小説タイトル

最近のトラックバック

« メディカルゲーム(第6章:ファイナルステージ)(2/2) | トップページ | メディカルゲーム(第7章:シャドウの野望)(2/2) »

2011年1月12日 (水)

メディカルゲーム(第7章:シャドウの野望)(1/2)

《医療崩壊》

龍二達が乗ったエレベータは最上階でとまった。

冴野涼は開いた扉を出ると右に曲がり一番奥の部屋の前で立ち止まった。そしてチラッと龍二を見てドアをノックした。

龍二達は広い応接室に案内された。

部屋の周囲には数人の黒服たちが石像のように立っていた。

そして部屋の正面はスモークガラスがあり、その奥に机に座っている人影が見えた。

「お前がシャドウか!」

龍二はスモークガラス越しの人影に向かって歩いていった。

すると周りの黒服たちがいっせいに動き出し、数人が龍二を制した。

「離せ!俺はこいつに話があるんだ!」

抵抗する龍二を黒服たちが無言で抑え込み、無理やりソファに座らせた。

「まあまあ伊達先生。そう熱くならずに・・・。私はどこへも逃げませんから・・・。落ち着いてください。瓜生先生と上原先生もそこに座ってください」

シャドウの声に促されて巧と千夏も龍二の両側に座った。

「伊達先生、瓜生先生、上原先生。まずはおめでとうを言わせてください。最終ステージの合格者はあなた方だけです」

「・・・・」

3人は返事をせずにじっと前を見つめていた。

「私は昨日からずっと拝見していましたが、総合臨床医としての個々の技量とチームワーク、3人ともすばらしかったですよ。正直、最終ステージをクリアするドクターがいるとは予想外でした・・・いや、失礼」

シャドウはそう言った後で目の前のコーヒーをゆっくりとすすった。

「あんたの目的はなんだ?」

龍二が聞いた。

「目的ですか・・・」

「こんなに金を掛けて犯罪行為をしてまで俺たちを試した。ただの金持ちの道楽とは思わない。何のためだ!」

少し間をおいてシャドウが答えた。

「もちろん・・・道楽ではありません」

シャドウはまたコーヒーに口をつけると隣の黒服にゆっくりと言った。

「先生方に何かつめたい飲み物を・・・オリエンタルミックスジュースがいいでしょう」

黒服はかしこまってうなずき、電話を取ってなにやら依頼した。

「さて、私の目的をお話しする前に、先生方にお聞きしたいのですが・・・先生方は今の日本の医療の現状をどうお考えでしょうか?瓜生先生」

ぼんやりと天井を眺めていた巧はハッと体を起こした。

「え?えっと・・・完全に崩壊寸前ってとこでしょうか・・・」

「そうですね。日本の医療情勢は2010年前後から急速に悪化している。ここ1-2年は医師が不足、救急や出産を扱う医療施設が極端に減少しておちおち病気にもなれません。女性も子供を作りたくても生むところがないので避妊している。まさしく日本の医療は崩壊してきているでしょう。ではなぜこうなってしまったのでしょうか?あなた方医師の怠慢でしょうか?上原先生」

 千夏が体を起こして答えた。

「それは・・・私たちは、確かに力不足のところはあるかもしれませんが精一杯努力して診療しています。多忙のために体を壊してしまった同僚もたくさんいます。それでも我々が対応できないのは、日本の医師の数が絶対的に不足していることと、増大する医療費を政府がまかなえなくなってきているからではないでしょうか・・・」

「そうですよね。上原先生のおっしゃるとおり、医師不足と医療費の不足、それが日本の医療崩壊の大きな原因です。でも・・・私の分析はもう少し踏み込んでいるのですよ」

その時ドアが開いて龍二達の前にジュースが運ばれてきた。

「どうぞ、きっとお気に召すと思いますよ」

シャドウに促されて巧と千夏がゆっくりと口をつけた。

「おいしい・・・」

千夏が一口飲んで言った。

「めっちゃうま!こんなの飲んだことないよ!」

巧が感激して答えた。

龍二はじっと腕を組んだまま目をつむっていた。

その様子を机の上のモニターで見ながらシャドウが続けた。

「日本の医療が崩壊している大きな原因は端的に言うとですね・・・『医療機関が出来ないことを社会が要求しているから』・・・なんですよ」

「医療機関が出来ないこと?」

千夏が怪訝そうに首を傾げた。

「そうです。たとえば・・・院内感染が起こって患者が亡くなった。これは病院のミスだ。行政処分を行う。医師の感染症対策が悪かった。業務上過失致死の疑いがある。医師免許の停止。という流れでしょうか・・・。そして、これによって病院の機能が縮小される、さらには実働できる医師の数が減る、ということですよ。瓜生先生、院内感染は100%防げますか?」

「そりゃあ無理ですよ。確かに患者が発生すれば個室に隔離したり、ガウンテクニックをしたりして努力はできますが、完全に防ぐことなんか出来るわけないですよ。だってインフルエンザなんて一旦流行したらどんなに予防したって必ず広がっちゃいますよね」

巧が答えた。

「そうですね。医療機関がどんなに努力しても院内感染を完全に防ぐことなど到底無理なのです。ところが医療機関はその無理なことを社会から要求されている。『可能な限り』ではだめなのです。社会は医療機関が可能な限りの対応をしても許さないのです。不可能なことでも行わなければ罰を与えるのです。そして・・・無理なことを要求された者はその場所から離脱していきます。こうして病院に従事する医師や看護師が減り、どんどん悪循環になっていく」

3人はじっと黙ってシャドウの話を聞いていた。

「瓜生先生。あなたはくも膜下出血を見逃したことで医療訴訟を起こされ、ここに来ることになった。そのことについてどう思いますか?」

「それは・・僕も十分反省しています。僕も救急をずっとやっています。だからくも膜下出血は何十例も経験していますから診断には自信がありました。でもあのような非典型的なケースがあることをはじめて知りました。患者さんには自分の能力不足が原因で診断ができなくて申し訳なく思っています。でも・・・もうおなじ間違いはしないと思います」

「後から脳神経外科の専門医が画像を見て注意して読映すればくも膜下出血の診断できると・・・」

 シャドウが言った。

「それは民事裁判のときにくも膜下出血の第一人者の先生が鑑定したことで・・・注意すれば初診時のCTでも診断が可能だと・・・。でも、うちの病院の脳外科の先生は全員、『初診時のCTでは診断は無理だ』って意見でしたけど・・」

「つまり日本の第一人者が注意して読映すれば診断は可能かもしれないが普通の救急医が、いや、脳外科の専門医でも救急外来でこの症例を診察しても診断は難しい症例だったということですかな?」

「はい・・・そういうことになりますが・・・」

 巧は恐縮して答えた。

「そんなケースでも患者から訴訟を起こされればあなた方は敗訴になり、さらに業務上過失致死の疑いで刑事訴訟を受けて医師免許停止の行政処分を受ける。瓜生先生、あなたは今日の最終ステージをクリアしたことからもわかるようにきわめて優秀な総合診療医だ。しかも勉強熱心で謙虚で、ミスを反省し、同じ間違いは繰り返さない」

巧はちょっと照れくさそうにはにかんだ。

「多くの専門医があとから見ても診断できないような症例を、救急室の医師に正しい診断をすることを要求する。これこそが私が言う『医療機関に出来ないことを社会が要求している』ということなのです。患者が死亡した→誰かに責任があるはずだ→それは診断が出来なかった医師の責任だ、という構図です。しかしあの患者さんは誰が当直をしていても助からないのは目に見えています。したがって司法は『瓜生先生には責任はない』という判断をしなくてはならない。あの民事訴訟は患者側勝訴になるべきではないのです。どうでしょう?上原先生」

「それは・・・私もそう思います。私たち医療従事者から見ればその通りなんですが・・・でも院内感染で亡くなられた患者さんや、くも膜下出血でなくなられた患者さんにすれば、助かる可能性があったのに死んでしまったのなら医師の責任を追及する気持ちもわかるような気がします」

「そうですよね。私もそう思います。自分が当事者になれば院内感染で死んでしまったり、もっと技量が上の医師に見てもらえば助かったかもしれないと思ったら・・・訴訟を起こしたい気持ちもわかりますよね。どうですか?伊達先生」

龍二は腕組みをしてじっと目をつむっていた。

それを見てシャドウが続けた。

「患者や家族がそう思うのは当然です。しかし・・・・社会がそれを認めてはいかんのですよ。社会がそれを認めると・・・社会は崩壊してしまうのです」

ほんの少しの沈黙のあと、シャドウはモニター画面で3人の顔を見ながら続けた。

「院内感染を完全に予防するのは無理だし、全ての医師が最高の医療を提供することも無理なんですよ。現在の医療水準から見て『妥当な範囲の』医療が提供されているならば医療側の過失は追及されるべきではない、これが私の持論です。たとえ他の医師が診療していれば助かったとしてもですよ」

 巧が小さくうなずいた。

 そしてシャドウが続けた。

「患者はやるせない気持ちから訴訟を起こす。しかし・・・社会は・・・裁判官はそれを認めてはいけないのです。そしてマスコミも、患者の感情を前面に出した報道をしてはいけないのです。行政も・・・そのような医療機関に罰を与えてはいけないのですよ。家族には『大変でしたね。でもあなたは標準の治療を受けたのですから我慢してください』と言わなくてはならないのです」

 その言葉に困惑した千夏が言った。

「それは・・・今の日本では・・・かなり難しいことじゃないかと・・・」

そして龍二が続けた。

「日本は個人の権利を重視しすぎている。そのために社会全体が不利益をこうむっていることに気がついていない」

「その通りです。個人の権利を重視するのは結構。しかし・・・個人の権利を重視するためには社会全体が負担をしなくてはならない。それが日本の国民にはわかっていないのです。そしてこれは決して医療現場だけの問題ではありません」

「じゃあ、医療が崩壊するのは日本の国民が悪いってこと?それはちょっと飛躍しすぎた理論のように思うけど・・・」

巧が首をかしげて言った。

「私は最終的にはそう思っています。しかし・・・医療崩壊に限って言えば、その原因の根本はあなたがた医師にあるのですよ」

 シャドウはモニター画面をじっと見つめながら言った。

「なぜ国民が医師の過失を追求するようになったのか、行政が罰を与えなくてはならないのか。あなた方医師はこんな現状に不満を述べ、反発しますが、その理由を考えたことがありますか?それは・・・今まで何十年にもわたって医師が国民の信頼を得る努力をしてこなかったからなのです」

3人は黙ってシャドウの言葉を聞いていた。

「患者が医療ミスで亡くなっても密室の中で隠蔽(いんぺい)して誰も検証してこなかった。能力の低い医師や問題のある医師に対して内部で処分を行う自浄能力が日本の医師組織にはないんですよ」

 シャドウは一息おいて続けた。

「医療事故が起こったとしても、『普通の能力を持った医師』が『誠意を持って診療した』ということが証明できれば日本の社会だって納得するはずですよ。しかし今の日本ではそれが担保されていないのです。だから国民はそして社会は、医師を信頼しなくなった。それが現在の医療訴訟につながっているのですよ。もちろん本当に問題のある医師は一部ですが、その一部のために医師全体の信頼がなくなっているのです」

「医師が誠意を持って診療して・・・・それを患者さんにわかってもらえれば、医療崩壊は止められる・・・」

 千夏がつぶやいた。

 龍二は目を開いて体を起こすとシャドウに向かってゆっくりと言った。

「あんたの医療崩壊論はもうわかったよ。それがこの施設とどんな関係があるんだ?」

 シャドウはにやっと笑った。

《医師再教育センター》

「日本の医療はこれからも崩壊していきます。しかもその問題の根本はかなり深いところにある・・・ということは・・・これからも当分の間、状況が改善する可能性はないということなのですよ」

 シャドウはちょっと間をおいて続けた。

「でも・・・そんなことはどうでもいいのです」

「どうでもいい?」

「日本の医療が崩壊しようが、日本の国民がまともな医療が受けられなくなろうが、私にとってはどうでもいいことなのですよ。しかし・・・私や、私の周囲の人間が医療を受けられなくなるのは困る・・・それは困るんですよ」

シャドウは笑みを浮かべながら言った。

「窓の外を見てください」

シャドウが合図するとカーテンが開けられ、建設中のビルの明かりが見えた。 

「我々は2年後の完成をめどに新しい医療機関を建設中です。そこには最先端の機器が備えられる予定です。そして・・・そこでは保険診療は行われません。全て『自費診療』です」

「自費診療?」

「そうです。保険で認められないから必要な検査が出来ない。必要な薬を使うことが出来ない。そんなことは一切ありません。必要な診療を必要なだけ行えるのです」

「でもそれじゃあ・・・お金持ちしか・・・受診できないんじゃないでしょうか?」

 千夏が不安そうな声で聞いた。

「その通りです。この医療機関は我々経済的に裕福な人間のために作られているのです。もちろん出資したのも我々です」

「そんな・・・」

「ハードはお金を出せばいくらでも高レベルになります。でも・・・問題はソフト・・・それも優秀な医師の確保です」

「優秀な医師を確保するためにこの再教育センター構想に手を上げたってことか・・・」

 龍二がフンと鼻で息をしてつぶやいた。

「その通りですよ」

シャドウは満足げにうなずいた。

「医療事故の増加に対して日本の政府は昨年『医療安全推進法』を発令しました。それによって民事訴訟で敗訴となった医師は全員が自動的に刑事訴訟を受けることになり、同時に医師免許停止処分が下されることになりましたよね。その結果は?瓜生先生」

「病院勤務の医師の数が激減した・・・」

 巧が小さな声で答えた。

「そして医療はますます崩壊していった。でも日本政府はまだ自分の間違いに気がつかない。いや、気がついていてもどうしようもない。いまさら医師が悪いと言って処分したのに彼らをもう一度無条件で復帰させることなど国民の同意が得られるはずがない。だから今度は処分された医師を『再教育してから現場復帰させた』という形を作ろうとしました。そこで医師再教育センターの構想を立ち上げたが、いかんせん予算が全然つけられない」

「そこであんたたちが買って出たわけか・・・」

「そのとおりですよ。でも・・・医師の再教育・・・ですか?そんなもの必要ありませんよ。だって、あなた達も見たでしょう?ここに集まった医師たちを・・・・・。問題のある医師はほんの一握りだ。平均的な医療水準を持った大勢の医師が民事訴訟で敗訴となり、医師免許を停止されている。それどころかとてつもなく優秀な医師でさえ業務を停止されている。誰が見てもこれは医師の素質の問題じゃない。日本の政府の考え方が根本的に間違っているのですよ。再教育が必要なのは彼らのほうですよ」

 シャドウは椅子から立ち上がると窓の外の灯りを見ながら続けた。

「でもそんなことはどうだっていいんです。医師再教育センター・・・これが我々にとっては千載一遇のチャンスだったんですよ。財界で全額費用を負担しますと言ったら政府は飛びついてきましたよ。こちらの条件を飲ませるのは容易なことでした」

「民事訴訟で敗訴になった医師の刑事処分と行政処分を、すべて再教育センターに一任するという条件か・・・」

 龍二が腕組みをしながら言った。

「さすが伊達先生、察しがいい。民事訴訟で敗訴になった大勢の優秀な医師たち、彼らの人事権を全て握ることが出来たのです。我々は彼らの医師免許を剥奪することも出来るし、医師免許を一時的に復活させて、直ちに所定の医療機関に派遣して勤務させることも出来る。『医師の人事権』という、いわば日本で一番大きな権力を握ったのですよ」

「それで?あんたの望みは?俺たちにあんたの医療機関で働けってことか?」

 シャドウは龍二の言葉を聞いて再び机の前に座った。

 そしてゆっくりとモニター画面を見つめながら言った。

「お察しの通り。難関を突破した最優秀医師のあなた方に2年後に完成する予定の我々の施設で勤務していただきたい。あなた方は救急総合診療を担当していただく。あなた方のほかにも各分野の医師に対して同様の選別を行っていきます。すなわち全分野での優秀な医師たちがここに集まることになるわけです」

「でも・・・それはお金持ちだけを診療するってことですよね」

 千夏がはっきりした声で聞いた。

「その通りです」

 シャドウはうなずいた。

「そんなの・・・おかしいです。医療ってみんなに平等に与えられるべきものだと思います。お金持ちだけが最上の医療を独占するなんて・・・おかしいです」

「上原先生。あなたらしいご意見です。我々は医師の知識や技術だけを評価しているわけではない。あなたのそのような感性も我々の施設に是非必要なのですよ。でも、上原先生。あなたは『患者は平等だ』とおっしゃった。じゃあ100人の患者を診療するとしたら、貧乏人だけ100人診療する場合と、金持ちを100人診療する場合とあなたは診療方針を変えますか?」

「そんな・・・変えるはずありません!」

 千夏は憤慨した声で言い切った。

「同じように患者のことを考えて親身になって診療する・・・そうですよね?」

「はい」

「じゃああなたにとって目の前の患者が貧乏人であろうと、金持ちであろうと関係ないじゃないですか」

「それは・・・」

 千夏は困惑して目を伏せた。

「我々は確かに財力を持っています。しかし我々だって病気もするし老いていつかは死んでいく。家族を思う気持ちも変わらない。あなたが今から1万人の患者を診療するとして、それが全員貧乏人だろうと全員金持ちだろうとあなたにとってはどちらでも等価じゃないんですか?」

「・・・・」

「じゃあ金持ちと言うだけで我々を毛嫌いする理由はありませんよね?」

 シャドウは今度は画面の巧を見つめて言った。

「瓜生先生。あなたは保険に縛られて満足のいく診療が出来なかったことはありませんか?」

巧はハッと姿勢を正して答えた。

「それは・・・いつも・・・」

「そうですよね。CTが必要だと思っても保険請求して査定されれば出来ない。この薬を使えば病気がよくなることがわかっていても保険で認められていなければ使うことが出来ない。金がない日本の政府は必要な医療も保険で認めることができない。でも・・・我々の施設ではそんなジレンマは全くなくなるのですよ」

「それは・・・すごいかもしれない・・・」

巧は感心してうなずいた。

「まあ、人の価値観はそれぞれ違います。選ぶのはあなた方です。でも、もし我々の考えに賛同いただけるなら、明日から医師免許の停止は解除されます。そして2年間お好きな施設で研修を積んでください。国内でも国外でもかまいません。もちろん費用は全て当方が負担します。また、それ相当の給与もお支払いいたします」

「外国留学もさせてもらえるんですか!」

巧が大きな声を上げた。

2年間で腕を上げてきてください」

「もし断ったら?」

龍二がシャドウをにらみながら言った。

「そういう状況はあってほしくないのですが・・・医師免許はやはり剥奪でしょうか・・・」

「最終ステージをクリアしたのに剥奪ですか?約束が違う・・・」

千夏がびっくりして声を上げた。

「私たちはクリアした先生方に保障はしていませんよ。さっきも言ったでしょう?全ての権限は我々に委譲されているのです。この場ですぐにあなた方の医師免許を剥奪することだって出来るのですから・・・」

「・・・・」

 3人は声を失った。

「まあ、そんな無謀なことはいたしませんからご安心ください。2年間・・・2年間待ちましょう。今までの診療を続けながら2年間考えてください。そして2年後によいお返事を期待しています」

2年後に・・・あんたたちには賛同しないと答えたら?」

 龍二が聞いた。

「そのときは・・・その時に考えましょうか」

「その時点で医師免許剥奪もありうるってことか」

「おっしゃるとおり」

 そういったあとでシャドウはコーヒーを一口すすった。

「最終的な結論は明日の昼までお待ちします。今日はゆっくりとお休みください。先生方には全ステージクリアの報酬としてゆっくりとくつろげるお部屋を準備しています」

シャドウは隣の黒服に合図をした。

「一つ聞いていいか?」

龍二がシャドウに聞いた。

「なんでしょうか?」

「榊原は・・・どうなるんだ?」

「榊原先生ですか・・・・・・・・・。彼は・・・天才です。伊達先生、失礼だが彼の総合診療医としての能力はあなた以上かもしれません。実は榊原先生はすでに我々の中ではプロジェクトの一員として組み込まれているのですよ」

「まさか・・あいつがここにきたのもお前が仕組んだことなのか?」

 龍二は声を荒げて聞いた。

「私は何もしていませんよ。ただ、小田切君に・・・伊達先生と、榊原先生というとても優秀な総合診療医がいる。何とかうちに来てもらえないだろうか?って相談はしましたがね」

「なんて奴だ・・・」

「榊原先生のときは大変だったらしいですよ。あの完璧な理論派をどうやって訴訟に持っていくか・・・。小田切君も相当苦労したようです。まあ、民事訴訟にさえもって行けば、医療安全推進法が発令された今の日本では、ほとんど患者勝訴になりますから、自動的にここにおいでいただけるわけですが・・・。でも、伊達先生の時は比較的簡単だったそうですね。ちょっと挑発しただけで乗ってきたそうで・・・ああこれは失礼」

「・・・・・」

龍二は唇をかみ締めた。

「ただ・・榊原先生は少々ワンマンで思い込みが強い嫌いがある。それは大きな間違いを起こしうるリスクを秘めています。彼にも、何らかの教育が必要でしょう」

「あいつも・・・再教育センターの研修を受けるんだな?」

「そういうことになるでしょう。そして・・・彼ならきっと我々のプロジェクトに賛同してくれるでしょう。同期生として気になりますか?伊達先生」

「いや・・・ただ、このままあいつの医師免許を剥奪してしまうような組織なら・・・先はないと思ってな」メディカルゲーム第7章(2/2)に続く

« メディカルゲーム(第6章:ファイナルステージ)(2/2) | トップページ | メディカルゲーム(第7章:シャドウの野望)(2/2) »

小説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: メディカルゲーム(第7章:シャドウの野望)(1/2):

« メディカルゲーム(第6章:ファイナルステージ)(2/2) | トップページ | メディカルゲーム(第7章:シャドウの野望)(2/2) »

2024年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
無料ブログはココログ