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2011年1月10日 (月)

メディカルゲーム(第6章:ファイナルステージ)(1/2)

【第6章 ファイナルステージ】

《第一症例》

「ファイナルステージは実地試験です。実際に救急室で患者さんを診察し、的確な治療を行っていただきます。診断がついた時点でコールボタンを押してください。以後の専門的治療は当方で行います」

冴野涼の声ががらんとした第二講義室に響き渡った。

「救急の診療試験って・・・どんな患者さんがくるんでしょうか?」

千夏が不安げに龍二に聞いた。

「たぶん、試験用に急患を作っているんだろう?」

龍二は皮肉をこめて言った。

6人の医師達はブルーの術衣に着替え、榊原のグループは第一救急室へ、そして龍二達のグループは第二救急室に案内された。

「ここ・・普通のERルームですよね」

千夏が部屋の周りを見回して言った。

「人工呼吸器と心電図、エコーにポータブルレントゲンまで置いてあるよ」

巧も感心しながらあたりを見回っていた。

「血液検査も一通り出来るようだ。CT室も前にあるようだな」

龍二も薬剤を確認しながら言った。

「どんな患者さんが運ばれてくるのかしら・・・」

千夏が不安げに言った。

「とにかく呼吸器をスタンバイして点滴の準備をしておこうよ」

巧が呼吸器のスイッチを入れて点検を始めた。

千夏はモニターのスイッチを入れて点滴の準備を始めた。

龍二は薬剤と物品を一つずつ確認していった。

その時ドアが開いてストレッチャーが搬送された。

いつもの救急室の光景だ。

しかし違っているのは搬送しているのが救急隊ではなく、サングラスを掛けた黒服たちだということだ。

52歳男性。1時間前から腹痛あり。嘔吐なし。下痢なし。最終の食事は4時間前。既往歴に手術歴なし。その他の疾患に関しては不明」

そう言いながら黒服たちは患者を救急室のストレッチャーに移すと無言でドアから消えていった。

「おいおい!ちょっと待てよ!」

龍二が後から呼び止めるが誰も振り向かずにドアは閉められた。

あとには苦しそうに冷や汗をかいてえびのように丸くなって腹部を押さえている患者が残された。

「なんだよあれは?あれで申し送りか?」

龍二は不満そうにつぶやいた。

千夏と巧は手際よく心電図モニターを装着し、血圧を測定していった。

「血圧150と98。脈拍100。sPO2 98%」

巧が血圧モニターを確認しながら言った。

「点滴を確保します」

千夏が点滴の準備に取り掛かった。

龍二はポケットから聴診器を取り出しながら言った。

「千夏、点滴のときに採血も頼む。血算とCRP。それに肝機能腎機能など一般採血だ。血糖も忘れるな。巧はレントゲンを準備してくれ。胸部と腹部の臥位だ」

「了解!」

千夏と巧は同時に返事をして準備を始めた。

龍二は患者に向かって聞いた。

「名前は?」

「肚子痛・・・」

患者は苦しそうに声を上げた。

「なんだ?」

「・・・中国語だよ・・・龍二君」

巧がびっくりして振り返った。

「なんだって?あんた日本語は?」

患者は苦しそうな表情で首を横に振った。

「何てことだ・・・。中国語わかるか?」

龍二は千夏と巧を見つめて聞いた。

二人はあわてて首を横に振った。

「これじゃあ問診のしようがないじゃないか!」

「困苦。想法想要!!

患者は苦しそうに腹部を抑えている。

「チッ・・・仕方ない・・・」

龍二はあきらめて患者の診察を始めた。

―かなりの腹痛だ。1時間前からって言っていたな。消化管穿孔か急性膵炎の可能性が高いな―

「心雑音なし。不整脈なし。呼吸音正常。心拍数は100を超えている」

龍二は二人に聞こえるように大きな声で所見を述べた。

これによって3人は情報を共有できるのだ。

「腹部は・・・・・・・腸雑音はほとんど聞こえない」

龍二はしばらく腹部の聴診をして腸の蠕動音が低下していることを確認した。

そして腹部の触診を行った。

「うん?おかしいな・・・」

龍二は患者の表情を観察しながら腹部をくまなく触診していった。

患者は龍二が腹部を抑えると顔をしかめる。

―デファンスがない・・・てっきり穿孔だと思ったが・・・柔らかいじゃないか・・・圧痛も局在していない―

 デファンスは筋性防御と呼ばれ、腹膜に炎症が及んだときに見られる兆候である。

 腹部を押さえると腹筋が硬直して硬くなる所見である。

 デファンスがあるということは腹膜炎や消化管穿孔など重篤な疾患が隠れていることを意味する。逆にデファンスがなければ通常は緊急手術を必要とする疾患は少なく、医師は少し安心して経過を見ることができる。

「デファンスは・・・ない・・・」

 龍二は二人に向かって言った。

「デファンスなし?じゃあ穿孔じゃなさそうだね」

巧がレントゲンの準備をしながら聞いた。

「でもひどい痛がりよう!鎮痛剤を何か使わないと!」

千夏が点滴準備の手を止めて龍二に言った。

「鎮痛剤はあとだ!まず点滴ラインを確保して採血しろ!」

龍二は冷たい口調で言い放った。

「だめ!痛みをとるのが先!」

千夏の大きな声に龍二と巧はビックリして千夏のほうを見つめた。

「点滴が先だ!鎮痛剤を先に打ってショックになったらどうするんだ!」

龍二が叫んだ。

「この人、言葉も通じないところで病気になってすごく不安な気持ちでいます。せめて・・・せめて痛みを軽くしてあげないと!」

「・・・・」

そして千夏は龍二を見つめてきっぱりと言った。

「まだバイタルは安定しています!血管も十分見えているから血管確保は難しくありません!まず痛みをとってあげてください!」

龍二は千夏の勢いに圧倒された。

「わかった・・・じゃあソセゴンを15mg筋注してくれ。そのあと採血と血管確保頼む」

「わかりました!」

千夏は既に手に持っていたソセゴンを注射器につめるとすばやく患者の肩に注射した。

「痛み止めです。これで少し楽になりますからね。次に点滴をしますから・・・」

謝謝。恩穿・・・・

患者は千夏の言葉はわからないようだったが千夏の声にうなずいた。

「レントゲン撮るよ!」

巧がポータブルのレントゲン装置をベッドサイドに運んできた。

龍二は患者の背中に板を入れた。

「採血完了。血管確保しました!」

千夏が叫んだ。

「よし!レントゲン撮るから一旦外に出て!」

巧の声にしたがって龍二と千夏はドアから外に出た。

Dont move!!

巧が叫んだ。

ピッ

電子音が救急室に響いた。

その音とともに龍二と千夏は再び救急室に入ってきた。

「血液検査始めます!血算とCRP。肝機能、腎機能、血糖ですね!」

千夏は採血管を機械にセットした。

「ああ、膵炎疑いだからアミラーゼも忘れるなよ」

龍二が笑顔で言った。

「わかりました!」

千夏は機械に採血管をセットした。

「レントゲンできたよ!」

巧がレントゲンモニターの前でマウスを操作しながら言った。

モニター画面には患者の腹部レントゲン像が映し出された。

「小腸の拡張があるよね」

「ああ・・・イレウスか?」

龍二も画面に見入った。

「血算の結果出ました!白血球13000と上昇。赤血球456万。ヘモグロビン15.0。ヘマトクリット45.6%。血小板13.5万。CRPは・・・2・2です!」

千夏が画面を見ながら声を上げた。

「1時間前からの腹痛。デファンスなし。小腸の拡張。白血球増加。炎症反応軽度上昇・・・」

龍二は頭の中でプロブレムリスを挙げた。

*****

#1腹痛(デファンスなし。急激な発症)

#2小腸の拡張、腸蠕動音の低下

#3白血球増加、炎症反応軽度上昇

*****

「最も考えられるのがイレウス。次に急性膵炎、胆のう炎、虫垂炎てとこかな?」

巧が言った。

「そうだな。ただし急性発症だから消化管穿孔と大動脈解離はきちんと鑑別しておかないといけない」

龍二が言った。

「それに・・・心筋梗塞も除外しておかないといけないと思います」

千夏が言った。

「その通りだ。よし、巧。エコーを頼む。千夏、心電図をとってくれ。俺は外(がい)ヘルニアによるイレウスの可能性を考えてもう少し診察してみる」

龍二はそういいながら患者に向かった。

 ヘルニアとは腸管が穴から飛び出す疾患で、飛び出したままねじれてしまうと腸閉塞(イレウス)の原因となる。これを絞扼(こうやく)性イレウスといい、緊急手術が必要である。

 腹部の外に飛び出すヘルニアを外(がい)ヘルニア、腹部の中にある穴に腸管がもぐりこむことを内(ない)ヘルニアという。

 外ヘルニアの原因はソケイヘルニア、大腿ヘルニア、腹壁ヘルニアなどであり、それぞれの部位を丁寧に診察することにより診断が可能である。それに対して内ヘルニアは診察だけでは診断は困難で、CT検査が必要となる。

患者は鎮痛剤が効いたのか少し苦痛表情が改善している。

龍二は患者の下着を脱がせてソケイ部を観察した。

―ソケイヘルニアや大腿ヘルニアはなさそうだな。あとは閉鎖孔ヘルニアの確認だ。ハウシップロンベルグサインは・・・―

 閉鎖孔ヘルニアは骨盤にある閉鎖孔という穴に腸管が入り込む疾患でいわゆる内ヘルニアの一つである。股関節を伸展することにより大腿部に疼痛が出現し、これをハウシップ=ロンベルグサインという。

その時龍二は患者の右の大腿部の絆創膏に気がついた。

―なんだろう?こんなところに・・・―

龍二は絆創膏をはがしてみた。

そこには少々出血している小さな創があった。

―まだ新しい創だ。まるで血管造影のために大腿動脈を穿刺したばかりのような創だ―

龍二がじっと考え込んでいると千夏が声を出した。

「心電図とります!」

その声とともに龍二は患者から離れた。

「・・・脈拍100。不整なし。ST変化ありません。心筋梗塞はなさそうです」

「エコーも準備できたよ」

巧がエコー装置を患者の右側に持ってきた。

「じゃあはじめるね」

巧はプローブを持って肝臓から順番に検査をすすめていった。

「腹腔(ふくくう)内のエコーフリースペースなし。腹腔内にエフュージョンはなさそうだから消化管の穿孔はなさそうだね。胆嚢拡張なし。膵臓腫大なし。腎盂拡張なし。大動脈の解離もなさそうだね。腸管は・・・拡張している。内容物がたまっているようだ。腸管の動きはほとんどなさそう。やっぱりイレウスっぽいかな?」

「外ヘルニアはなさそうだ。手術暦もない。内ヘルニアのカントンか・・・」

「じゃあCTを撮らないと・・・」

千夏が言った。

「この痛がり方だと絞扼性(こうやくせい)イレウスで血行障害をきたしている可能性が高いかな。じゃあ、診断だけつけて外科に依頼ってことだね。でもイレウス管は早めに挿入しないと・・・」

巧が言った。

イレウス管は鼻から腸管に挿入するチューブで、腸にたまったガスや内容物を外に出すことができる。イレウスの原因にかかわらずとりあえずは状態を改善させる効果がある。

しかし、龍二は無言で考え込んでいた。

「伊達先生。どうしたんですか?イレウスじゃないんでしょうか?」

千夏が不安そうに聞いた。

「なぜ・・・なぜこんなにタイミングよく内ヘルニアのイレウスを発症する?」

「そう言われれば・・・僕たちの最終ステージのために用意されたみたいな患者だけど、こんなに都合いい患者がいるわけないな」

「でも穿孔はなさそうだし、あの痛がり方はやっぱり血行障害があるんじゃないでしょうか?絞扼性イレウスの早期ならデファンスがないのもわかりますし・・・」

 千夏が言った。

「血行障害・・・腸管の血行障害が起こる原因・・・」

龍二はじっと考え込んでハッと目を開いた。

「巧!もう一度エコーをやってくれ!」

「エコー?」

「ドップラーで上腸間膜動脈の血流を確認してくれ!」

「上腸間膜動脈・・・そうか!上腸間膜動脈の閉塞があればイレウスがなくても小腸の血行障害が起こる!」

 上腸間膜動脈は小腸を栄養する血管である。これが血栓などで閉塞すれば小腸は血行障害を起こして動かなくなってしまう。

巧はさっとプローブを手に取ると患者の腹部に当てた。

「上腸間膜動脈確認・・・ドップラー入れるよ!・・・ない!ドップラー信号がない!やっぱり閉塞だよ!」

「上腸間膜動脈塞栓症・・・・なぜ?どこから血栓が飛んできたの?」

 千夏は困惑してつぶやいた。

 体の中のどこかで血の固まり(血栓)が作られ、それが飛んでいって血管に詰まることを塞栓症という。

「この患者には心房細動はなかったな?心房細動があれば塞栓症を発症するのはわかるんだが・・・何らかの血栓を作りやすい素因があるのかもしれない。いずれにせよ緊急で血栓溶解療法だ!」

そういいながら龍二はコールボタンを押した。

画面には小田切が現れた。

<やあ伊達先生。もう診断がついたのかな?>

「上腸間膜動脈塞栓症だ!緊急で血管造影をして血栓溶解療法が必要だ!すぐ治療が出来る施設に転送しろ!」

<ほう・・・なるほどね・・・いいだろう>

そういい残して小田切は消えた。

そしてまもなく黒服たちがやってきて患者をストレッチャーに移し変えて運んでいった。

「おい!どこに連れて行くんだ!ちゃんと治療するんだろうな!」

黒服たちは龍二の言葉には答えず、そのまま患者は運ばれていった。

すると再びモニター画面に小田切の顔が映し出された。

<おめでとう。伊達先生、瓜生先生、上原先生。第一症例は合格だ。CTなしでよく診断できたねー。さすがだよ>

小田切は皮肉をこめて言った。

「どういうことだ!ちゃんと説明しろ!」

龍二が小田切に向かって叫んだ。

<説明?>

「なぜこんなにタイミングよく上腸間膜塞栓症の患者が現れるんだ!それにあの患者は中国人だな?」

<まあ、そんなことはいいじゃないか。君たちは正解したんだから>

「あの患者の右のソケイ部に新しい創があった。おまえ、大腿動脈からカテーテルを挿入して上腸間膜動脈に血栓をつくったな?」

 龍二がモニターの小田切をにらんで言った。

小田切はほんの少しの時間沈黙して、そして平然として答えた。

<ほう・・・あの創に気がついたのかね。さすがだね>

「わざと・・・血栓を作ったんですか?」

千夏がビックリして言った。

<まあ、手ごろな大きさの血栓を作るのにちょっと苦労したがね。うまいタイミングで君たちの前に提示するのは大変だったよ>

「お前何考えてるんだ!れっきとした傷害罪だぞ!」

龍二が憤慨して言い放った。

<心配はご無用。あの患者は中国の死刑囚だよ>

「死刑囚?」

<施設長のシャドウが、中国で1ヵ月後に死刑を執行される予定の男を貰い受けてきたそうだ。もちろん本人も承諾のうえの処置だよ。君たちが的確に診断できれば適切な治療を行うことになっている。救命できれば罪は免除される約束だ。彼は喜んで同意したよ>

「信じられない・・・・」

千夏は首を横に振ってつぶやいた。

「そんな非人道的なことが許されるの?」

巧が言った。

<死刑になるよりずっとましじゃないかなー?生きるチャンスをもらえるんだからね。もっとも、君たちが優秀でなければ早く死んじゃうんだけどね。あの男は運がいいねー>

「目的はなんだ?」

 龍二が聞いた。

<目的?>

「この施設の目的はなんだ!こんなに金を使って犯罪行為をしてまで俺たちに課題を課して選別する。金持ちの道楽だけとは思えないがな」

龍二は吐き捨てるように行った。

<目的か・・・なんだろうなー。私にもわからないよ。私も最終ステージにはあんまり乗り気じゃなかったんだけどね。私はただ指示されたことをやっただけだよ。君たちを試すことが出来る症例を作れっていう指示だけど、さっきの症例はなかなかうまく出来ていたと思うんだけど、どうかな?>

「・・・・」

「許せない・・・」

千夏が下を向いてつぶやいた。

<え?>

「許せないわ!何の目的か知らないけれど人間の体をもてあそぶなんて!あの人どんなに苦しい思いをしたか・・・。たとえ死刑囚でもあんなひどいことをして、許せない!」

千夏は潤んだ瞳で小田切をにらみつけて言った。

<まあまあそう熱くならないで・・・それはそうと、あっちのグループの状況が気にならないかね?>

「榊原もお前が作った患者を治療しているのか!」

龍二が叫んだ。

<まあ、どうぞ・・・>

小田切がそう言うと画面が切り替わった。

―――――

<何をしているんだ!外傷性心タンポナーデだ!早くドレナージをしろ!>

榊原瞬が呼吸器の設定をしながら岡田将太に向かって叫んだ。

<待ってくれ・・・予備穿刺ではちゃんと心膜にあたったんだけど・・・血液が引けないんだ>

心嚢ドレナージをしようとしている岡田将太はあせっていた。

心臓の外側にたまった血腫を除去しなければこの患者の心機能は回復せず血圧は戻らない。

<変われ!>

榊原は岡田将太を押しのけた。

榊原はエコーで観察しながら心嚢腔に向かって針を進めたがやはり血液は引けてこない。

<血圧56!脈拍微弱よ!>

美月サヤカが声を上げた。

<うるさい!わかってる!昇圧剤をアップしろ!それくらい自分でできるだろ!>

榊原は針を一度抜いて再び穿刺を繰り返した。

どんなに技術が卓越した術者でも気持ちが焦っていれば手技はうまくいかない。

<血圧測定不能!>

  美月サヤカの声が救急室に響き渡る。

<血圧が触れなかったら心マッサージだ!それくらいわかっているだろ!昇圧剤全開にしろ!>

榊原は穿刺針を放り投げて自分で心マッサージを始めた。

―――――

「大変・・・」

千夏がつぶやいた。

「第一救急室はどこだ!」

龍二はドアに向かいながら叫んだ。

<おっと伊達先生、無駄だよ>

画面に再び現れた小田切が龍二を制した。

「無駄?まだわからん!助けに行く!」

<だから無駄なんだって・・・それはライブ映像じゃないんだよ。ビデオ映像だよ>

「ビデオ映像?」

<その患者はつい先ほど死亡宣告したばかりだよ。だから無駄だって・・>

「なんてこと・・・」

千夏は顔を覆った。

「こいつもお前が作った患者か・・・?」

龍二が吐き捨てるように言った。

<外傷性血気胸と心タンポナーデ。ちょっと度が過ぎちゃったかなー?>

「信じられない・・・」

巧が首を横に振りながら言った。

千夏は頭を抱えてうずくまっていた。

<榊原先生なら大丈夫だと思ったんだけどねー。でもちょっと彼らはチームワークが悪すぎるよねー>

「お前たち正気なのか?完全な犯罪だぞ。殺人罪だ!」

龍二もあきれた顔で小田切を見つめた。

<犯罪って国家が認定するものだろ?でもシャドウはそれ以上の力を持っているんだよ。何をしたってつかまることはないんだよ>

「そんなことは国民が・・・社会が許さない」

<国民か・・・日本の国民がどんな力を持っているというんだね?右を向けといえばみんないっせいに右を向く。給付金をやるといえば尻尾をふってついてくる。税金を上げるといえば一斉にわめきだす。今の日本の国民に判断する力なんてあるわけないじゃないか。シャドウにはなんだってできる。伊達先生をここに連れてくることだって簡単にできただろう?>

「俺を・・・まさか・・・俺の訴訟もお前たちが仕組んだものなのか!」

<今頃気がついたかね?君が突き飛ばした患者の親戚ね、まあ社会のくずだけど、ちょっと金を積んだら上手に伊達先生を挑発したねー。君がちょっと突き飛ばしたら上手に転んで透析の回路をはずして大出血。しかも本人も上腕骨骨折。出来すぎだよ>

龍二は体を震わせて小田切をにらんだ。

「ひどい・・・」

千夏は首を横に振って心配そうに龍二を見つめた。

<それはそうと・・・そろそろ第二の症例が搬送されてくるから、よろしく頼むよ>

「まだやるつもりか!俺たちはもうお前の言いなりにならない!」

 龍二が叫んだ。

<それは困った。その中国人も君たちがきちんと診断できないと助からないんだけどなー。君たちがここで放棄すると死んじゃうんだよね。まあ、これが最後の試験だからがんばってよ>

小田切はそういい残して画面から消えた。

そしてドアが開き、ストレッチャーが搬送された。

メディカルゲーム第6章(2/2)に続く

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