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2010年5月 7日 (金)

フォービドゥン・フルーツ第2章

2章 ソドムとゴモラ

$ミサイル発射?$

ノアが世界の滅亡を予言してから2ヶ月が経過した。

6月になってもシュメール聖国の意図を把握できない地球連合はあせっていた。

派遣された諜報部員たちからは何の報告もない。

そんなある日、軌道ステーション、エリア=カナンからの緊急連絡に地球連合本部はまた蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになった。

「シュメール聖国の首都、イルザームの軍事施設サイロに温熱反応を確認しました!」

「まだノアの言う7月31日まで2ヶ月あるじゃないか!もう核ミサイルを発射するつもりなのか!」

サムエル参謀長は困惑していた。

「24時間以内に何らかの飛行物体が発射されるものと思います!」

「最悪の事態に備えて緊急配備だ!各国の迎撃ミサイルは全てスタンバイさせろ!自国への着弾の可能性が判明した時点で迎撃を許可する」

それから24時間の間、全世界は緊張につつまれた。

中にはあわててシュメール聖国への亡命を希望するものもあったが、既に国境は閉鎖され、彼らは砂漠の中に呆然と立ちすくむことになった。

「サイロ開きました!大型の飛行物体が2基発射されました!」

「軌道の確認を急げ!」

「超高速です!大陸間弾道ではありません!大気圏外に脱出します!」

「何だって?」

「2基とも大気圏から脱出しました」

「どういうことだ!軌道をすぐ計算しろ!」

「・・・・・進行方向には・・・土星があります」

「土星だと??」

サムエル参謀長は怪訝そうな声を出した。

「この速度だと89日後に土星の軌道に達します」

「まさか・・・箱舟というのは・・・大型宇宙船のことか?今発射されたのが箱舟なのか?」

「土星に移住するのでしょうか?」

「ばかな!人間が住めるものか!」

「衛星のタイタンは?」

「なぜ地球を捨ててそのような極寒の地に移住しなくてはならないのだ?」

「しかし、他に理由が見つかりません」

「・・・・・・・」

「サムエル参謀長!大型飛行物体の飛行軌道は小惑星帯と交差します!」

「なんだって?」

「このままの軌道では土星に到着する前に小惑星集団の中を通過することになります」

「なぜそんなリスクの高い軌道を選んだのだ?」

「わかりません」

「エリア=カナンからの観測を継続しろ。軌道は逐一報告してくれ」

「了解しました」

$ソドムとゴモラ$

 シュメール聖国から発射された2基のロケットはソドムとゴモラと呼ばれるようになった。

それは誰かが命名したわけではなく、自然とそのように呼ばれるようになったのである。

 ソドムとゴモラは地球連合管理の軌道ステーション:エリア=カナンによって観測を続けられている。

発射から数日が経過した。

「ソドムとゴモラの軌道はどうだ?」

エリア=カナンのダニエル司令が重力波望遠鏡担当官に聞いた。

「コースに変更はありません。まもなく小惑星帯を横切ることになります。小惑星帯を損傷なく通過できる可能性はきわめて低いものと考えます」

「なぜこのような軌道を選んだのだ?中に何が乗っているのかはわからないが、小惑星にぶつかってしまっては彼らの目的は達成されないはずだが・・・」

「あと40秒でゴモラが小惑星帯軌道に侵入します。進行方向にはやや大型の小惑星が数個存在します」

「軌道の変更はないのか?」

「ありません。そのまままっすぐ向っています」

「わからん・・・」

管制室では数分の間沈黙が続いた。

「ゴモラの重力波が小惑星に吸収されました!」

「なんだって?どういうことだ?衝突か?」

「いいえ、衝突による重力波のひずみは観測できません。小惑星に吸収されたのです」

「ではゴモラは小惑星に着陸したということか?」

「・・・そうなりますが・・・」

「どういうことだ?」

エリア=カナンの管制室は沈黙につつまれた。

「ソドムの重力波が分解しました!」

「分解だと?」

「周囲の小さな小惑星に吸収されています」

「ばらばらに壊れたということか?」

「いいえ、爆発による重力波のひずみはやはり観測されません。多数の小惑星に吸収されたのです」

「????」

***********

ソドムとゴモラは旧約聖書に登場する都市で堕落の象徴である。

ソドムとゴモラの邪悪な心を持った人々は悪と腐敗にまみれていた。

神はこの街にすさまじい怒りの鉄槌を下すのである。

神はアブラハムにこう告げる。

「ソドムとゴモラの罪は非常に重い、と訴える叫びが非常に多い。私は降っていき、彼らの行跡が、果たして私に届いた叫びのとおりかどうか見て確かめよう。」

 (創世記1820から21節)

神の命を受けた二人の天使が人間に姿を変えてソドムへ現れる。

彼らはアブラハムの甥のロトに出会う。

ロトが人間の姿をした天使たちをもてなしているときにソドムの人々は暴徒と化して押し入ってきた。

天使は立ち上がると暴徒を一瞬にして打ち倒し、このことがきっかけとなってソドムの絶滅は決定的となった。

天使はロトとその妻、二人の娘に町から脱出することを促し、そして逃げるときにはどんなことがあっても決して後を振り返ってはならない、と命じる。

ロト達がソドムを抜け出すと、神はソドムとゴモラに天から硫黄の火を降らせて町を滅ぼしてしまった。

このとき、後を振り返ったロトの妻は神の言葉に従わなかったため、その姿を塩の柱に変えられてしまう。

ちなみにこのソドムとゴモラは死海に水没したと考えられている。

死海は塩分濃度が25%もあり、生物は生息できない湖である。

************

$カインの帰還$

砂漠の中を男がさまよっていた。

男の名はカイン。

彼は2ヶ月前にシュメール聖国へ侵入したはずだ。

彼はもう何日も何も口にしていない。

唯一持っていた水筒のふたを取って口に当てたカインは絶望して水筒を投げ捨てた。

カインは灼熱の太陽を仰ぎ、砂漠の真ん中に倒れこんだ。

彼が救出されたのは単に運がよかっただけにすぎない。

たまたま通りかかった地球連合の輸送ヘリに発見されたのである。

「気がついたか?カイン」

「バベルの塔・・・ノア・・・ヤハウェ・・・」

「バベルの塔がどうした?」

「・・・・・」

カインは輸送ヘリの中で再び眠りに落ちた。

カインが会話できるようになったのは地球連合本部に転送されて3日後だった。

「シュメール聖国を支配しているのはノアという預言者で、その下にセム、ハム、ヤペテという3人の指導者がいます。シュメール聖国に亡命した人間は・・・全てバベルの塔に収容されます。そしてそこで繰り返しヤハウェの経典を聞かされるのです。何千回も・・・何万回も・・・」

「経典とは?」

「洗脳です。ヤハウェを・・・そしてそれに従うノアの命令が絶対であることを繰り返し叩き込まれるのです。バベルに入ると我々の言葉や概念は全く通じなくなります。バベルの塔から出た人間は全て敬虔なヤハウェの信者となります。そしてシュメール聖国のために命も投げ出すのです」

「君はどうやって脱出したのだ?」

「私は洗脳されるぎりぎりのところで塔を抜け出しました。訓練を受けたものでなければ耐えられなかったでしょう。仲間は全て洗脳されてしまいました」

「それで、シュメール聖国の目的は?」

「彼らは地下に巨大な都市を展開しています。洗脳された人間だけが地下都市帝国への入国を許されます。そこには争いも災害もないユートピアが待っていると教えられています」

「洗脳されてノアに逆らわない人間ばかりだから争うわけがない」

「そこには地上にあった施設が全て収容され、動物や植物も生活しているようです」

「エネルギーはどうしているのだ?」

「軌道上に大量のパネルを設置しています。そこから太陽光発電のエネルギーを地下都市まで送っているのです。さらに地下都市内に複数の核融合炉を建設しています」

「核戦争が起こっても数年は生活できるようにだな・・・」

「多分そうだと思いますが・・・残念ながらシュメール聖国内に核兵器や生物学的兵器などの大量殺戮兵器は確認できませんでした。彼らの目的は・・・謎のままです・・・申し訳ありません」

カインは悔しかった。

彼は自分の意志の強さに自信があった。

自分の中に苦痛や恐怖などのどんな感情が起ころうとも理性の力でそれを抑え、正しい判断をする自信があった。

しかしバベルの塔の中では自分の理性の力が全く機能せず、危うく洗脳されてしまうところだったのだ。

「このままでは終わらせるものか・・・必ず奴らの野望を粉砕してやる・・・」

カインはベッドの上で唇をかんだ。

***************

ノアの子孫たちは東方の地をさまよい、シ・アル(バビロニア)に住み着いた。

その頃世界中の人々はおなじ言葉を使って話をしていたという。

一部の住民は天にも届くほどのレンガの塔を町に建設しようとする。

ところが危機感を抱いた神はこの塔を見てこう言うのである。

「彼らは一つの民で、みな一つの言葉を話しているから、このようなことをはじめたのだ。これでは、彼らが何を企てても妨げることは出来ない。我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」

(創世記11章6-7節)

こうして神によって、人々が使っていた言葉は変えられ、お互いに全く通じなくなってしまう。

そこで彼らは大混乱に陥り、町の建設をやめ、世界中に散らばっていったのである。

いつしかこの町の名はバベル(混沌)と呼ばれるようになった。

*************

$重力波$

エリア=カナンではソドムとゴモラの観測が続けられたていた。

数日後、重力波望遠鏡担当官が大きな声を上げた。

「ゴモラが着陸した小惑星から巨大な重力波を検出しました!大量の重力子が・・・グラビトン粒子が放出されているようです」

「なんだって?」

エリア=カナンのダニエル司令が驚いて聞き返した。

「同時に地球からも巨大な重力波が検出されています」

「場所を特定しろ!」

「中東付近・・シュメール聖国です」

管制室の全員が言葉を失った。

「小惑星が動き出しました!地球に向っています!周りの数百の微小小惑星もおなじ動きです!」

「ばかな・・・」

エリア=カナンからの連絡を受けた地球連合司令部には各国の代表が呼び出され、直ちに緊急会議が開かれた

「これで彼らの目的が判明した。彼らは小惑星を操作して地球に衝突させるつもりなのだ!」

「何のためにそんな馬鹿なことを・・」

「自分に従わないものを全て抹殺するためだろう。正気の沙汰とは思えない」

「小惑星が地球に衝突すれば自分たちも生きていられないだろう?」

「彼らは山ろく部に巨大な地下シェルターを建造している。国家そのものがすっぽり入るほどの規模だ。その中で当分の間暮らすつもりなのだろう」

「今わかっていることを説明してくれ」

「地球に向っている小惑星群の大きさは最大のもので直径約20Km。その周りに小さいものが数百ありますが、これらは大気圏でほとんど燃え尽きるはずです。問題になるのはもっとも大きなもの一つのみです。ゴモラはこの小惑星に重力制御装置(グラビトンコントローラー)を輸送して自動設置したものと考えます。これからはこの小惑星をゴモラと呼ぶことにいたします」

「それでゴモラが地球に衝突するのはいつなんだ?」

「7月31日。午前10時ちょうどです」

「場所は?」

「太平洋のど真ん中です」

「・・・・・・」

全員が絶句した。

「その重力制御装置を・・・止めることはできないのか?核ミサイルで破壊すれば・・・いや、シュメール聖国側の重力制御装置を破壊すればゴモラの衝突は避けられるのでは?」

「重力制御装置が起動していたのは最初の2時間だけです。既に軌道と速度は決定されています。ゴモラとシュメール聖国の重力制御装置を破壊してもゴモラの衝突は避けられません」

「なんてことだ・・・それで・・・衝突の規模は?」

「地球上の・・・全生物消滅的規模です」

「・・・・・・」

「ゴモラが衝突するのは太平洋ですが、6500万年前の恐竜絶滅のきっかけとなった小惑星の3倍程度のエネルギーになります。太平洋沿岸には高さ300m以上の津波が襲います。そして地球規模の洪水が起こり、山岳部以外の都市は全て海の底に沈みます。

大気圏を覆った粉塵と水蒸気は太陽光線を完全に遮断し、地球全土は数年間、闇の世界となります。人類を含め、99.9%の生物は死に絶えます」

「シュメール聖国の地下都市は・・・彼らは生存できるのか?」

「彼らが生存できる規模の小惑星を選んでいるはずです。洪水の影響を受けない山岳部に地下都市を建設し、地球に光が回復するまでの十分な食料とエネルギーは確保しているはずです」

「くそっ!!それが箱舟か!神ではなく、自らが全世界に洪水を起こすってことだ」

「ゴモラが衝突すれば我々が生き残る道は、シュメール聖国に移住して洗脳され、ヤハウェを崇拝することだけです」

それから数日の間にゴモラ対策が検討された。

ゴモラが地球にぶつかれば全世界の人類は助からない。シュメール聖国を除いて・・。

人類に出来ることはゴモラを破壊するか、軌道をそらせることだけなのだ。

しかもそれを残さされた2ヶ月足らずの間に行わなくてはならないのだ。

22世紀の高度情報世界ではゴモラ衝突の事実を隠す手段はなく、情報は全世界に公開された。

全人類滅亡という黙示録的な事実に対して当然多くの人々はパニックになったが、それでも恐慌などがおこらず最低限の治安が保たれていたのは、地球連合がきちんと対策をとっていることを公表し、各国の治安部隊が厳重な警戒態勢をひいたためである。

しかし中にはシュメール聖国への亡命を希望したものも多かったが、既に閉鎖された国境の砂漠にはやはり長蛇の列とテントが並んだ。

 各国はすでにノアの宣言した日に備えて避難用のシェルターを建設していたが、小惑星の衝突に対抗して全国民を避難させることはどの国家も到底無理であった。

第3章に続く

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