フォービドゥン・フルーツ第5章、終章
第5章エンジェル
$衝突直前$
エンジェルはゴモラの至近距離に迫っていた。
もうここからは微小惑星は接近してこない。
ここでメサイアを発射すれば簡単にゴモラに命中させることが出来るが、どっちみち核爆発から離脱することは出来ない。
メサイアを抱いたままエンジェルとともにぶつかっていっても結果は変わらないのだ。
「じゃあ・・・いきます。船長、御一緒できてうれしかったッす」
「俺もだ、ザウル。君は宇宙一のパイロットだ」
二人は笑いながら顔を見合わせ、しっかりと腕を握り合った。
<待ってください!アベル!>
「なんだ?エンジェル。死ぬのが怖くなったのか?」
<違います。わたしはここからゴモラに設置された重力制御装置を遠隔操作することが出来ます>
「何?」
<重力制御装置を起動させればメサイアをゴモラの中心核上付近に固定することが出来ます。メサイアの核弾頭起爆スイッチをオートにすれば30秒の時間が作れます>
「するとその間に脱出できる可能性があるということか」
<はい。この方法の成功率は98%です。マザーがゴモラの重力制御装置のデータを私のファーストセグメントにおいてくれたのでこの方法をすばやく考えることが出来たのです>
「よし!やってみよう!エンジェル、ゴモラの重力制御装置を起動させろ。ザウル、メサイアの起爆スイッチをオートにしてゴモラの重力制御装置に打ち込め!打ち込んだらすぐに回避するんだ」
「了解!!」
<アベル、ザウル。ゴモラから脱出したら何があっても決してふりかえってはなりません。核爆発のの強い閃光のため視力に障害をきたすでしょう>
「ゴモラの重力制御装置をロックオンしました!」
「よし。発射しろ!」
「了解!」
ザウルはそう答えながら胸の十字架を握った。
「神よ。あなたが与えてくれた恵を捧げます」
そして勢いよくメサイアの発射ボタンを押した。
エンジェルから発射されたメサイアはまっすぐゴモラに吸い込まれていった。
そしてエンジェルは機体を180度反転させると一気にゴモラの軌道から離脱した。
その30秒後ゴモラ上で無音の強い閃光が走った。
エンジェルは爆風で機体を複雑に回転させながら飛ばされていった。
「あうッ!」
ザウルの腹部に、衝撃で操作パネルから外れた基盤が激しくぶつかった。
「ザウル!あ・・・・」
目をつむっていたアベルが目を開けてザウルのほうを見つめた瞬間、アベルの目に核爆発の光がまともに飛び込んだ。
そして制御を失ったエンジェルはさらに激しく回転しながら吹き飛ばされていった。
数分後、エンジェルはゆっくり回転しながら宇宙空間をさまよっていた。
「・・・大丈夫か・・・ザウル・・・・」
「・・・何とか・・・生きてます・・・うっ!!」
「どうした!」
「腹を・・・ぶつけちまったようです・・・痛てて・・・・」
「俺は目がみえん・・・核爆発の閃光をまともに見てしまったようだ。それに右腕が折れているようだ。左腕もしびれて指の感覚がほとんどない。エンジェル!無事か?」
<はい。私のMPUは大丈夫です。アベル、ザウル>
「メサイアは?」
<メサイアは予定通り爆発しました。その空間には高濃度の放射性物質が充満しています。これから何万年にもわたってその空間には生物は近づくことは出来ないでしょう>
「ゴモラの状況は?」
<ゴモラの軌道が変わったかどうかは私には計算できません>
「そうか・・損傷箇所を報告しろ」
エンジェルは損傷箇所を順次報告していった。
<グラビトンコントローラ破損。それにより重力制御エンジンは完全に機能停止>
<原子力ロケットエンジンは80%機能しています>
<リモートトランスミッション回路破損。したがって私には機体を操作することが出来ません>
<酸素発生装置破損。酸素残量は残り6時間です>
<船外ドッキングポート破損>
<重力波レーダー破損。電波レーダー破損。したがって私にはエリア=カナンへの帰還路を計算することが出来ません>
「思ったよりひどいな・・・・そうすると俺たちがカナンの方向を探して手動で躁艦しない限り帰れないってことか・・」
<はい。申し訳ありません>
「お前が謝る必要はない。ザウル・・・どうだ?」
「大丈夫です。俺の手足はちゃんと動くし目も耳も大丈夫・・・う・・・・・」
「腹が痛いのか?見せてみろ・・・・」
アベルはしびれた左手でザウルの腹に触った。
「あうっ!!!」
「お前・・・・・・多分脾臓が・・・破裂しているな・・・」
「へへっ・・・内臓破裂か・・・さえないな・・・」
「すまん・・ザウル・・・ここでは何もしてやれん・・・」
「いいっすよ・・・どっち道、捨てた命ですから・・・」
「エンジェル。どうやらこれまでのようだ。俺たち3人の中で艦を操作できるものは誰もいない。カナンまでまっすぐ帰ったとしても艦内の酸素はぎりぎりだ。救助が着てくれたとしてもドッキングポートが壊れているから酸素がなくなる前に救助作業を行うことは無理だろう。でも俺たちがここで死んでも君は生き残れる。君が記録をマザーに伝えてくれ」
<アベル。私だけが生き残っても意味はありません。私が重力制御装置を起動することを提案したのは私が助かるためではありません。アベルとザウルを何とかして助けたかったのです>
「・・・・・・」
「船長。帰りましょうよ・・・地球へ・・・」
「しかしザウル・・・」
「大丈夫っす・・・俺、宇宙一のパイロットですから・・・ちゃんと帰ってみせますから・・・・」
「エンジェル、君の意見は?」
<私も地球へ帰りたいです>
「そうか・・・・・よし・・・・帰ろう!地球へ!エンジェル、マザーとは連絡取れるか?」
<マザーがリンクをはずしているのでマザーからアクセスしてもらわない限り私からはリンクできません>
「ステーションじゃ俺たちは死んだと思ってるから、マザーだってアクセスしないですよね・・・」
「そうだな・・」
<回線を開いてみます>
<・・・こちらマザー・・・エンジェル、応答してください。・・・こちらマザー・・・エンジェル、応答してください。・・・こちらマザー・・・エンジェル、応答してください・・・>
「マザーだ!!」
「やっぱりおふくろさんだ!娘が心配でアクセスを繰り返しているんだ!」
<・・・こちらエンジェル・・・マザー、任務終了しました>
<お帰りエンジェル、私の大切な娘>
<・・・・ただいま・・・・マザー>
《アベル!生きているの!》
突然マリアの叫び声がエンジェルの艦内に響いた。
「・・・・・こちらエンジェル・・・・アベルより・・・・管制へ」
《アベル!!!》
「核ミサイルはゴモラの中心核上で爆発しました。ゴモラの軌道を計算してください」
《ゴモラはそれたわ!地球にはぶつからない!》
「そうか・・成功か・・・。・・・任務を終了します・・・」
《アベル!どうして助かったの?》
「俺たちはゴモラに核ミサイルごと体当たりするつもりで突っ込んでいた。その時エンジェルがゴモラに打ち込まれた重力制御装置をリモートで操作できることに気がついたんだ」
《シュメール聖国が打ち込んだ重力制御装置?》
「出力はかなり落ちていたがまだメサイアを保持する力は残っていた。俺たちはメサイアの起爆スイッチをオートにしてゴモラに打ち込んだ。ミサイルはそのままゴモラの重力制御装置にくっついた。俺たちは30秒の間にゴモラの軌道から逃げ出したって訳だ」
アベルはザウルの荒い息遣いを気にしながら話を続けた。
「エンジェルはマザーとのリンクが切れてから、ロボット3原則に従って、『命令を遂行した上で自分を守るために、助かる確率の最も高い方法』を計算していた。マザーがゴモラの重力制御装置のデータをエンジェルのファーストセグメントにおいてくれたおかげでエンジェルはこの方法をすばやく思いついたんだ」
《それで・・あなた無事なの?》
「・・なんとか息はしているよ・・・エンジェルもかなりやられちまったがな・・・つながるのは音声だけで画像は送れない」
《ザウルは?ザウルも生きているの!》
ナオミの声が船内に響いた。
アベルは困惑した表情でゆっくりと答えた。
「・・・・ナオミか・・・・残念だが・・・・ザウルは・・・・脱出時の衝撃で・・・・・・・・・・」
その時、アベルの左腕をザウルがつかんだ。
「船長・・・だめっす・・・・」
ザウルは大きく息を吸い込んで、苦痛をこらえながらマイクに顔を近づけた。
「なーんてね!残念ながら・・・・俺も生き残っちゃいましたー・・・・」
ザウルの顔面は苦痛にゆがみ、冷や汗でびっしょりぬれていた。
そして最後の力を振り絞って言った。
「おまえと・・・一発やるまでは・・・俺は死なねーよ!」
ザウルはそのまま気を失うように倒れこんだ。
《何発でもやらしてやるから早く帰って来い!バカヤロー!》
アベルは、その声を聞きながらかすかに笑みを浮かべるザウルを左腕に抱きかかえた。
「大丈夫か?ザウル!」
「・・・・あいつには・・・・情けないとこ・・・見せたくないっすから・・・・」
そのままザウルはぐったりと倒れこんだ。
アベルはバッテリー残量アラームを気にしながらカナンに伝えた。
「エンジェルの出力が不安定になっている。通信はカナンの至近距離に近づくまで中止する」
《了解》
マリアが明るい声で答えた。
<マザー・・・ありがとう。重力制御装置のデータを私のファーストセグメントにおいてくれて・・・>
<・・・残念ながらエンジェル。それは私が意図したものではありません。私はデータをランダムに送っただけです>
「偶然だったというのか?」
アベルがビックリしてつぶやいた。
《きっと神様の力だわ》
―神が・・・我々に生きろと・・・―
アベルは天を仰いだ。
$静寂$
マザーとのリンクが再開したことにより、エンジェルはエリア=カナンへの方向を計算することが出来た。
ザウルは原子力ロケットエンジンを始動させ、エンジェルの指示通りに機体をカナンに向けた。
このままカナンまでは約6時間で到達することが出来るはずである。
あとはカナンに近づいてから着艦ドックへ着艦するまでの操作が彼らの運命を決するところとなる。
静かな船内でザウルが目をつむったまま小さな声でつぶやいた。
「船長・・・」
「どうした。大丈夫か?」
「はい・・・船長・・・なんでパイロット・・・・辞めたんですか?」
「・・・聞きたいのか?」
「差し支えなければ・・・」
アベルはゆっくり深呼吸して話し始めた。
「地球連合に入隊した俺は毎日戦闘に明け暮れていた。当時はまだ地球連合に加入していない国も多く、俺はあちこちの戦場に駆り出された。ある日俺は一人の部下の訓練をしていた。その時、敵の編隊が現れたんだ」
「訓練中に・・・でも俺なら喜んで撃墜に行きますけどね・・・」
「俺もそうだったよ。でも敵機は7機いたんだ」
「え・・7機」
「しかも友軍機はまだ訓練中の新米パイロットだ。1対7ってとこだな」
「それはちょっときついっすよね・・・」
「地球連合の規則では自分たちより数の多い相手に出くわしたときには戦闘を回避することが義務付けられている。しかし俺には自信があった。7機くらいなら俺一人で片つけられるってな。俺は部下を置いて敵機に向って入った。」
「そこでレインボーファイアーを・・・」
「ああ・・・俺は一瞬で7機の位置と速度、軌道を頭の中にインプットした。そして光子砲の発射タイミングを頭の中で計算した。君もわかっていると思うが・・・頭の中で組み立てた連続発射の場合、一度光子砲の発射タイミングを確定したら最後まで変更は出来ない」
「俺は6機までしか・・・できなかったっす」
「俺の体の中に獲物を狙うときに感じる快感が走り回った。俺は計算どおりに光子砲を発射して行った。敵機は俺の狙い通り次々に撃墜されて行った。そして最後の一機への光子砲を発射する瞬間に、部下の機体が俺の目の前に現れたんだ」
「・・・新米だったら・・・どう動いていいかわからなかったのかもしれませんね・・・」
「もう後戻りはできなかった。俺は自分の頭の中にプログラムされたとおりに引き金を引いた。次の瞬間俺の目に映ったのは火だるまになって落ちていく部下の機体だった」
「それに責任を感じて・・・」
「その部下はな・・俺の兄貴の子供を身ごもったばかりの婚約者だったんだ・・」
「え?女の子っすか・・・」
「俺はきっと彼女の前でいいところを見せたいと思ったんだろうな・・・」
「お兄さんは・・・」
「カインには・・・死ぬほど殴られたよ・・・でもな、カインは俺が婚約者を撃墜したから怒ったんじゃない。俺が規則を破って戦闘を回避しなかったことに腹を立てたんだ」
「俺でも・・おなじことをしていたかも・・・」
「功名心が先走って俺は理性を保てなかった。人間の感情は時には邪魔になるものだ」
<アベル、それは違います>
エンジェルが突然言葉を挟んだ。
「エンジェル、君たちNeoAIにも感情が導入されているんだったな。君たちの感情はミッションの遂行に邪魔になるものではないのか?」
<私に与えられる全てのミッションは人類が幸福になることが目的になっています。的確な状況判断をするためには人間の感情を理解することは大変重要なことだと思います>
「感情があるために逆に判断を誤ることはないのか?」
<判断を誤らせるのは感情ではありません。感情を制御できないことが判断を誤らせるのです。自分の感情を理性で制御できればより正しい判断ができるはずです>
「なるほど・・・俺の感情が悪いわけじゃなくって、それを制御できなかった俺の理性が未熟だってことか」
<残念ですがそのとおりです。ですからそれを学習して今後の判断を改善していけばよりよい判断が可能になるはずです>
$着艦$
それから帰還するまでの6時間はザウルにとっては気の遠くなるような長い時間であった。
「大丈夫か・・・ザウル!」
「・・・・なんとか・・・・大丈夫っす・・・」
<ザウル、座標123、53、84の方向にエリア=カナンを確認しました>
エンジェルが伝えた。
「本当か!ザウル!見えるか?」
「・・・エリア=カナン確認しました・・・帰還します・・・」
ザウルは体を起こすと精一杯の力で操縦桿を握り締め、カナンに向って進んでいった。
<ザウル。軌道からそれています。4度右です。現在稼動しているのはロケットエンジンです。重力制御エンジンではありません。操作感覚の違いに注意してください>
「わかってるって・・・エンジェル・・・」
「お前・・・目が見えないのか?」
「目は何とか見えますが・・・大丈夫っす・・・さっきステーションの位置は確認しましたから・・・」
<ザウル、私が誘導します>
「すまん・・・頼むよ・・・・・エンジェル」
《エンジェル応答してください》
アベルが回線を開いたとたん、カナンの誘導官からの声がとどいた。
「・・・こちらエンジェル。アベルだ」
《アベル!着艦軌道が安定していません!》
「わかっている・・・すべての着艦ドックを開けてくれ。どこに着艦できるかわからん」
《了解。でもこちらからマザーにリモートで誘導させますが・・・》
「リモートトランスミッションが壊れているんだ。エンジェルも躁艦できない。今・・・ザウルが・・・やっている」
《了解しました。着艦ドック1から5まで全てオープンします!》
・・・・・・
<ザウル。2度左、4度上です>
「・・・・・・」
<がんばって!ザウル!もう少し!速度を3%落として下さい>
「・・・・・・・」
<ドックに入りました!ザウル、逆噴射ブレーキ全開してください!>
ドシューッ!!!
<カナンの重力制御域に入りました。左に15度回転し、下方への重力に抗して機体を5度上げてください>
<カタパルトに着艦しました!艦が回転します!左に寄せてください。12度です>
ズーン!
<艦が停止しました。着艦時の損傷はありません。お見事です。ザウル>
「ザウル!よくやった!」
アベルがザウルを左腕で抱きかかえた。
「へへっ・・・・俺って宇宙一の・・・・パイロットですから・・・」
「ああ・・・お前は間違いなく宇宙一だ!」
「船長・・・・勝負・・・・したかったっす・・・・・・・・それから・・・・ナオミに・・・・・・・・・・ごめんって・・・・・・・・・・・」
ザウルは静かに目を閉じた。
「ザウル!ザウル!・・・・・・・・・・・・ザウル・・・・」
アベルは左腕でしっかりとザウルを抱きしめた。
《エンジェル!エアーの充填完了しました!退艦可能です!》
誘導官の声がエンジェル艦内に響いた。
「ザウル・・・ありがとう・・・」
ザウルの頬にアベルの涙がこぼれ落ちた。
<ありがとうザウル。そして・・・さようなら・・・。私は・・多分・・あなたを・・・愛していると思います>
・・・・・・・・・・・・・
話を終えたアベルはナオミの腕の中のザウルの髪をそっとなでた。
ナオミはザウルをしっかりと抱きかかえ、涙で濡れた唇でザウルの唇にそっと触れた。
終章
それからしばらくしてカインたち地球連合地上軍はシュメール聖国の制圧に成功した。
セム、ハム、ヤペテの3人の幹部は地上軍に捕らえられたがノアの姿はどこにも確認できなかった。
ノアを探し回るカインが地下都市の最深部で見つけたのは巨大なNeoAIだった。
<わたしはノア・・・ヤハウェの言葉を伝えるべく生まれたもの・・・>
「ノア」とはシュメール人が作り上げたNeoAIである。
彼はロボット3原則の「人間」の部分を「シュメール人」に変換して搭載されていた。
第一条 ロボットはシュメール人に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、シュメール人に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットはシュメール人にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
感情を搭載されたノアはシュメール人を繁栄させることを切望し、シュメール人に対抗する者たちの滅亡とみずからの存続を計画したのだった。
感情という禁断の果実をかじったAIによって起こされた悲劇・・・
しかしその果実をかじらせたのは蛇ではなく人間である。
人間はアダムとエヴァが神の命にそむいて禁断の果実をかじることにより知恵を得た。
「感情」のままに生きていた人間は禁断の果実をかじることにより「知恵」を得ることになり不幸を背負うことになった。
「知恵」を持つAIであるノアも「感情」という禁断の果実をかじることにより不幸になった。
「知恵」と「感情」が混在することが不幸の始まりなのだろうか?
しかし「知恵」と「感情」は我々が幸福になるために必要な因子であることは誰もが認めているはずである。
物事の本質は多分そんなところにあるのではない。
実は「知恵」と「感情」の混在が不幸なことなのではなく、それらを「理性」でコントロールできないことが問題なのである。
つまり人間が禁断の果実をかじったことではなく、もともと持っていた「感情」を「理性」でコントロールできずに、得られた「知恵」を間違った方向に使ってしまったことが不幸の原因なのである。
感情が深く、豊かな人間は情が厚く、周囲の人間に感動や安らぎや幸福を与える。
しかし深くて強い感情を持つ人間ほど、強い理性の力で感情をコントロールしなければ、知恵を間違った方向に使ってしまい、結局不幸な結末を作り出すことになるのである。
「怒り」や「悲しみ」はもちろん、「愛情」や「優しさ」でさえ、感情は理性のコントロールから外れれば、人間は誤った選択をして不幸な結果を引き起こしてしまうのである。
果実をかじったあとに得られた能力をどう使うかはすべて人間が自分で決定しうることで、その力を自分たちの発展のために利用するのも、自分たちを破滅に導くのも人間の判断に任されている。
だから自分に降りかかった不幸を禁断の果実や神の責任にすることは正しいことではない。
皮肉なことに今回の事件で世界中の核兵器は廃絶された。
神の意思があるとすれば、これこそが彼の目的だったのかもしれない。
神は決して自分を信じるものを見捨てたりはしない。
マリアは男の子を生んだ。
イエスと名付けられたその子が3歳になったとき、手をアベルの目にかざすと、アベルは再び視力を取り戻したという。
その子は成人して「理性で感情をコントロールすること」を世界に説き、人類を救うことになるのである。
(終わり)
この作品は旧約聖書のエピソードをモチーフとして創作したフィクションで、実際の聖書の内容とは無関係です。
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