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2011年7月23日 (土)

「遥かなる故郷」(1/3)

「5人を助けるために1人を犠牲にしても許されるか?」

先日の話題をテーマに小説を書いて見ました。

舞台は100年後の未来・・・

ウイルスによりほとんど滅亡した人類。

唯一、軌道衛星上に残された1000名足らずの人類にも核ミサイルの恐怖が・・・

地球に残された5名の原潜乗組員に「我々を助けるために自分たちの命を捨てて核ミサイルを阻止せよ」と命令することが許されるのか?

という内容ですが、背景は30数年前の草刈正雄さん主演の映画「復活の日」のものを一部お借りしました。

最初は短編にしようと思ったのですが、人間ドラマを追加しているうちにやや長くなってしまいました。

本日から3日に分けてアップする予定です。

「遥かなる故郷」

・・・・・西暦 210X年10月・・・・・

半年前に中国で発生した超強毒型インフルエンザウイルスは人から人へと次々に感染を繰り返し、瞬く間に全世界に拡散していった。

人類の叡智をあざ笑うかのようにウイルスはあらゆる抗ウイルス剤に耐性を示し、感染者の死亡率はほぼ100%であった。

数十億の人類が滅亡するのに要した時間はたった6ヶ月に過ぎなかったのである。

しかし地球をはなれて軌道衛星で生活する1000人足らずの人類だけは、いまだウイルスの感染を受けず、生存していた。

21世紀後半から人類は多人数が生活できる軌道衛星を次々に建設していた。

現在、アメリカ、ロシア、中国、インド、日本、ブラジル、フランス、イタリア、ドイツ、エジプトの10カ国の軌道衛星が存在しており、それぞれ数十名ずつが研究をかねて生活していた。

中でも最大のものはアメリカに所属する衛星都市「サブリナ」であり、そこには235名の人間が生活していた。

どの衛星都市の居住者も圧倒的に男性が多く、男女の比率は8:2であった。

強毒型ウイルスの拡散が明らかになってから全ての国の衛星都市は地球との物的、人的交流を禁止されていた。

それはウイルスの驚異的な威力に恐れをなした人類が、衛星都市こそが「サンクチュアリ=聖域」として守るべき最後の地域であると認識したからである。

地球を離れて衛星都市に向かおうとする者はいかなる理由であろうが、武力を持って抑止されることとなったのである。

その甲斐あって10の衛星都市すべてにおいて、ウイルスに感染したものは1人もおらず、一見健常の生活が営まれていた。

しかし今、生き残った彼らにも新たな危機が降りかかろうとしていたのである。

【衛星都市サブリナ】

 

アメリカ所属の衛星都市「サブリナ」には各衛星都市の代表たちが急遽集められた。

この時代の会議はテレビモニターを介したものが主流で、実際に1箇所に集まって話し合いをするという風習ははるか昔に失われていたのだが、あえてサブリナに集められたということは、生き残った人類にとって極めて重大な問題が発生したということに他ならない。

各衛星都市の間はシャトルにより、ほんの数10分程度での交通が可能であったが、エジプト所属の衛星都市「クレオ」だけはシャトルのトラブルのため、その代表はテレビモニターでの参加となった。

サブリナの会議室の映像と音声は無線を通してクレオに送信され、クレオの映像と音声も無線を通してサブリナの会議室に送られるのである。

そして彼らを前にして白髪で初老のアメリカ代表、ネルソン提督の口から今まさに重大な事実が告げられようとしていた。

「ここにお集まりいただいたのは残された人類956名を代表する11名の方々です。私はあなた方につらい事実を公表しなくてはなりません」

一同は沈黙したままネルソン提督を見つめた。

「太平洋北部に位置する、ある海底要塞から今から6時間後に核ミサイルが発射されることが判明しました。昨日の大規模な地殻変動が引き金になって発射システムが作動したようです」

一同は一気にざわめきだした。

真っ先に声を上げたのはフランス代表のダニエル=ギャバンだった。

「その核ミサイルの目標は?まさか・・・」

ネルソンはしばらく沈黙したあとゆっくりと口を開いた。

「その通り、各国の衛星都市が目標になっています。もちろんこのサブリナも例外ではありません」

会場のざわめきは一気に最高潮に達した。

10の衛星全てがターゲットになっているのですか?」

「何基が発射されるのかは不明です。最悪の場合は全ての衛星が破壊される可能性があります」

「それは・・・どこの国の施設なのですか?」

「それは・・・今、重要なことではありません」

ネルソンは口を濁した。

ドイツ代表のアルベルト=バッハマンが言った。

「あなたの国の施設ということですか・・・」

ネルソンは静かになった周囲を見回し、そしてバッハマンをじっと見つめてゆっくりと答えた。

「どこの国に所属するかは重要なことではないと申し上げました」

「チッ・・・」

バッハマンは舌を打って横を向いた。

しばらくの沈黙のあと、日本代表のマサオ=アカギが切り出した。

「その海底要塞からのミサイル発射を止める方法は?」

ネルソン提督はしばらく沈黙した後に静かに言った。

「海底要塞は海面下100mの位置に建設されています。頑強な隔壁を持ち、通常の攻撃には十分耐えるように設計されています。核ミサイルの発射をとめる唯一の方法は、ミサイルが発射される前に海底要塞を核攻撃することです」

全員が沈黙した。

ブラジル代表のカルロス=モレノがあきれた声で聞いた。

「我々に核攻撃をするオプションがあるとでも言うのですかな?」

「・・・残念ながら・・・」

「では我々はただ指をくわえて核ミサイルを打ち込まれるのを待っているだけというわけですか」

その時マサオ=アカギが提案した。

「一部の人間だけでも一時的に衛星から地球に脱出してはどうでしょうか?」

「地球上でウイルスから隔離されて我々が生存できる場所はまだ特定されていません」

「南極はどうですか?極寒の南極ならひょっとしたら生き残っている人がいるかも・・・」

「南極基地はすでに応答がありません。我々にはその状況を知ることが出来ません。今我々が研究しているワクチンが完成するまでは我々が地球上で生活できるのは海の上だけなのです。ワクチンの完成にはあと1ヶ月程度かかる見込みです。我々に今できるのは核攻撃の規模が出来るだけ小さいことを祈るだけです」

全員が絶望して沈黙した。

その時、会場内のスピーカーにノイズが入った。

「どうした?エジプトのクレオからの信号か?」

ネルソンはそばにいた秘書官のニコル=フリーマンに聞いた。

ニコルはヘッドホンを装着すると慎重に耳を傾けた。

「ネルソン提督!クレオではありません。地球からの連絡です!」

「地球だと?どこからだ?まだ地球上に生き残っている人類がいるというのか?」

「回線を開きます」

<・・・・・こちらアメリカ海軍所属、戦略ミサイル原潜シーキャット・・・応答願います>

一同がオーッと声を上げた。

ネルソンは思わずマイクに近づいて大声を出した。

「こちら軌道衛星都市サブリナ。代表のネルソン提督です。シーキャット、貴艦の無線を傍受しました。応答願います」

<こちらシーキャット。艦長のデイビッド=クレイン大佐です>

「クレイン大佐。無事なのですか?あなたの任務を教えてください」

<我々はもともと南極大陸に物資を輸送する任務でした。しかし途中で新型ウイルスが爆発的に蔓延し、各国の調査を行う任務に変更されました>

「全世界の状態を調査しているのですか?」

<無人の探索機を上げて調査してきました>

「それで・・・生存者や生き残った都市は?」

<残念ながら現在のところ皆無です。ただし調査が済んでいるのは都市部だけで山間部や孤島はまだ調査しておりません>

「南極基地はどうですか?当方からはすでに連絡が取れないのですが・・・」

<南極基地も壊滅状態です。生存者は確認できませんでした>

「何てことだ・・・。やはり地球は全滅なのか・・・」

ネルソンはしばらくうつむいていたが、おもむろに顔を上げて質問をした。

「クレイン大佐。貴艦の乗組員は何名ですか?」

<乗組員は副長のリチャード=モートン少佐。技術主任のアンジェリーナ=ビセット少尉。航海主任のジョン=コワルスキー軍曹。通信担当のサラ=ミッチェル伍長です。私を含めて5名です>

「男性3名と女性2名ですね」

ネルソンはそばにいたニコルに目配せをした。

ニコルはうなずくと端末に向かってなにやら入力した。

ネルソンはマイクに向かって質問を続けた。

「乗組員の中に熱を出したり咳をしているものはいますか?」

<全員無事で健康です>

「貴艦が任務についたのはいつなのですか?」

<半年前です>

「半年前・・・新型ウイルスが発生するまえだ・・・。クレイン大佐。あなたは任務についてからどこかの港に寄港しましたか?もしくは誰かと接触しましたか?」

<我々はこの半年間誰とも接触しておりません>

それを聞いたネルソンはガッツポーズをとり、歓喜の声を上げた。

「ウイルスに感染していない可能性がある人間が我々の他にもいる!」

<ネルソン提督。我々は衛星都市に生存者がいることは聞いていました。しかし接触することは禁じられていたので今まで連絡をしませんでした。しかしたった今、我々の無線があなたがたの会話を傍受しました。衛星都市がおかれている状況はわかりました。我々にできることはありませんか?>

ネルソン提督は息を呑んで聞いた。

「クレイン大佐。あなたの位置を教えてください」

<北太平洋、座標174、234です>

「なんだって?」

ネルソン提督は隣にいるニコルに目配せした。

ニコルは海図をネルソン提督に見せた。

「あなたの位置から・・・座標182、223まではどのくらいでいけますか?」

<・・・・3時間弱です>

オオッ!!

歓喜の声が上がった。

ネルソン提督は天を仰ぎ、胸に十字を切った。

「クレイン大佐。これからの質問に慎重に答えてください。あなたの艦は・・・核弾頭を搭載していますか?」

<W94の核弾頭を一基搭載しています>

ネルソン提督はごくっとつばを飲み込み、次の言葉を切り出した。

「あなたの艦のハープーンにその核弾頭を搭載できますか?」

 しばらくの沈黙のあと、クレインの声が聞こえてきた。

<・・・・残念ながら当艦のハープーンは使用不可能です>

「使用不可能とは?」

<昨日の地殻変動の衝撃により当艦は氷山と接触しました。外壁の一部が破損し、ハープーンの発射装置は使用不能です>

 会場にため息が漏れた。

 ネルソンも天を仰ぎ、目をつむったが、しばらくして気を取り直して聞いた。

「シーキャットのそのほかの攻撃オプションは?」

<戦略魚雷を8本搭載しています>

「その戦略魚雷に・・・・・核弾頭を搭載することは・・・・可能ですか?」

<理論上は可能です>

それを聞いたサブリナの会議室の一同の顔に再び笑顔がこぼれた。

その時、マサオ=アカギが聞いた。

「クレイン艦長。艦が一部破損しているとのことですが、100mの海底に潜行は可能ですか?そしてそこから魚雷を発射することは?」

<・・・・100mの潜行は可能です。魚雷発射装置にも問題ありません。しかし・・・・一度潜行すれば艦内への浸水によりシーキャットは再浮上することはできないでしょう>

クレイン艦長のはっきりした声が聞こえると会場は静まり返った。

長い沈黙のあと、ネルソンがゆっくりとマイクに向かって言った。

「クレイン艦長。アメリカ海軍の上官として貴艦に命令を伝えます」

<イエッサー>

「座標182,223に全速で向かってください。以後の命令は貴艦が到着した後に伝えます」

<了解しました>

【希望】

ネルソンは秘書官のニコルに指示した。

「シーキャットの乗組員の家族がサブリナにいるかどうかを至急調査してくれたまえ」

「かしこまりました」

そしてネルソンはゆっくりと周りを見回した。

「さて、皆さん。我々に海底要塞からの核ミサイル発射を防御するオプションが加わりました。これから我々が選択すべき決断を議論しようではありませんか」

最初に声をあげたのはドイツ代表のアルベルト=バッハマンだった。

「何を議論するのですか?結論はすでにでているじゃないですか。シーキャットが海底要塞を魚雷で核攻撃すれば我々は全員が助かるのですよ。何を議論すると言うのです?」

 それを聞いたネルソンがゆっくりと言った。

「あなたは状況がわかっているのですか?シーキャットの外壁は破損している。一度潜行したら二度と浮上できない。我々に彼らを救助する力はない。5人の乗組員は永久に海底に沈む」

5人の命と956名の命とどちらが大切なのですか!あなたの国では数学を教えていないのですか?誰が考えても結論は決まっている!」

バッハマンは語気を荒くして言い切った。

ネルソンはゆっくりと深呼吸をして周りを見回した。

「他に意見のある方は?」

フランス代表のダニエル=ギャバンが手を上げて、口を開いた。

「ドイツの意見はあまりにも冷酷だ。彼らに我々のために犠牲になれと命令できるのか?」

それを聞いたバッハマンが叫んだ。

「なにが冷酷だ!5人と956人とどちらが大切かあなたはお分かりか?」

「どちらが大切かではない。我々が核攻撃を命令すれば確かに我々は助かる可能性が高い。しかし彼らは命を失う。逆に核攻撃を命令しなければ我々の多くは命を失うだろう。しかし彼らは命を失うことはない」

「わかりきったことを言うな!我々の多くは・・・ひょっとしたら全員が6時間後に死ぬんだぞ!フランスのお人よしにはその現実が見えていないようだ」

「ドイツの現実主義者は人間の気持ちが見えていないようだ」

その瞬間バッハマンがギャバンをにらんで立ち上がった。

ネルソンが声を上げた。

「まあまあ、ドイツ代表、フランス代表。それぞれの意見に一理ある。我々は今からそれを議論して結論を出そうと言うのです。他の意見は?」

インド代表のアショーク=シンが口を開いた。

「残された人類は1000名足らずです。我々は出来るだけ多くの人類を生存させ、子孫を残して再び人類を反映させなくてはなりません。その意味ではドイツ代表の意見が正しいでしょう。しかしここで考えなくてはならないのはシーキャットの5名は『我々が核攻撃を命令しなければ生存できる運命だ』と言うことです。人類反映のためと言う理由をつけて彼らの命を奪うことが許されるのでしょうか?」

「たった5人で生き残って人類が復活できると言うのか?」

バッハマンが声を上げた。

「彼らが生き残っていると言うことはまだ他にも生きている人間がいる可能性があると言うことです。ひょっとしたらそれは我々の人数より多いかもしれない」

シンが答えた。

その時マサオ=アカギが手を挙げた。

「私はもし自分が彼らの立場ならどうだろうかと考えました。もし私がクレイン艦長の立場だったら、間違いなく海底要塞に対して核攻撃を行います。彼らは軍人です。国家のために命を受け、任務についています。その国家、少なくともアメリカが繁栄するためになされた命令には喜んで従うでしょう」

バッハマンもうなずいた。

ネルソンはアカギのほうを向いて言った。

「あなたの国家には昔から自分を犠牲にして他人を思いやるというすばらしい精神がある。個人の権利よりも家や国家を重んじる文化です。その意見は参考になるでしょう」

その時、ギャバンが言った。

「わたしは、結論は彼らに任せるべきだと思います」

「彼ら?」

ネルソンが聞き返した。

「シーキャットの5名の命は彼らのものです。それぞれの命をどのように使うかを自分で選択させるべきです」

ネルソンがうなずいた。

それを聞いてバッハマンは大声を上げた。

「お前たち本気なのか?6時間後には全員の命がなくなるんだぞ!他人に決めさせていいのか?」

ネルソンはゆっくりと周りを見回して聞いた。

「他に意見は?」

 しかし、誰も意見を出すものはいなかった。

その時、ニコルが調査結果を持ってきた。

ネルソンはレポート用紙をじっと見つめていた。

「皆さんに報告があります。乗組員の1人、コワルスキー軍曹の奥さんがサブリナにいます。そして彼女は1週間前にここで女の子を出産しました」

オオッ!

周り中から歓声が上がった。

「ニコル、キャサリン=コワルスキーをここに呼んで下さい」

生まれたばかりの赤ん坊を抱いたキャサリンはサブリナの会議室につれてこられた。

夫が生きていることを聞いた彼女は喜びの色を隠せなかったが、状況を伝えられると暗い表情になった。

「それで・・・私に決めろと言うのですか?夫を助けるのか、衛星都市の人たちを助けるのか・・・私に選べと言うのですか・・・」

キャサリンは赤ん坊を抱きかかえたまま泣き崩れた。

横からニコルが支えた。

ネルソンは困惑した表情でキャサリンを見つめた。

「奥さん、あなたに結論を要求しているわけではありません。ただ・・・当事者の1人としてのあなたの意見を伺いたかっただけなのです。結論はもちろん我々がだします」

「遥かなる故郷」(2/3)に続く

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