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2010年11月 1日 (月)

フューチャー・スコープ

いまさらですが・・・「ライアーゲーム」面白いですよね。

頭脳戦に勝利すれば巨額の富を獲得できる。

でも負ければ・・・1億円の借金を背負う・・・。

結局、主人公が勝ち上がるんだとわかっていてもハラハラドキドキして見てしまいます。

そしてナオちゃん(戸田恵梨香ちゃん)の素直でかわいいこと・・・。

このシチュエーションが医療現場だったら・・・

なんて考えて長編小説を書き始めたのは今年の6月。

タイトルも「ライアーゲーム」をまねて「メディカルゲーム」

思いっきりの二番煎じです。

おりしも東山君(結婚おめでとう・・・)のドラマやNHKのバラエティなどで総合臨床にスポットライトが当たっている今日この頃。

病歴や身体所見、検査データを元に推理力を働かせて診断を確定する。

この面白さを一般の方々にもぜひ味わっていただきたいと思います。

ざっとストーリーを紹介すると・・・

ある施設に集められた27人の医師。

与えられた課題をクリアーできない医師たちが次々と医師免許を剥奪されていく。

そんな中で主人公たち(若き天才総合診療医と素直でかわいい女医さん)が勝ち上がっていく・・・。

そんなコテコテのまねっこストーリーです。

実は既に書き上げているのですが、一般の方々に総合診療の「診断の楽しさ」をわかっていただく工夫がなかなか難しい。

もうしばらく手直しをして年内くらいにブログにアップできたらと思っています。

ところで一息ついて短編を一つ書き上げました。

今日はそれをアップしたいと思います。

***

 皆さんは未来が予知できたらどんなにすばらしいだろうと思ったことはありませんか?

 大学受験に合格できるのだろうか?

 あの人に告白したらどんな答えが返ってくるんだろうか?

 この人と結婚したら幸せになれるのかしら?

 この店に宝くじの1等があるのだろうか?

 

 それがあらかじめわかったら・・・

 でも・・・未来がわかるということは本当に幸せなんでしょうか?

 これはふとしたことから自分の未来を知ってしまった男の悲しいお話です。

「フューチャー・スコープ」

【第1章 未来予知】

俺の名は真田右京。37歳。

職業は売れないスタントマンだ。

いや、「だった」といったほうがいいだろう。

先月事務所を首になったばかりだ。

それまでは売れないながらも細々と仕事はもらっていた。

半年前にスタント中の事故で足を骨折。

ようやく回復したと思った矢先に当て逃げ事故をくらっちまった。 

今度は打撲と捻挫だけですんだが、事務所からは愛想をつかされて現在無職ってわけだ。

学歴も資格もない俺にいまさら他の仕事が出来るわけもない。

貯金も使い果たし、途方にくれた俺が金をつかむ手段と言ったら・・・まっとうなものじゃないってことは誰だってわかるだろう。

 

天野千里。68歳。

2年前にノーベル物理学賞を受賞した偉い学者の先生だ。

色々な特許をとって莫大な財産があると言われている。

ふとしたことから俺は天野千里がその財産のほとんどを自宅に隠していることを知ってしまった。    そして俺は大金が奴の自宅の研究室の金庫の中に保管されているらしいことを突き止めた。

金庫を開ける番号もばっちりだ。

そして奴の自宅の構造やセキュリティーの死角は既に調査済み。

あとは・・・金をいただくだけだ。 

そして今晩がいよいよ決行の日ってわけだ。

 

俺は下調べどおりに天野千里の自宅に侵入した。

こんなときにはスタントマンとしての経験が役に立つのだから皮肉なものだ

俺は研究室のドアをそっと開け、金庫の前に座り懐中電灯の明かりをかざした。

その瞬間、部屋に明かりが灯った。

ビックリした俺が振り返るとそこには天野千里が平然とした顔で立っていた。

俺は声も出せずに後ずさりをしてあわてて逃げようとした。

 

 「真田右京さん。逃げなくてもけっこうですよ」

 天野千里の声に俺は金縛りにあったように動けなくなってしまった。

 「ど・・・どうして・・・俺の名前を・・・」

 「逃げなくてもいいんですよ。警察に通報したりしませんから・・・。お待ちしていましたよ。真田右京さん」

 俺はぽかんとして天野千里の顔を見あげた。

 「まあ、座りませんか・・・。どうぞこちらへ・・・」

 俺はゆっくり立ち上がると、天野千里に進められるままソファに腰掛けた。

 「まあ、コーヒーでもいかがですか」

 なんとそこには入れたてのコーヒーが用意されていた。

 まるで俺のために準備されていたように・・・。

 俺は怪訝そうな顔で天野の顔を恐る恐る見つめながら一口コーヒーをすすった。

 「驚かれたでしょうな?」 

 天野は笑みを浮かべながら俺に言った。

 「・・・・・」

 「あなたが今日おいでになることはわかっていたのですよ」

 俺の計画のどこに問題があったのだろうか?

 今日侵入することは誰にも言っていないはずなのに・・・。

 「あなたは私の研究室に大金を隠してあると思っておいでになった。そうですよね?」

 「・・・なんで・・・わかるんだ?」

 「あなたのことは何でも知っているのですよ。職業はスタントマン。半年前に足を骨折し、先日はあて逃げ事故にあわれた」

 「どういうことだ!」

 追い詰められた俺は激しい口調で問い詰めた。

 「まずお断りしておきますが、ここには金はほとんどありません」

 「嘘をつけ!あんたの口座にはほとんど金が入っていない!あれだけの財産があるはずなのにおかしいじゃないか!」

 「それは全て、あいつに消えましたよ」

 天野は俺の左側にある大きな機械を指差した。

 「なんだ?これは?」

 「それはフューチャースコープですよ」

 「フューチャースコープ?」

 「はい。未来を覗く鏡です。これを使えば未来に起こることがわかるのです。この機械が私の脳波と同調して私に未来を見せてくれるのですよ」

 俺はさっきまで、こいつのことを偉い物理学者だと思っていた。

 しかし今、俺の目の前にいるのは頭の狂った学者のようだ。

 「まあ、信じられないのは無理もありません。未来を予測するなどと突拍子もないことを言われては・・・・」

 天野はゆっくりとコーヒーをすすった。

 

 「真田さんはビリヤードをご存知ですか?」

 天野が聞いた。

 「ばかにするな!ビリヤードくらい知っている!」

 俺は興奮して答えた。

 「たとえばビリヤードで白球をキューで打ったとき、キューの先端があたる位置、角度、スピード、摩擦抵抗がわかれば白球の動きは予測することが出来ます。すなわち白球がどう動いて残りのボールをどのようにポケットに落とすかは全て最初から予測できるのです。わかりますか?」

 俺は物理なんて全く知らないが、そんな俺だってそのくらいのことは何とか理解できる。

 「それと同じなんですよ。この世の中は全て素粒子と言う小さい粒子で構成されています。ある時点の地球上の全ての素粒子の位置と運動量がわかれば、今後起こりうることは全て予測できるのですよ。私は長い年月と膨大な資金をつぎ込んでついにこの未来予想装置、フューチャースコープを完成させました」

 「???」

 「まあ、難しいことはどうでもいいんです。私には未来が見えるんですよ。だから今日あなたがここに来ることもずっと前からわかっていたのです」

 「あのな・・・いくら俺に学がないからってそんな話を信じると思うのか?」

 「まあ、無理でしょうね。じゃあ、証明してみましょうか」

 「証明?」

 「この紙に私が5桁の数字を書いてから折りたたんで真田さんにお渡しします。真田さんはそれを見る前に好きな数字を書いてください。その数字が私の書いたものと同じだったら信じてもらえますか?」

 「そ・・・そんなばかなこと!あるわけないだろう!まだ俺が何を書くかも決めていないんだぞ!」

 「あなたが何を書くかはもう私にはわかっているのです」

 そう言いながら天野は紙にすらすらと記載して、それを丁寧に折りたたんで俺に渡した。

 「俺が・・・好きな数字を書けばこの紙の中の数字と一致していると言うのか?」

 天野は無言で微笑みながらうなずいた。

 そんなばかなことがあるものか!

 俺は震える手でもう1枚の紙を手に取った。

 「俺の誕生日や年齢などはだめだ。全くでたらめな数字を書いてやる!」

 俺は走り書きで「93803」と記載して天野に渡した。

 「では私の紙を開いてください」

 俺は恐る恐るゆっくりと紙を開いた。

 93803・・・・

 「こんなばかな・・・・」

 俺は震えた手で紙を握りつぶして天野の顔を驚きの表情で見つめた。

 「これでわかったでしょう?私には未来のことがわかるのですよ」

 「本当にこの機械で・・・未来がわかるっていうのか?5年後も10年後も・・・」

 「残念ながら正確にわかるのは3年後までの未来です。それ以上は太陽や宇宙からの影響が強くなってどうしても誤差が出てしまうのです」

 「俺が今日ここに来ることも?」

 「8ヶ月前、この機械を完成させたときからわかっていました」

 「じゃあ・・・どうして黙って俺を侵入させた!セキュリティを強くしたり、警察を呼んでおけば簡単に俺を捕まえられただろう!」

 「それはできないのですよ」

 「どうして!」

 「あなたが今晩ここにやってくることは既に決まった事実なのです。それを知った私がどうやって妨害しようとしてもあなたは必ず今晩ここにやってくる。私がやることは、未来は全てお見通しなのです」

 「そんなことが・・・」

 「私たちが今、こうやって会話している内容。これも8ヶ月前のある時点の地球上の全ての素粒子の位置と運動量から導き出された結果であり、私があなたの侵入を妨害しようと考えたとしたら、それも既に決定されていることなのです」

 「じゃあどうやっても未来は変えられないってことか?」

 「そうです。『知ってしまった未来はもう変えることが出来ない』のです」

 学のない俺だが、天野の話は妙に説得力がある。

 俺は天野の言うことを信じるようになってきた。

 「じゃあ・・・あんた。自分に何が起こるかもわかってるのか?」

 「はい」

 「ひょっとして死ぬ時もわかるのか?」

 「私は1年後に死ぬことになっています」

 「なんだって!」

 天野は平然と答えた。

 俺はしばらく言葉を発することが出来なかった。

 「死ぬ時がわかっているのなら、それを何とかしようと思わないのか?」

 「さっきも言ったでしょう?私がそれをどう回避しようとしても、それも全て決まったとおりに行動しているだけなのですよ。結果を回避することは出来ないのです」

 「じゃああんたは1年後に命がなくなると・・・」

 「はい」

 「あんた・・・狂ってるよ」

 俺は同情の目で天野を見つめた。

 ふと俺は自分のことが気になった。

 「ひょっとして俺の未来もわかるのか?」

 「もちろん」

 「じゃあ・・・お・・・俺は・・・いつ死ぬかもわかるのか?」

 俺はつばをごくりと飲み込んで恐る恐る聞いた。

 「はい」

 天野はほんの少し笑みを浮かべていった。

 「い・・・いつ・・・いつだ!俺はいつ死ぬんだ!」

 俺は息を切らして問い詰めた。

 「知りたいですか?」

 天野はゆっくりと聞いた。 

 「当たり前だ!死ぬときがわかればそれなりの準備って物があるだろう!」

 「どんな準備?」

 「それは・・・病気で死ぬんなら毎月のように検診をして病気を早く見つけるし、怪我で死ぬのなら、その日は外に出ないようにするだろ?」

 天野は俺の言葉を聞いてふふんと鼻で笑った。

 「無駄なんですよ・・・。あなたがどうやってそれを回避しようとしても、あなたはぴったり予測された日の予測された時間に予測された状況で死を迎えるのですよ。それを知ってどういう意味があるのですか?」

 「・・・」

 「それでも自分が死ぬ日を知りたいですか?」

 俺は無言で下をむいた。

 そしてあることに気がついてふと顔を上げた。

 「ちょっと待ってくれ・・・この機械は3年後までしか予測できないって言ったよな・・・。じゃあ俺が死ぬのは・・・・」

 俺は真っ青になった。

「せめて・・・・せめていつころ死ぬかだけでも・・・教えてくれ!」

 天野は俺の顔をじっと見てぽそりと言った。

 「あなたは・・・今から2年後に死にます」

 「に・・・に・・・2年後!!」

 俺はビックリしてソファから転げ落ちた。

 俺はしりもちをついたまま、天野を見上げて聞いた。

 「嘘だろ!俺まだ37歳だぜ!何で39で死ななきゃなんねーんだよ!」

 「どうやって死ぬかも知りたいですか?」

 「え・・・いや・・・いい・・・もういい!俺は信じねー!信じねー!」

 俺は泣きながら叫んだ。

 俺はしばらく泣きながら何かをわめいていたようだ。

 しばらくしてようやく落ち着いた俺は呆然としてソファに座っていた。

 「お気持ちわかりますよ」

 「そういえば・・・あんたも自分が死ぬ時を知っているんだったな」

 天野は小さくうなずいた。

 「あんたは平気なのか?癌であと1年の命って言われたのと同じなんだぞ」

 「うーん・・・ちょっと違いますね」

 「違う?何が!」

 「癌で1年の命ということは、あとだいたい1年くらい生きれますよっていうことなんですよ。1年より長いかもしれないし、ひょっとしたらもっと短いかもしれない」

 「それで?」

 「フューチャースコープの予知はぴったり正確なんです。1日の狂いもなく・・・」

 「よけい悪いじゃないか!」

 「それにもう一つ決定的に違うことがあります」

 「決定的に違うこと?」

 「癌の余命は1年でも、他の病気や怪我で死ぬ可能性もある。明日交通事故でぽっくりっていうことがありますよね。でも・・・フューチャースコープの予知で1年後に死ぬってわかったときは・・・それまでは絶対に死なないんです」

 「絶対に死なない?」

 「はい」

 「だってもし俺が今、高いところから飛び降りたり、毒を飲んだりしたら死ぬだろう?」

 「もちろん毒を飲んだら死にますけど・・・そういうシチュエーションにはならないんですよ。絶対にね」

 「どういうことだ?」

 「あなたが飛び降りようとする意思も毒を飲もうとする意思もあなたの脳が決定しています。そして脳の決定は神経細胞の活動に依存しています。そして神経細胞の活動は分子や原子、そして素粒子の活動に依存しているのです。あなたを構成している素粒子はあなたが毒を飲むというシチュエーションの動きをすることはないのです。少なくとも2年間は・・・」

 「他の奴らが俺を殺そうとしたらどうなるんだ?」

 「そういうシチュエーションにもなりません。この世の中の全ての物質を構成する素粒子があなたを2年以内に殺そうとする動きをすることはありえないのです」

 「・・・・」

 俺にもなんとなく話が見えてきた。

 「じゃあ俺は・・・2年間はどんなことがあっても死なないのか?」

 「そうです。たとえあなたがどんな危険なことをしても・・・」

【第2章 不死身の男】

 2年の命と宣告を受けた俺はまたスタントの仕事に戻った。

 何をやっても死なないことがわかった俺はどんどん危険なスタントをこなしていった。

 それに伴い、まわりの評価はうなぎのぼりにあがっていった。

 「真田君!すごいじゃないか!こんなこと出来る奴は他にいないよ!」

 「真田さん!今度はこういう仕事があるんだけどお願いできないでしょうか?」

 「なぜあんな危険なことが出来るんですか?死ぬのが怖くないんですか?」

 俺だって死ぬのは怖いが、死なないことがわかっているのだから怖いはずがない。

 俺はあっという間に有名になり、テレビ出演も増え、ギャラもうなぎのぼりにつりあがった。

 日常生活でも、交通事故にあいそうになった子供を飛び出して助けたり、駅のホームから落ちた奴を助けたり、俺はスーパーヒーローにのし上がった。

 どんな危険なことをやっても死なないんだから、なんだって出来るさ。

 欲しいものは何でも手に入り、どんな女でも望みどおりになった。

 しばらく俺は2年間の寿命のことを忘れていたが、月日が過ぎていくとともにだんだん不安が強くなっていった。

 「俺は何月何日に死ぬんだ?・・・・どうやって?」

 俺は極力考えないようにしたが、日に日に不安は増すばかり。

 そしてある日、俺は天野千里をもう一度訪ねた。

 「それで?あなたが死ぬ正確な日をおしえてほしいと?」

 「ああ・・・不安で不安でしょうがないんだ。頼むから教えてくれ!」

 「知らないほうが幸せなこともありますよ」

 「頼む、いつ死ぬかがわかればその前日までは安心して暮らせるんだ。俺はいつ死ぬんだ?頼むから教えてくれ!」

 天野はじっと考え込んで、意を決したように顔を上げて俺を見つめた。

 「わかりました。あなたが死ぬ日を教えましょう。後悔はありませんね?」

 俺はごくりとつばを飲み込み、うなずいた。

 「真田さん。あなたが死ぬ日は来年の831日です」

 「来年の831日・・・あとちょうど1年か・・・」

 俺は肩の力が一気に抜けてソファにもたれかかった。

 「あとちょうど1年か・・・」

 俺は何度もおなじ言葉を繰り返した。

 そして天野の顔をみて聞いた。

 「・・・・・俺は・・・どうやって死ぬんだ?」

 「・・・・」

 天野は何も言わずにじっと俺の顔を見ている。

 「教えてくれ!俺はどうやって死ぬんだ!」

 「真田さん。あまり知りすぎないほうがいい。どうあがいたってその運命からは逃れられないのだから・・・」

 「このままじゃあ、不安でしょうがない!教えてくれ!」

 天野は無言で首を横に振った。

 「頼むよ先生!」

 俺は立ち上がると天野の襟首をつかんで詰め寄った。

 「もうやめましょう、真田さん」

 「うるさい!俺の運命だ。俺には知る権利がある!教えろ!」

俺は天野の胸倉をつかんで激しく揺さぶった。

 それでも天野は無言で首を横に振っている。

 俺は天野を突き放し、隠し持っていたサバイバルナイフを取り出した。

 「俺は本気だ!あんたが教えないのなら俺にも覚悟がある!」

 しかし天野は動じない。無言で俺をにらんでいる。

 「この野郎!」

 俺は脅かすつもりでナイフを天野の腹に突き刺そうとした。天野が簡単によけられるくらいのスピードで・・・。

 グサリ・・・

 俺の腕にいやな感触が伝わった。

 ビックリした俺はあわててナイフを引き抜いた。

 天野はそのままうずくまって倒れこんだ。

 「なんで!なんでよけないんだよ!」

 「これで・・・これでいいんですよ」

 「ばか!俺は本気じゃなかった!あんたが十分よけられるようにゆっくりと刺したんだ!」

 「どうあがいたって・・・未来からは逃れられないのです・・・」

 その時俺は、最初に天野に出会ってから1年が過ぎていることに気がついた。

 「まさか・・・あんたが死ぬのは今日なのか?俺が・・・あんたを殺すのか?」

 俺は体を震わせながらやっとのことで声を絞り出した。

 「私が死ねば・・・フューチャースコープはもう機能しない・・・・。あんなものはないほうがいいのです・・・」 

 天野は苦しそうに呼吸しながら言った。

 「俺に殺されることがわかっているのなら俺に合わなきゃいいだろう!逆に俺を殺してしまえばあんたは死ななくてすむんだろ?チャンスはいくらでもあったはずだ!」

 天野は俺の言葉を、目をつむりながら笑みを浮かべて聞いていた。

 「無駄なんですよ・・・。私があなたを殺そうとしても、あなたはフューチャースコープが予知した日までは絶対に死なない。たとえ私がスタントの設備に細工をしようが・・・交通事故に見せかけて殺そうとしようが・・・あなたは死なないんです・・・・」

 「ま・・・まさか・・・・俺の落下事故や・・・当て逃げ事故は・・・あんたが仕組んだことなのか?」

 俺はビックリして天野を問い詰めた。

 「あなたの・・・人生を狂わせてしまいました・・・本当に申し訳ありません・・・」

 天野は涙を流しながら俺を見あげてやっとのことで声を出した。

 そしてむせながら続けた。

 「知ってしまった未来は・・・どうあがいても・・・変えられない・・・・。でも・・・知らなければ・・・未来には・・・無限の・・・・・可能性が・・・・・・・ある・・・・・・・・・・・」

 そういい残して天野は息を引き取った。

 その時・・・・

 「キャー!」

 俺が振り返ると天野の夫人と思われる初老の女性が、恐怖のあまりその場にへたへたと座り込んでいる姿が見えた。

 「ち・・・違う!違うんだ!俺は殺そうと思っていたんじゃない!」

 俺は首を横に振って弁解しながらナイフを手に持ったまま夫人のほうに歩み寄った。

 「た・・・助けて!人殺し!」

 夫人はそう叫んで震えながらドアの方向に這って行った。

 「違う!違う!おい!違うって!」

 俺は夫人を後ろから捕まえると必死で状況を説明しようとした。

 夫人が体を反転させたとき・・・

 グサリ・・・

 さっき感じたばかりのいやな感触がまた俺の手に伝わった。

 「ば・・・馬鹿!何でこっちを向くんだ!俺じゃない!俺が刺したんじゃない!」

 胸を一突きされた夫人は目を見開いたままあっと言う間に息絶えた。

  

【エピローグ】

 俺のサバイバルナイフは結局二人の人間を殺したことになったが、俺には殺意があったわけではない。偶然ナイフが二人の体に刺さってしまったのだ。

 しかしそれを知っているのは誰もいない。

 状況からは、誰が見ても俺は強盗殺人犯だ。

 その場にいた人間がいれば弁解してくれるかもしれないが、そいつらは俺が殺しちまった。

 若い弁護士は必死に俺の罪を軽くする努力をしてくれているようだが俺はあきらめている。

 案の定、俺には死刑の判決が下った。

 俺は、控訴はしなかった。

 だって『知ってしまった未来』はどうあがいたって変えられないのだから・・・。

 俺の死刑はきっと831日に施行されるはずだ・・・・・・・・・。

 そしていよいよ俺の死刑が執行される日がやってきた。

 その日の朝、まだ暗いうちに目を覚ました俺は準備に取り掛かった。

 看守は今日俺が処刑されるということを既に知っているのだろう。

 そして奴は、俺がまだそれを知らないでいると思っているのだ。

 きっと朝になって俺にそれを伝えるときの状況を想像しながら眠っていやがるのだ。

 知ってしまった未来は変えられない。

 しかし俺は未来の奴隷にはならない。

 決められたとおりに最後を迎えるのはごめんだ。

 俺は服を細かく裂いて作ったロープを格子に掛けるともう片方を自分の首に巻いた。

 最後は・・・未来に運命を決められる前に・・・自分で決めてやる。

 そして俺は一気に体重をかけてぶら下がった。

 俺の意識は徐々に遠のいていった。

 『俺の死刑判決の再審請求が認められた』という朗報を持ってきた弁護士がやってきたときには・・・俺は既に冷たくなり、霊安室に横たわっていた。

 当日の天野との会話が記録されたレコーダが天野の部屋から見つかり、その調査によって再審が認められたらしい。

 あらかじめそのことを教えられていれば俺だってこんなことはしなかっただろうが、弁護士は俺をぬか喜びさせないために、再審の決定が確定するまで俺に伝えなかったらしい。

 そして831日は・・・刑の執行の予定などはなかったのである。

 これもまた、決められた未来なのだ・・・・・・。

 「知ってしまった未来は、どうあがいても変えられない。しかし知らなければ・・・未来には無限の可能性がある」 

(終わり)

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