「ジ エンド オブ テラ The End of Terra」第2章
ジ エンド オブ テラ The End of Terra 第2章
第2章 テラ フォーミング
*3日後・・・*
1台のロケットが火星に降り立った。
しばらくの静寂ののちハッチが開き、小型の探索艇が飛び出してきた。
「きれいな風景ですね。まるで地球のようです。いや、現在の地球ではこんな景色はほとんど見られなくなってしまいましたが・・・」
操縦している加藤が隣の高梨に向かって言った。
「そうだな。数百年前の火星から考えるととても考えられなかった光景だろう」
高梨が周りを見回しながら答えた。
「大気成分を分析します。窒素80%、酸素20%、気温21度。湿度60%です。放射能は検出されません」
「これは驚いた!地球の環境と全く変わらないじゃないか」
高梨は驚愕の声を挙げながらモニター画面の数字を確認していた。
「あそこに羊の群れがいます。おいしそうに草を食べていますね。あ・・だれか倒れています。1、2・・・3人」
「ああ・・あれは機能を停止したアンドロイドたちだろう」
「すべてのアンドロイドが機能停止したのでしょうか?」
「それを確かめるのが俺たちの役目だろう?さあ、セントラルタワーに急ごう」
セントラルタワーに降り立った高梨と加藤はゆっくりと中に歩いて行った。
「あちこちにアンドロイドたちが倒れていますね」
「ああ・・DEMONの効果は絶大だな数百年前の人類が作ったコンピュータウイルスとは思えない」
二人はエレベータに乗り込んだ。
「何階でしょうか?」
加藤がボタンに手を掛けながら高梨に聞いた。
「地下15階だ」
「え、でも地下は10階までしか・・・」
「あるんだよ」
高梨はポケットからカードを取り出すとボタンの下の挿入口に差し込んだ。
その瞬間、エレベータが急速に地下に向かって動き出した。
エレベータはあっという間に地下15階に到達し、自動で扉が開いた。
「ここにはアンドロイドたちは立ち入ることができなかったはずだ」
エレベータを降りた高梨がメインスイッチをオンにすると部屋中の端末が点灯した。
高梨はメインの端末に入力を始めた。
「よし・・・機能しているアンドロイドは一つもいないようだ。加藤、火星全体の建築物や動物の分布を確認してくれ」
「了解しました」
*火星改造計画*
2101年・・・今から900年前・・・地球の寿命はあまり長くないことが確定的となった。
人類の、未来を考えない浪費により、エネルギー資源や食糧は徐々に枯渇し、その上エネルギー政策の失敗や度重なる核戦争による放射能汚染の拡大、また緑地の砂漠化なども進み、数世紀後には地球が死の星になることが明らかとなったのである。
初めて真剣に危機を感じた人類はあれこれ対策を講じようとしたが時すでに遅く、ついに人類は火星への移住を決断した。
そして火星の環境を地球のように改造するテラフォーミングプロジェクトが立ち上がったのである。
水も酸素もなく、荒れ果てた赤い大地しかなかったそのころの火星には、厳しい環境でも活動できるアンドロイドたちが送り込まれた。
彼らはプログラムに従って温室効果ガスを発生させ、永久凍土を融解して海を作り、植物を活動させ、徐々に火星の環境を地球に近づけていった。
人類が送り込んだ初期のアンドロイドたちは全く機械的な外見と機械的な機能を持っていたが、そのMPUには学習進化のプログラムが搭載されていた。
彼らは自らの手でアンドロイド再生工場を作り上げ、50年の寿命がくると自らの手でお互いを廃棄処分とし、そのMPUの記憶と学習内容を参照して新しいアンドロイドを設計して徐々に進化していった。
その結果、数百年の年月とともにアンドロイドたちは全く人類そっくりの外見と機能、すなわち人工臓器による消化機能や排泄、循環機能なども備えた体に進化していた。
アンドロイドの進化に伴い火星のテラフォーミングも順調に進行し、動植物をはじめとして住宅環境なども人類が住みやすいような都市が作られていったのである。
アンドロイドたちのMPUは太陽系や宇宙など火星外のことには興味を持たないようにプログラムされていた。しかし人類は、進化して自我に目覚めたアンドロイドたちが人類の存在に築き、攻撃を仕掛けてくることを恐れた。
そのためアンドロイド世界のエンド コドンとしてDEMONというコンピュータウイルスの仕組みを作り上げた。
進化したアンドロイドたちが人類に脅威を及ぼすような兵器を開発し、かつアンドロイドたちが火星外生命、すなわち人類の存在に気が付いたときにDEMONは活動をはじめ、すべてのアンドロイドの機能を瞬時に停止させる。
そしてそれを感知するプローブとして2体のアンドロイドを別に作り上げ、火星の監視役とした。
2体のプローブは50年の寿命を終えるとまた次のアンドロイドに記憶をわたし、数世紀にわたって火星を監視し続けてきたのである。
加藤と高梨はモニター画面をじっと見つめていた。
「最初に人類が作ったセントラルタワーは地下の部分だけだったが、かなり大がかりな施設に発展しているな」
「はい。モニターから確認できる都市の設備も我々の世界の建築物とほとんど同じです。熱帯雨林や乾燥地帯、温帯地域それぞれに固有の植物と動物たちが反映しています。アンドロイドたちが長い年月をかけて作り上げてくれたのですね」
「その通りだ。数百年前に計画された火星のテラフォーミングは大成功のようだな」
「しかし・・・これでいいのでしょうか?」
「なんだ?」
「アンドロイドたちが長い年月をかけて作り上げたものを我々が何もせずにそっくり横取りするようで・・・」
「何を言っている。ここのアンドロイドたちは俺たち人類が作ったものだ。我々はいわゆる神様ってわけだ。我々はアンドロイドという道具を使ってほしいものを作り上げただけだ。気にすることはない」
「それはそうですが・・・」
「人類はずっと昔から自分に必要なものを利用し、不要になれば破棄し、常に新しいものを作り上げてきた。神様はそんな遺伝子を俺たちに組み込んだんだ。俺たちはそれに従っているだけだ」
「・・・はい・・・でも・・・新しく与えられたこの星を我々は、今度は大切にしていけるのでしょうか?」
「そんな先のことは俺たちの知ったことじゃない。ダメになったらまた未来の奴らが新しい星を探すだろうよ」
*アキラとミキ*
二人は一つの部屋の扉を開けた。
「ここはアンドロイドたちが太陽系内の生命体探査プロジェクトを行っていた部屋だ」
「そこに手を握り合って倒れているアンドロイドがいますね」
加藤が言った。
そこにはアキラとミキが目を大きく開いたまま、手を握り合って横たわっていた。
「男性タイプと、女性タイプか・・」
高梨はポケットから携帯端末を取り出した。
「認識番号AMN001720。コードネーム【アキラ】だ」
「え?じゃあ・・・これがDEMONの軌道スイッチ・・・」
「そうだ。そして探査プローブでもある。そしてこちらが・・・認識番号SRN003764。コードネーム【ミキ】だ」
「もう一つのプローブですね。恋人同士だったんでしょうか?」
「ああ・・・そういう設定だな」
加藤は二人のそばに倒れているアンドロイドに目を向けた。
「こちらは・・目を閉じたまま機能停止しています。ほかのアンドロイドたちとは違うようです。胸を・・・撃ち抜かれています。DEMONに感染する前に機能停止したようです」
「認識番号STN003331。コードネーム【リョウ】だ。DEMONが放出されることに何らかの関与をしたのかもしれない。この3体は回収しよう。加藤、回収シールを貼ってくれ。後日回収部隊が処理する」
「わかりました」
加藤はアキラ、ミキ、リョウの胸に回収シールを貼っていった。
作業を終えた加藤は固く手を握り合ったアキラとミキの姿をじっと見つめていた。
「何してる?いくぞ」
「はい」
加藤は開いたままのアキラとミキの目をゆっくりと閉じさせると、その場に直立して敬礼した。
そしてあわてて高梨の後を追った。
(おわり)
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