「ジ エンド オブ テラThe End of Terra」第1章
先日30年以上前に連載された横山光輝さんの「マーズ」という漫画を久しぶりに読みました。
はるか昔、人類の凶暴性に恐れを抱いた宇宙人が、人類の科学力がある段階まで発展すると地球が爆発するような仕組みを作ったというストーリーです。
発想がダイナミックで漸進なアイデアで感心してしまいます。
それをモチーフにしてこんなストーリーを書いてみました。
「ジ エンド オブ テラ The End of Terra」
第1章 DEMON
*西暦2899年*
「太陽系内生命発見プロジェクトだって?宇宙よりまず自分の住んでいるところの問題が先だろ?なあミキ」
アキラはソファに座ってテレビのモニター画面を見ながら、食事の後片付けをしているミキに向かって言った。
「そうよね」
笑顔のミキがエプロンで手を拭きながらアキラの隣に座った。
「今週、探査衛星を打ち上げて太陽系の惑星を順番に探索して生命の痕跡を探すんだってよ・・・」
アキラはため息をつきながらリモコンのスイッチを押してチャンネルを変えた。
<・・・動物たちの増殖を制御するために新しい方法が開発されました。それはウイルスを利用する方法です・・・>
「あーあ・・どこも同じような番組をやってるよな・・。セントラルタワーの中じゃあ、いろんな事やってるんだな。それにしても最近科学番組おおくね?」
アキラはそう言いながらまたリモコンを操作してチャンネルを変えた。
その瞬間、ミキがほんの少し体を後ろにそらした。
「まあ、おれたちには関係ないか・・なあ、ミキ・・・おい!ミキ!どうした!」
ミキは目を大きく見開いたまま微動だにしない。
「おい!ミキ!しっかりしろ!」
アキラはミキの両肩を持って揺さぶった。
「・・え・・アキラ・・・」
はっと気が付いたミキはゆっくりとアキラを見つめた。
「どうしたんだ?ミキ。完全にフリーズしてたぞ」
「そう?なんか最近おかしいの。ときどきかたまっちゃうことがあるみたいで・・・」
「事故だけは気をつけろよ。しばらく車の運転は控えたほうがいいな」
「うん・・・わかった・・・」
アキラがミキの異常の真相を理解するのはこの日から1週間先のことになる。
1週間後の日曜日。
アキラはミキを連れて親友のリョウと海釣りに来ていた。
「あーあ・・・今日はさっぱりだぜ。ミキもリョウもまだからっきしだな」
「こんな日もあるって」
リョウが笑顔で答えた。
「まあ、いいんじゃないの?別に釣れなくたってこうしていることに意味があるんだから・・」
ミキもアキラをなだめるように言った。
「なんで神様は俺たちがこんな無駄なことをするようにプログラムを組んだのかね?」
アキラがため息をつきながらつぶやいた。
そばに置かれたラジオからはのんびりした曲が流れている。
その時、急にラジオの音楽が途切れた。
<臨時ニュースです。こちらセントラルタワー。セントラルガバナンスからの発表です。セントラルガバナンスは増えすぎた動物の制御のためにひそかに開発したウイルスを使用することを決定しました。このウイルスは我々には無害で、特定の動物にのみ感染し、増殖を抑制します>
「なんだって?」
リョウがラジオのボリュームを上げた。
<まず対象となる動物は家畜類ではウシ、ブタの2割、ニワトリの3割です。ウイルスに感染した動物は速やかに死に至り、他の生態系には一切影響を及ぼしません>
「おいおい、大変なことになったな・・・。いくら動物が増えすぎたからって俺たちが勝手にそんなことしていいのか?今に天罰が下るぞ」
リョウがアキラを見ながら言ったそのとき、アキラの向こう側のミキの異変に気が付いた。
「ミキちゃん!どうした!」
その声を聞いたアキラがミキのほうを振り向くとミキは大きな目を開いたまま、まっすぐ前を向き、釣り竿を握りしめていた。
「ミキ!」
アキラは自分が持っていた釣り竿を放り投げるとあわててミキの肩をつかんだ。
「私は・・・SRN003764」
ミキは突然、目を大きく開いたまましゃべり始めた。
「ミキ!どうした!何を言っている!」
アキラがミキの肩を揺さぶった。
「たった今、DEMONの封印キーAを解除しました」
「なんだって?DEMONてなんだ?」
「今後、封印キーBの解除後DEMONが放出されます」
「ミキ!だからDEMOMってなんだ?どうしたんだ!」
「ミキちゃん、しっかりしろ!俺たちがわかるか?」
リョウも隣でミキに向かって叫んだ。
「アキラ、リョウ。私はミキではありません。SRN003764です」
目を開いたまま、まっすぐ前を見つめて話し続けるミキの横でアキラとリョウは目を見合わせた。
リョウがゆっくりとミキに向かって言った。
「ミキちゃん、いや、SNR・・・003764と言ったね?君は何者なんだ?」
「私はマスターによって作られたアンドロイド。そしてマスターの危機を探知するプローブ(探索子)」
「マスターってなんだ!」
アキラが興奮して詰め寄った。
「マスターはこの世界のすべてを作りました。草木や動物たちや、そしてあなた方も・・・」
「世界を作った?じゃあ、神・・・造物主のことか?」
アキラが言った。
「そのマスターが何の目的で君を作ったんだ?」
リョウがミキにゆっくりと聞いた。
「マスターはあなた方に知恵を与えた。あなた方はその知恵を使ってこの世界を発展させてきました。しかしマスターは恐れたのです」
「なにを?」
アキラとリョウは同時にミキに聞きかえした。
「あなた方の知恵をです。あなた方がいつの日かマスターの存在に気が付き、攻撃を仕掛けてくる日が来るのではないかと・・」
「俺たちの科学力が進歩してそのマスターを攻撃するということか?」
「はい。そのためにマスターは私たちを作ってあなた方を監視させたのです。あなた方の科学力がある一定の条件に達したことを私たちが認識すればDEMONが放出されます」
「そのDEMONっていうのはなんだ?」
「ウイルスです」
「ウイルス?」
「いったんDEMONが放出されればあっという間にあなたたち全員に感染します。その結果、あなたたちの機能は速やかに停止します」
「なんだって!!」
アキラとリョウは顔を見合わせた。
「DEMONはマスターや草木、動物たちには感染しません。影響を受けるのはあなた方だけなのです」
「そ・・そのDEMONはどこに隠されているんだ?」
アキラがゆっくりと聞いた。
「セントラルタワーの地下です」
アキラとリョウは無言で顔を見合わせた。
「DEMONに対するワクチンは?」
リョウがミキに聞いた。
「DEMONはいくつかのウイルスを巧妙に組み合わせて作られたウイルス兵器です。いったん放出されれば阻止するのは不可能です」
「阻止するのは不可能・・・。放出されたら一巻の終わりってことか・・・。ミキちゃん!DEMONが放出される条件を教えてくれ!」
リョウが大きな声で叫んだ。
「DEMONは二つのゲートで封印されています。一つ目のゲートの封印が解かれるのは、あなた方がマスターを攻撃できる兵器を開発したことを第一プローブである私が認識した時。そして私はミキと呼ばれた仮の姿から本来のSRN003714に戻ります」
「兵器って・・・」
「ひょっとして動物たちに対するウイルスのことか?」
「はい。あなた方が開発したウイルスはマスターに対しても脅威となる兵器になりえます」
「さっきラジオの放送をミキが聞いたから第一の封印が解かれてしまったのか・・」
アキラがつぶやいた。
しばらく3人の間に沈黙が流れた。
しばらくしてからリョウが顔を挙げて切り出した。
「DEMONの封印はもう一つあるといったな?もう一つの封印はどうやって解かれるんだ?」
「あなた方がマスターの存在に気付く可能性が出たとき、すなわち、この星以外の天体であなた方が生命体を発見したことを第二のプローブが認識した時点でもう一つのゲートが封印を解かれます。それと同時にDEMONが放出されます」
アキラとリョウはまた顔を見合わせた。
「やばいぞ・・・1週間前に太陽系内生命体探索のプロジェクトが開始されたばかりじゃないか!」
「生命体が発見されてそれを第二プローブが認識した時点で一巻の終わりだぜ」
「第二プローブはどこにいるんだ!」
アキラはミキに詰め寄った。
「わかりません。機能がオンになるまでは私も、本人も自分がプローブであることはわからないのです。わかっているのはマスターだけなのです」
「その第二のプローブがゲートの封印を解く前にそいつを破壊すれば、DEMONの放出はとめることができるのか?」
「その確率は99.8%です」
アキラとリョウは呆然として顔を見合わせた。
*アキラの自宅*
アキラの自宅ではアキラとリョウがテーブルの前で真剣な顔を突き合わせていた。
その横ではミキが目を開いたままじっと前を向いて座っていた。
「どうやらマスターっていうのは宇宙人らしい。はるか昔に俺たちや他の生物たちを作り、監視役としてミキともう一人のプローブを置いたということか。でも信じられるか?リョウ」
「いや、しかしもし本当だとすると俺たちに残された時間はもうわずかしかない。数週間か、数日か、いやもっと早いかもしれない。DEMONが放出されれば世界中が破滅することになる。俺たちにセントラルガバナンスを説得する時間は残されていないだろう」
「どうやって止めればいいんだ?第二のプローブがどこの誰だか全く分からないんだぞ。短時間で第二のプローブを探すのが無理だとすると太陽系内生命発見プロジェクトそのものを中止させるしかないじゃないか・・」
「そんなことは俺たちには到底無理だろう・・・しかし広報を止めれば・・・少なくとも生命発見の情報を第二のプローブに知らせることは止められるかもしれない」
リョウは顔を上げた。そして言葉を続けた。
「広報を止めることなら・・・何とかできるかもしれない。俺の友人がセントラルタワーの管理区域に勤務している。そいつに頼んでプロジェクトの広報担当に交渉できるかもしれない。ただし俺の話を信じてくれるかどうかはわからないが・・・」
アキラは隣のミキをじっと見つめていた。
「ミキ・・いやSNR003764と言ったな?君はもうミキに戻ることはできないのか?」
「今の姿が私の本来の姿なのです」
「じゃあ・・・ミキとして俺と過ごした日々は・・・」
ミキはゆっくりとアキラのほうを振り向いた。そしてゆっくりと言った。
「あなたのことは私のMPUの記憶の中にメモリーされています。アキラ」
「じゃあ、またミキに戻る可能性もあるということなのか?」
「私にはわかりません」
アキラはミキから目を背けると天井を見つめた。
「リョウ、ミキを連れて俺も行くよ」
「しかしDEMONはセントラルタワーにある。一つ間違えばあっという間に感染してしまうかもしれないぞ」
「どっちみちDEMONが放出されれば遅かれ早かれ全世界が破滅だろ?それに・・ミキを元に戻すカギがセントラルタワーにあるかもしれない。俺はミキを何とかして元のミキに戻してやりたい」
「そうか・・・じゃあさっそく3人で出かけるか」
「ちょっと待ってくれ・・これを・・」
アキラは机の引き出しをあけた。
「アキラ!おまえ、そんな物騒なもの・・」
アキラはレーザーガンを上着のポケットに入れた。
「心配するな、おもちゃだよ。だから金属探知機にも触れない。脅しくらいには使えるだろ?」
*セントラルタワー*
セントラルタワーの広報担当のヒロトはアキラとリョウの話を黙って聞いていた。
「そこのミキさんがあなた方の言うマスターが作ったアンドロイドで・・・我々を絶滅させるDEMONというウイルスを放出させるゲートを開いてしまったと・・・」
ヒロトは、じっと前を向いたまま座っているミキをちらっと見ながら言った。
「その通りです」
リョウが真剣な表情で答えた。
ヒロトはふっと息をついて椅子の背もたれにもたれかかった。
「確かにミキさんは尋常ではない様子ですね。面白い話ではありますが・・・」
ヒロトはリョウとアキラ、そしてミキを交互に見てからきっぱりと言った。
「プロジェクトの広報を止めることはできません」
「なぜですか!」
アキラが体を乗り出してヒロトに詰め寄った。
「お分かりでしょう?このプロジェクトは全世界が注目しているのです。今まで我々はなぜかこの惑星の内部のことばかりに固執しすぎていた。十分な技術を持っているにもかかわらず宇宙に目を向けることはなく、我々の大地や海の中の生物にのみ興味を示していました。太陽系内に新しい生命が発見されれば・・・それは我々が大きな発展をするきっかけになるのです。そんな確証もない話だけでプロジェクトを止めるわけにはいきません」
「プロジェクトを止めてほしいと言っているのではないのです!広報を止めてほしいと!広報を止めれば少なくとも第二のプローブが太陽系内の生命を発見したことを認識することは防げます。それでゲートの封印が解かれることはなくなるのです。そのあとでゆっくりと事の真相を確認していけばいいではないですか」
「そうは言われても・・・」
ヒロトが苦笑しながらアキラを見つめた。
アキラはゆっくりと懐に手を入れるとおもちゃのレーザーガンを取り出した。
「な・・・なにを・・」
アキラの手に握られたレーザーガンを見たヒロトは椅子から飛び降りてしりもちをつき、後ずさりした。
「こんなことはしたくありませんでした。しかし全世界の危機なのです。我々を太陽系内生命体発見プロジェクトの中枢部に案内してください」
*ウイルス放出!?*
4人はセントラルタワーの上部へと移動した。
アキラに銃を突き付けられたヒロトがセキュリティカードを差し込むと分厚い扉が開いた。
大きな部屋の中では十数名がモニター画面を見つめながらあわただしく動いていた。
「キャー!」
ドアのすぐそばにいた女性がアキラのレーザーガンに気が付き大声を上げると部屋中が一斉にアキラたちに注目した。
一瞬のざわめきの後、部屋中はシーンと静まり返り、コンピュータの電子音だけが時折響いていた。
「すみません。手荒なことをするつもりはありません。このプロジェクトをしばらくの間停止していただきたいのです。」
リョウが冷静な声で言った。
「何を言っているんだ!そんなことできるわけないじゃないか!」
大柄な、最年長と思われる男性が声を上げた。
「あまり時間がないのです。あとでゆっくり説明します。とにかく全端末の電源を落としてください」
リョウの声に一人、また一人と端末の電源を落としていった。
するとその時、大柄な男はちらっと壁側に目をやり、何やら合図をした。
それに気が付いたリョウは壁に目をやると同時に声を上げた。
「アキラ!」
壁の男が構えた銃の先端が光るとほぼ同時にリョウはアキラの前に覆いかぶさった。
ドシュッ!!
強いせん光がリョウの胸を貫いた。
「リョウ!!」
アキラがあわててリョウの体を抱きかかえると同時に、銃を構えた数名の男たちがアキラたちを取り巻いた。
大柄な男がゆっくりとアキラの前に歩み寄り、勝ち誇ったように言った。
「これだけのプロジェクトに警備の人間がいないとでも思ったのかね?」
「違う!そんな場合じゃないんだ!世界が滅亡する!このプロジェクトをすぐに中止してくれ!」
アキラが叫んだ。
「中止?馬鹿なことを言うな。そうだ・・君たちにも教えてやろう。たった今、探査衛星からのデータが届いた。なんと、すぐ隣の惑星に生命兆候があったんだよ」
「なんだって?」
アキラは思わず聞き返した。
リョウも胸を押さえながら男の顔を見つめていた。
「我々はいままで自分の周りのことばかり考えすぎて他の天体のことには興味を持たなかった。今考えるとそれは極めて奇妙なことだった。しかしこれからは違う。新しい生命体を発見し、我々は宇宙に向けて飛び立っていくのだ。今日はその歴史的な記念日になるだろう」
「ちがう・・・ち・・が・・・う・・・」
リョウが苦痛にゆがんだ表情でうめき声をあげた。
その瞬間。
アキラが大きく目を見開き、直立した。
アキラはそのまま無言でじっと前を見つめ、ゆっくりと声をだした。
「AMN001720起動しました。たった今DEMONの封印キーBを解除しました」
「ア・・・アキラ・・・まさか・・・まさか君が・・・」
リョウは薄れる意識の中でアキラの顔を見上げた。
周囲の者たちはきょとんとした顔で、直立しているアキラを見つめていた。
「AMN001720任務完了しました」
その次の瞬間、部屋の者たちは次々とその場に倒れていった。
「DEMONが放出された・・・世界の終わりだ・・・。俺がアキラをかばったことが・・・なんて皮肉な・・・」
そう言いながらリョウは目を閉じた。
周りの者が全員倒れた後、アキラとミキはお互いを見つめあい、ゆっくりとひざまずいてその場に倒れこんだ。
二人はゆっくりと手を伸ばしてしっかりと握り合い、そして大きく目を開いたまま機能を停止した。
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