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2011年1月 7日 (金)

メディカルゲーム(第5章:第3ステージ)(1/3)

5章 第3ステージ

残った6人は視聴覚室に集められた。

「これより第3ステージの説明をいたします」

 冴野涼が周りを見回しながら言った。

「第3ステージも団体戦ですが、勝ち残った二つのチームの対戦形式で行われます」

「対戦形式?」

 千夏がビックリして聞き返した。

「チーム戦を行って勝ったチームを最終的に合格といたします」

「医師の技量を決めるのにどうして競争しなくちゃいけないんですか?」

 千夏は憤慨して聞いた。

「質問にはお答えできません。同意されない方はこの場で退場されて結構です」

 冴野涼はそう答えて周りを見回したが誰も席を立とうとするものはいない。

「よろしいですか?では第3ステージのルールを説明いたします」

 冴野涼は会場の中央にある対面式のテーブルを指差した。

「対戦は各チーム1人ずつ、計3回戦の合計得点で競われます。対戦順は各チームにお任せします。内容はカード戦による診断確定です」

「カード戦?」

 千夏がまた怪訝そうな声を出した。

 そこへ小田切が座ったまま下から上がってきた。

 小田切はA6版のプラスチックカードを4つの山に分けてテーブルに置いた。

 冴野涼はそれを指差して言った。

「ここに4つに分けられた電子カードがあります。それぞれ、患者さんの『問診』『身体所見』『検体検査(血液や尿の検査)』『その他の検査』の内容が記録されています。最初これを4種類ずつ合計4枚配ります」

 冴野涼は両チームのテーブルに電子カードを4枚ずつ配った。

 そしてそれを二人の黒服が、備え付けられたカードホルダーにセットした。

 するとテーブルに備えられた端末に4分割で情報が表示された。

 

―――――

問診:                   3日前から咳と痰があり。鼻水なし。下痢なし。頭痛なし

身体所見:            胸部 心音異常なし  肺野 ラ音なし

検体検査:            白血球8900 CRP1.2

その他の検査:      (レントゲン画像表示)

―――――

「相手チームの情報は表示されません。対戦は1ターンごとに交互に進行します。対戦者が選択できるのは・・・ディール、ゲット、コールの3通りです」

 冴野涼の言葉に巧がつぶやいた。

「なんか・・・本当にトランプみたいだな」

「『ディール』はディーラーから新しいカードを要求することが出来ます。4種類のカードのうちどのカードを要求するかを選択します。『ゲット』は対戦相手の手元にあるカードを要求することが出来ます。ただし相手が最後に獲得したカードは要求できません。『コール』はその時点で診断を確定します」

「ターンごとに手持ちのカードは増えていくのか?」

 龍二が聞いた。

「いいえ。カードをもらうときはまず自分のカードを場に提出しなくてはなりません」

 黒服がカードホルダーのカードを1枚はずして中央におかれたカードホルダーに差し込んだ。

 すると正面の大型モニターにその情報が表示された。

「このように場に捨てたカードの情報は相手にも表示されます。対戦者は自分のカード情報と場に出されたカード情報を総合して診断を確定していただきます」

「対戦者以外の二人は?」

 榊原瞬が聞いた。

「対戦者以外の方はそれぞれのモニタールームで観戦していただきます。モニタールームからは対戦者には一度だけアドバイスすることが出来ます。アドバイスボタンを押して対戦席のランプがついたら対戦者はヘッドホンをつけてアドバイスを聞いてください。アドバイスできるのはどのカードをディールまたはゲットするか、もしくはどのカードをホールドするか、それともコールを促すかのどれかです。その他の指示は許されません。アドバイスは相手側には聞こえませんが我々には聞こえますのでご注意ください」

 冴野涼が説明を終わると龍二が吐き捨てるように言った。

「俺は・・・降りる」

 冴野涼は無言で龍二を見つめた。

「こんなギャンブルのような方法で医者の力量が判断できるとは思わない。俺はごめんだ」

「辞退は自由です。ただし辞退した場合はチーム全員が失格となります」

「チッ・・・・・」

 龍二は悔しそうに舌を打った。

「いいんじゃないの?面白そうじゃない。僕は参加するよ。このカードゲーム」

 榊原瞬がうれしそうに言った。

「榊原先生、岡田先生、美月先生のチームは参加でよろしいですね?」

 冴野涼の言葉に3人はうなずいた。

「伊達先生、瓜生先生、上原先生はどうされますか?」

 巧と千夏はお互いの顔を見合わせた。

 そして龍二は吐き捨てるように言った。

「勝手にしろ」

 小田切は座ったまま、にやっと笑った。

 冴野涼は6人に向かって言った。

「今から10分間の休憩時間を設けます。10分後に第一対戦者はここにおいでください」

会場正面に向かって左側のモニター室には龍二達が座っていた。

「私、最初に行きます!」

 千夏は立ち上がると龍二に向かって言った。

「千夏が?」

「はい。私が最初に負けても伊達先生と瓜生先生が挽回してくれるでしょ?私の戦い方を見て勝ち方を研究してください。それと・・・アドバイスよろしくお願いします」

 千夏はぺこりと頭を下げた。

「じゃあ次は僕が行くよ。龍二君は最後に頼むよ」

 巧が言った。

「わかった」

 右側のモニター室では榊原達が相談していた。

「美月先生、最初に行ってくれるかな?」

 榊原瞬が笑みを浮かべながら美月サヤカに言った。

「私が?いいわよ」

「むこうは多分あのお嬢ちゃんが最初に来るだろう。僕や岡田先生よりも女性の君のほうが冷静に戦えると思うんだ」

 岡田将太もうなずいた。 

「ところで・・・このゲームの目的はなんだかわかるかい?」

 榊原瞬は二人を見ながら言った。

「目的?それは出来るだけ早く診断をつけることじゃないのか?」

 岡田将太が言った。

「ちがうな。診断にはどんなに時間がかかってもかまわないんだ。本当の目的は『相手より早く』診断をつけることだよ」

「相手より早く・・・」

「そう。相手より1ターンでも早く診断をつければ勝ちってこと。そのためにはどうするか?」

 榊原瞬は二人の顔を交互に見つめた。

「診断をつけるためにはキーになる情報が記録されたカードが必要だ。それがあればかなりの確率で正確な診断が出来るってカードだ。それを相手に見せないことが大切なんだ」

「キーになる情報・・・」

「キーになる情報を含んだ『キーカード』をホールドして相手に情報を与えないことが最も重要なんだよ。わかるかい?」

 榊原瞬は得意顔で言った。

「そのためには・・・・・・・」

《先鋒戦》

 対戦テーブルには上原千夏と美月サヤカが着いていた。

 正面に向かって左に千夏、向かって右に美月サヤカが座り、真ん中に冴野涼がまるでカジノのカードディーラーのように立っていた。そしてその後ろに小田切がにやけながら座っていた。

「ではこれより先鋒戦を始めます。Aチームは美月サヤカ先生。Bチームは上原千夏先生」

 千夏と美月サヤカは右手を伸ばして握手をした。

「お手柔らかにね」

「こちらこそよろしくお願いします!」

―なんてきれいな人なんだろう・・・―

 千夏は握手をしながらぼんやりと美月サヤカを見つめていた。

―だめだめ!この人は敵なのよ!最初から気持ちで負けちゃだめ!―

 千夏はそう思い直して席に着いた。

「では先攻後攻を決定します。まずコイントスをします。第二ステージで成績が上位の美月先生。選択してください」

 冴野涼の言葉に美月サヤカが静かに答えた。

「表」

 冴野涼の手からコインがトスされた。

「表です。では美月先生、先攻後攻を選択してください」

―このゲームは情報があとから集められる後攻が絶対有利・・・―

「私は後攻でお願いします。悪いわね、お嬢ちゃん」

 美月サヤカは笑みを浮かべながら千夏に言った。

「わたし・・・お嬢ちゃんじゃありません!ちゃんと上原千夏って呼んでください!」

 千夏は無気になって答えた。

「あらごめんなさい。じゃあ千夏ちゃんね」

 美月サヤカは悪びれもせずに言った。

「ではまず第一症例のプロフィールを提示します」

―――――

29歳男性』

主訴:四肢脱力

19時頃に友人とすし屋に行った。21時頃から手足に力が入らなくなって歩けなくなり救急車で2130分受診。ほぼおなじものを食べた友人は異常なし。

 血圧100・56 脈拍96 不整なし。体温37.1度、sPO2 98%

―――――

「この症例の診断を確定していただきます。まず最初の4枚のカードを配ります」

 冴野涼は千夏、美月の順に1枚ずつ合計4枚ずつのA6版の電子カードを配った。

 千夏が配られたカードをカードホルダーに差し込むと端末に情報が表示された。

―――――

問診:                   頭痛なし。嘔吐なし、下痢なし。動悸あり

身体所見:            瞳孔(異常なし) 対光反射(正常)

検体検査:            尿蛋白(陰性) 尿糖(陽性) 尿潜血(陰性)

その他:                胸部レントゲン 異常なし

―――――

  

 千夏はモニター画面をじっと見つめていた。

 すると美月サヤカが千夏に言った。

「ところで千夏ちゃん、正しい診断をするためには何が重要かおわかりかしら?」

「え?それは・・・きちんと問診をして病歴を確認して・・・きちんと身体所見を取ることだと思います」

「さすがね。ここまで残っただけのことはあるわ。そんな千夏ちゃんに提案なんだけど・・・。最初の3ターンは問診と病歴カードだけをディールしてもらって・・・診断するのはそのあとってことでどうかしら?」

「え?それは・・・・」

―確かに・・・病歴と身体所見をしっかりとることが診察の基本だけど・・・―

 千夏は困惑して考えていた。

―交互にカードを引くんだからお互いおなじ条件よね。美月先生は裏切るような人にも見えないし・・・―

「なんか・・・怪しいね」

 巧が会場の画面を見ながらモニタールームでつぶやいた。

「千夏。誘いに乗るな。何かあるぞ」

 龍二が腕組みをしながら言った。

 千夏は顔を上げて笑顔で答えた。

「わかりました!私もその意見に賛成です!まずは病歴と身体所見をしっかりととりましょう」

「ありがとう。じゃあ、私が問診カードを3枚連続で引くから千夏ちゃんは身体所見カードを3枚連続で引いて頂戴」

―お互いおなじカードを3枚引くんだから対等よね・・・捨てたカードは両方が見れるわけだし・・・―

「わかりました!私は身体所見カードを引きます!」

 千夏と美月サヤカは冴野涼から順番にカードを引いてカードホルダーにセットし、次のターンでは同じカードを場に捨てて(場のホルダーにセットして)次のカードを引いた。

 その結果、千夏のカードと場のカードは以下のようになった。

―――――症例―――――

29歳男性』

主訴:

四肢脱力

19時頃に友人とすし屋に行った。21時頃から手足に力が入らなくなって歩けなくなり救急車で2130分受診。ほぼおなじものを食べた友人は異常なし。

 血圧100・56 脈拍96 不整なし。体温37.1度、sPO2 98%

―――――――――――

―――――千夏のカード―――――

問診:                   頭痛なし。嘔吐なし、下痢なし。動悸あり

身体:                   四肢筋力低下。握力右5kg 左4Kg。左右差なし。

検体検査:            尿蛋白(陰性) 尿糖(陽性) 尿潜血(陰性)

その他:                胸部レントゲン(異常なし)

―――――――――――

―――――場に捨てられたカード―――――

問診:                   今まで特記すべき疾患なし。スギ花粉症あり。薬剤アレルギーなし

問診:                   体重がここ3ヶ月で4Kg減っている。3週間前に胃腸炎に罹患している。

問診:                   今まで軽い脱力発作23回あり。

身体所見:            瞳孔(異常なし) 対光反射(正常)

身体所見:            腹部圧痛なし。グル音やや低下。腱反射低下。浮腫なし

身体所見:            心雑音なし、心拍数96、ラ音なし

―――――――――――

―さあ、ここからが勝負よ!―

 千夏は得られた情報を元にプロブレムリストを作成した。

*****

#1 四肢脱力(いままでも軽い症状あり)

#2 腱反射低下

#3 頻脈、体温上昇

#4 体重減少

#5 尿糖陽性

*****

―なんだろう?若い男性の脱力発作か・・・。体重が減っているし尿糖が陽性だったら糖尿病があるのかも・・・。おすし屋さんで食べたもので食中毒を起こしたのかしら・・・ひょっとしてふぐ中毒?でも友人は異常ないって言っているし・・・。ひょっとしたらギランバレー症候群?―

 千夏は考えた末に顔を上げて冴野涼を見つめた。

―四肢麻痺だからまず頭部の検査は必須だわ。じゃあ頭部CTMRIが欲しい―

「その他の検査のカードをお願いします」

 千夏は自分のカードを場のホルダーにさしながら言った。

 その瞬間中央のモニターには千夏のモニターに表示されていた情報が表示された。

―――――

その他:                胸部レントゲン(異常なし)

―――――

 冴野涼は黙ってカードを千夏に渡した。

 千夏はそれを自分のカードホルダーにセットした。

 すると千夏のモニターに頭部CTの画像が動画で順番に表示された。

―やった!CTだ!―

 千夏は食い入るように画面に目を凝らした。

―特に・・・異常なさそうね―

 そんな千夏を美月サヤカは冷めた目つきで観察していた。

―お嬢ちゃん・・・真剣に見ているわね。きっと頭部のCTMRIのカードを引いたのね。でもね・・・きっとそこには所見はないはずよ―

 美月サヤカはちょっと笑みを浮かべながら自分の身体所見カードに目を移した。

そして冴野涼にゆっくりと言った。

「私は検体検査カードをいただくわ」

 美月サヤカが自分のカードを場のホルダーにセットすると中央のモニターに彼女が捨てたカードの情報が表示された。

―――――

検体検査:            白血球8700  赤血球476 Hb15.3 Ht 45.1

―――――

 冴野涼は無言で新しい検体検査のカードを渡した。

 美月サヤカはそのカードを自分のホルダーにセットしてモニターに目を移すとニヤッと笑みを浮かべた。

―美月先生、今笑った・・・。何か重要な情報が入ったのかしら・・・。捨てられたカードの血液検査は特に異常所見はないわ―

 千夏が心の中でつぶやいた。

―どうしよう・・・頭部CTは異常なし。頚椎の病変かしら・・・。それともギランバレー?だったらやっぱり画像検査か脊髄液検査が決め手になるわ。もう一度その他の検査のカードを引かないと・・・―

「その他の検査のカードをお願いします」

 千夏は自分のカードを場に捨てながら冴野涼に言った。

 配られたカードをホルダーにセットすると千夏のモニター画面に心電図画像が表示された。

 ―残念・・・心電図か・・・。所見は・・・脈拍100。洞性頻脈だわ。それ以外に所見はなさそうね―

 

 美月サヤカは自分のホルダーにあった検体検査カードを取ると場に捨てながら言った。

「もう一度検体検査のカードをお願い」

 中央のモニターには血液検査結果が表示された。

―――――

 検体検査:AST32↑(<30) ALT 30 LDH 253↑(<250) CPK 178↑(<170)

―――――

 美月サヤカはディールされたカードを自分のホルダーにセットすると今度は明らかな笑みを浮かべた。

 千夏はそんな美月サヤカの表情には気がつかず、彼女が場に捨てたカードの情報が表示された中央のモニターをじっと見つめていた 

CPKLDHがわずかに高いわ。筋肉系の酵素の上昇?筋肉の疾患かしら?―

モニタールームの龍二は画面に目を凝らしていた。

「まずいぞ・・・相手は既に診断を確定している」

「次のターンでコールだね。でも千夏ちゃんはまだ診断の糸口をつかんでいない」

龍二はアドバイスボタンを押した。

 千夏のテーブルのアドバイスランプが点燈し、それを見た千夏はあわててヘッドホンを装着した。

<千夏!あいつの身体所見カードをゲットしろ!>

「え?美月先生のカードですか?」

<そうだ。診断の鍵はそこにある!>

「わかりました!」

 千夏はヘッドホンをはずすと美月サヤカに言った。

「あの・・・美月先生の身体所見カードを・・・ください」

 それを聞いた美月サヤカはふふんと笑いながら自分のカードをはずして千夏に差し出した。

「いいわよ。どうぞ」

 千夏は自分のカードを場に捨てるともらったカードをセットした。

 すると千夏の画面には・・・

―――――

身体所見:            

甲状腺腫 3

―――――

―甲状腺腫!!!若い男性なのに?じゃあ・・・バセドウ病?―

 甲状腺は若い女性では腫大することがよくある。しかし男性で甲状腺が腫大しているということは明らかに異常である。腫大の程度は1度から3度まであり、3度は目で見てわかるくらいの腫大である。若い男性で甲状腺が腫大しているということはバセドウ病、すなわち甲状腺機能亢進症などの甲状腺疾患の可能性がきわめて高くなる。

「やっぱりな・・・」

 モニタールームで龍二が悔しそうにつぶやいた。

「なるほど・・・あっちはこれをもっていたから検体検査に狙いを絞っていたわけだね」

 巧もうなずいた。

―ちょっと遅かったようね、お嬢ちゃん。あなたは先攻だからもう私の勝ちは確定。あとはあなたが何ターンで正解に行き着くかよ―

 美月サヤカは冴野涼に向かってゆっくりと言った。

「コール」

「では端末から診断を入力してください」

 その言葉に美月サヤカは端末に入力してリターンキーを押した。

 その瞬間チャイムがなり、正解ランプが点燈した。

「美月先生、正解です。このターンは終了していますので、以後、上原先生がターンを経過するごとに10ポイントずつマイナスとなります。上原先生には新しいカードをディールすることはできますが、今後美月先生のカードはゲットすることは出来ません」

 冴野涼が千夏に向かって言った。

 千夏は呆然として美月サヤカを見つめていた。

―負けたんだ・・・わたし・・・。でも・・まだ終わりじゃない!診断を確定するまでどんどん減点されていく。早く診断をつけないと!―

「千夏、落ち着け!ゆっくり考えれば決して診断は難しくない」

 龍二はモニタールームで祈るように見つめていた。

「がんばれ!千夏ちゃん!君ならこれで診断できるよ!」

―なんだろう?甲状腺腫。頻脈。体温上昇。体重減少・・・。典型的なバセドウ病だ。尿糖陽性もバセドウ病で説明できる。バセドウ病で手足の脱力・・・・―

 千夏は必死に考えた。

―美月先生は最後に検体検査カードを引いて診断を確定した。じゃあ、血液検査で診断できる疾患なんだ・・・―

 その瞬間千夏は顔を上げた。

―低カリウム血症だ!バセドウ病の低カリウム血症による周期性四肢麻痺!―

 低カリウム血症は血液中のカリウムが低下する疾患である。

 カリウムが低下すると筋力が低下し、四肢の脱力や腸管の麻痺が起こる。

 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では時々低カリウム血症を繰り返し、四肢の脱力発作を起こすことがある。これを周期性四肢麻痺という。

「わたし、コールします!」

 千夏が冴野涼に向かって言った。

 美月サヤカはちょっと意外な顔で千夏を見つめた。

「診断をどうぞ。口頭で結構です」

「診断は・・・バセドウ病の低カリウム血症による周期性四肢麻痺です!」

 その瞬間、美月サヤカはちょっと引きつった笑みを浮かべた。

「正解です。上原先生はマイナス10ポイントです」

 冴野涼の声に千夏はぐったりしてテーブルにもたれかかった。

 千夏はうなだれてモニタールームに戻ってきた。

「すみません・・・負けちゃいました・・・・」

「よくやった。千夏」

 龍二が千夏の肩を抱いて言った。

「がんばったね!千夏ちゃん!」

 巧も千夏の手を握った。

「マイナス10ポイントなら上々だよ!」

「私、周期性四肢麻痺なんて全然気がつきませんでした」

 千夏は申し訳なさそうに言った。

「仕方ないよ。あっちは最初から甲状腺腫のカードを持っていたから気がついたんだよ」

 巧が慰めるように言った。

「このゲームはキーカードを持ったほうが圧倒的に有利だ」

 龍二が言った。

「キーカード?」

 千夏と巧は一緒に聞き返した。

「この症例の甲状腺腫のように、診断を確定する、もしくは診断に極めてちかづくことが出来るカードを持ったほうが有利になる」

「それはそうだけど・・・運じゃないかなー」

「大切なことはキーカードを相手に見せないことだ」

「相手に見せない・・・」

 千夏がつぶやいた。

「あいつは最初から甲状腺腫のカードを持っていた。これを千夏に見せないようにあんな提案をしたんだ」

「自分はキーカードをホールドしたまま情報を集めようってことだね」

「一見条件は対等に見えるが情報が集まるほどキーカードを持っているほうが圧倒的に有利になる」

「なるほど・・・じゃあキーカードを手に入れたらなるべくそれをホールドして相手に見せないことが大切だってことだよね」

 巧がうなずいた。

 もう一つのモニタールームでは榊原瞬と岡田将太が美月サヤカを迎えていた。

「おつかれ様!おめでとう、美月先生」

 岡田将太は笑顔で美月サヤカと握手をした。

「おつかれ様。でも・・・ちょっともたもたしすぎかな?」

 榊原瞬の言葉に美月サヤカはちょっと不機嫌な顔で彼を見つめた。

「最初からキーカードを持っていたんだからもう12ターン前でコールしてもよかったんじゃないかな?」

「最初だから診断が確定するまで慎重になっていただけよ」

 美月サヤカは不機嫌そうに答えて榊原瞬の横をすり抜けて椅子に座った。

「まあ。10ポイントでも勝ったんだからよかったとしないといけないかな?」

 榊原瞬はふふんと笑いながら座った。

メディカルゲーム第5章(2/3)に続く

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いつもブログ見ています。またお邪魔させていただきます。

ゴリさんありがとうございます。
最近やや多忙で更新が滞っていますがこれからもよろしくお願いします。

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