の彼方のオズ」第5章(2/2)(2014.09.20)
- 「虹の彼方のオズ」第5章(1/2)(2014.09.19)
- 「虹の彼方のオズ」第4章(2/2)(2014.09.18)
- 「虹の彼方のオズ」第4章(1/2)(2014.09.17)
- 「虹の彼方のオズ」第3章(3/3)(2014.09.16)
コメント