「感染!」
先日見た夢を題材にして書いてみました。
「感染!」
俺は朝宮修治、小さな印刷会社の2代目社長だ。
親父の世代の印刷業界は羽振りがよかったらしいが、IT化の波についていけず、会社は倒産寸前だった。
そんな会社を何とか俺の代で再建することができたのは不幸中の幸いだったのだろう。
十数名いた従業員も3分の1に減ったが、IT機器を駆使してそれなりにやっている。
夜6時を回って従業員たちが帰りかけたとき、彼女はやってきた。
坂本香奈、28歳。
大手インク染料メーカーの営業レディーだ。
松本零士の漫画の主人公をほうふつとさせるような長い髪と細面の顔。
長いまつげに美しい瞳。
さりげなく首に巻かれた青いスカーフがよく似合っている。
このルックスでいくつの契約を取ってきたのだろうか?
まあ、俺もその一人かもしれないが・・・。
「すみません遅くに・・・ちょっとのお時間よろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。ああ・・・君たちはもう上がっていいから・・・」
俺は従業員たちに手を挙げて合図した。
「お疲れ様でーす!」
従業員たちは笑顔で挨拶し、香奈も彼らに笑顔を返し、そしてゆっくりと社長室のドアを閉めた。
「実は先日おっしゃっていた統計のソフトが手に入りました」
「本当か!」
「友人に、あるサイトからこっそりとダウンロードしてきてもらいました」
香奈は胸のポケットから出したUSBメモリーを差し出した。
「いやー、ありがとう!まともに買ったら10万以上だからな。助かるよ」
「喜んでいただいて私もうれしいです」
「来月も君のところの専属契約でおねがいするよ」
「ありがとうございます!」
笑顔の俺に香奈は目を輝かせて微笑んだ。
俺は香奈から手渡されたメモリーを机の下においてあるサーバに差し込んだ。
その時・・・
「なんだ?!」
アラームが激しく鳴り、画面に真っ赤な表示が出た。
『重大な脅威を検出しました』
「これは・・ウイルスに感染しているじゃないか!」
俺のサーバのセキュリティソフトが反応したようだ。
俺はあわててUSBメモリーを抜き去り、香奈に投げつけた。
「そ・・・そんな・・・・。も・・申し訳ありません!」
香奈は取り乱してあわててメモリーを拾った。
サーバの画面ではセキュリティソフトがウイルスを排除しようとしている。
「君はウイルスチェックもしていないのか!サーバがウイルスに感染すればうちの業務は全てストップしてしまうかもしれないんだぞ!」
「申し訳ありません・・・まさか・・・ウイルスに感染しているなんて・・・」
俺は固唾を呑んで画面を見つめていた。
ほんの5分くらいの時間がとてつもなく長く感じられた。
そして画面に・・・
『脅威は正常に排除されました』
俺はほっと胸をなでおろした。
「君が何をしたのかわかっているのか?うちはとんでもない被害をこうむるところだったんだぞ!幸いサーバのセキュリティがしっかりしていたから無事だったが・・・まあ無料なソフトに目がくらんだ俺も悪いんだが・・・」
「以後気をつけます・・・」
「以後じゃ困るんだ!いまどきウイルスに感染したメモリーを持ち運ぶなんて非常識すぎる!このことは君の会社にもちゃんと報告するからそのつもりでいてくれ!」
すると香奈は急に神妙な顔つきになり、意を決したように顔を上げた。
そして静かに首にまかれた青いスカーフをはずした。
「こんなことでお詫びになるかどうかわかりませんが・・・・」
香奈は上着のボタンをゆっくりとはずしていった。
「お・・・おい・・・なにをする・・・つもりだ?」
「私の・・・精一杯のお詫びの気持ちです・・・」
目の前にあらわになった香奈の美しい乳房を見て、俺は既に自分を制する気持ちを失っていた。
・・・・
それから数日後、体調の不良を感じた俺はこっそりと病院に行った。
どうやら香奈は会社のサーバだけでなく、俺の体にもとんでもない物を感染させたらしい。
「あー・・・淋病と・・・クラミジアですね」
いつも頭をぼりぼりとかいている無精ひげの医者から発せられた言葉に俺は愕然とした。
しかし幸い今はいい薬があるようで、約1週間で症状は改善し、俺はほっと胸をなでおろした。
欲望に負けて行動するとろくなことはないということだ。
香奈にはあれから会っていない。
体調を壊して会社を休んでいるようだ。
そして・・・香奈が「HIV」にも感染していたことを俺が知ったのは・・・それから2ヵ月後のことだった。
欲望の代償はとんでもなく高くついたようだ。
「感染!」おわり
こわいですねー。
ところで私が見た夢は、サーバがウイルスに感染したところまでで終わっていますので・・・。
念のため・・・・。
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