「パラノイア」
数年前に頭に浮かんだ作品ですが、ずっと書きはじめる機会がなく、本日たまたま時間が出来たので書いてみました。
「パラノイア」
俺の名は高田学。
しがない二流大学に通う、ごく普通の学生だ。
とはいってもそれは表向きの姿。
本当の俺は・・・
「ある秘密機関の特別構成部員」
これが俺の真の姿だ。
こんなことを言ってもあんたたちには何のことかわからないだろうから少々説明しておこう。
俺は普段は勉強も運動もいまひとつで風貌もさえない、全く目立たない存在だ。
しかしそんな俺が当局から支給される特殊な薬剤を内服するとあっという間にスーパーマンに変身する。
おかしいか?
最初は俺も信じられなかったよ。
その薬は俺の筋力、敏捷性、感覚、全てを2倍に増強するってやつだ。
その薬を使って俺は社会にすくう悪と対決することが義務付けられている。
俺はその薬の効果を判定するためのモニターってことになるかな?
実際この2ヶ月の間に俺はいくつかの事件を解決している。
といっても恐喝事件や暴行事件などのしょぼい事件ばかりだけどな。
俺は夜の街をパトロールして犯罪現場に出くわすと薬を飲んで、悪い奴らを叩きのめす。
でも俺の正体は誰にもばれないようにしないといけない。
それが当局から薬を支給してもらう条件だからな。
いつも帽子とサングラスが離せないってわけだ。
当然新聞やニュースにも俺の名前が出ることはない。
ところで・・・俺のキャンパスライフはというと、全く平穏そのものだ。
普通に講義を受けて普通に学食で飯を食っている。
誰も俺が正義の味方だってことには気がつかないんだから当然といえば当然だ。
まあ俺は仲間とつるんでいるより1人でいる方が好きだから、親しい友人もいないがな・・・。
でもこんな俺にもちょっと気になっている女はいる。
片桐麗華、21歳。
こんな二流大学にはちょっと不釣合いなくらいの「いけてる女」だ。
当然彼女を狙っている男たちも多いが、彼女の前に立つと萎縮してしまうのか誰も手を出さない。
俺か?
俺も彼女に声をかけようなんて思っちゃいないよ。
こんな、さえない風貌の俺に麗華がなびいてくれる可能性なんてあるわけないからな。
だが・・・俺の本当の姿を麗華が見れば・・・きっと俺たちは簡単に恋に落ちるだろう。
ところで俺はいつも麗華と帰りが一緒だ。
俺は麗華の自宅まで彼女のあとをずっとついていく。
おっと・・・別にストーカーってわけじゃないぜ。
彼女にもしものことがあれば俺が出て行って助けてやるためだよ。
そしてついにその日はやってきた。
サークル活動で遅くなった彼女は早足で暗い夜道を急いでいた。
こんなに薄暗い夜道をきれいな女の子が1人で帰るなんて勧められたもんじゃない。
案の定、怪しい奴らがやってきた。
二人のチャライ男たちは麗華をナンパしようとしているようだ。
麗華は困惑して逃げようとしているが男たちは美しい獲物を逃がそうとしない。
これは待ちに待った俺の出番だ。
俺は公衆トイレに駆け込むとポケットから薬を取り出して一気に飲み込んだ。
そしてカバンから帽子とサングラスを取り出して装着した。
これで誰も今から現れるヒーローが俺だってことは気がつかないだろう。
ほんの短時間で俺の体には力がみなぎってきた。
俺は公衆トイレを飛び出すと麗華の救出に向かった。
麗華に絡んでいたチャライ男たちは俺が手にしているサバイバルナイフを見ると、恐れおののき、何かわめきながら一目散に逃げてしまった。
他愛もないやつらだ。
俺の本当の力を麗華に見せることが出来なくて少々残念だがな。
麗華はまだおびえた目で俺を見つめている。
もういいんだ、麗華。
俺は君を守るためにいつもそばにいたんだぜ。
といっても・・・この風体じゃ俺が誰なのかわからないだろうどな。
でも変装をはずすわけにはいかないんだ。勘弁してくれ、麗華。
震えの止まらない麗華を俺はきつく抱きしめた。
もう大丈夫だ。安心しろ、麗華。
そして俺はゆっくりと彼女の唇を奪った。
それからあとは・・・言わなくてもわかるだろう?
翌日の新聞にはやはり俺の活躍はどこにも掲載されていなかった。
当然だ。俺の正体は誰にもばれてはいけない。
そこには抜かりがないさ。
ふと俺が紙面の片隅に目をやると小さな記事があった。
「女子大学生、暴漢に襲われる」
俺は麗華を暴漢から助けることが出来たが、同じような被害にあったやつがすぐ近くにいるらしい。
こういう記事を読むと俺の体が一つしかないことがとても悔しい。
せめて空でも飛べればもっとたくさんの人間を救うことが出来るんだが・・・。
そんな俺に願ってもない出来事が起こった。
当局から支給された新しい薬、これを飲むとなんと空を飛べるようになるらしい。
これで一晩のうちに何人もの人間を助けることが出来るようになるってわけだ。
俺は早速自分の部屋に戻って一つ薬を飲んでみた。
これはすごい!
俺の体にはみるみる力がわいてきた。
なるほど、これなら空を飛ぶことだって当たり前のように出来るはずだ。
俺は窓を開けた。
遠くには美しいネオンが輝いている。
あそこには今まさに色々な犯罪が行われているはずだ。
俺は5階のベランダからネオンの光に向かって飛び立った・・・・。
****
「警部!」
「おう、なんか見つかったか?」
「遺書はありません。でもこいつが・・・」
「これは・・・」
「MDMAです。しかも即効性に改良されたやつです」
「じゃあ、こいつはMDMAを飲んで空にトリップしたってわけか・・・・」
「多分自分がスーパーマンになって空でも飛べるような気分だったんでしょうね」
刑事たちは5階から落ちて血だらけになった若い男の遺体を見つめながら言った。
「それとこんなものが・・・」
「学生証か?片桐麗華・・・これは・・・この前暴行にあった女子学生ものか・・・。それにサバイバルナイフ。彼女を襲った男が持っていたっていうやつだな」
「あの事件もこの男が・・・」
「最近の他の暴行事件にもこいつが絡んでるかもしれないな。もっとよく調べてみろ」
「わかりました」
刑事は足早に階段を昇っていった。
MDMA・・・エクスタシーという通称を持つ合成麻薬。内服することにより多幸感や妄想をもたらす。裏組織から主に若者をターゲットにして売買され、世界中で深刻な社会問題となっている。
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先日はお会いできて、とても嬉しく思いました。
ありがとうございました。
Facebookでもお会いできる日が来ますとさらに嬉しいです。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: あーちゃん | 2011年9月18日 (日) 05時51分
あーちゃんさん、コメントありがとうございます。
25年ぶりにお会いできてとてもうれしかったです。
拝聴した凝固の講義はとてもわかりやすく勉強になりました。
投稿: 堂島翔 | 2011年10月 4日 (火) 01時11分