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2013年10月27日 (日)

「ゼウスの火」プロローグ

 「見ると1週間後に死ぬ」という「呪いのビデオ」の謎を科学的にこじつけたのが前作品の「パンドラ」でしたが、どうもすっきりしません。どうしてだろうと考えてみると・・・わかりました。「ほかの人間に呪いのビデオを見せると呪いがとける」という「呪いがとける謎」が解明されていないのです。

 そこで今回は「呪いがとける謎」も科学的にこじつけた作品にしようと創作に取り掛かりました。さすがに「他人にビデオを見せたたけで自分に感染した殺人ウイルスが消えてしまう」というこじつけは不可能で、「他人にビデオを見せてその人と交わることによりウイルスが消える」という設定で科学的根拠を考えました。

 その結果、この「ゼウスの火」では、いろいろな人間ドラマが生まれ、結構面白い作品に仕上がりました。それにより前作品の「パンドラ」はこの作品のプロトタイプ(試作品)ということになり、読んでいただく価値はなくなってしまいました。いっそのこと削除しようかとも思いましたが、これはこれで別のテーマも描いており、とりあえずはこのままにしておくことにしました。

 「パンドラ」が自分で読み返してもわかりにくかったので今回は専門用語をできるだけ使わず、わかりやすい作品にするように心がけました。理系頭の皆さんは主人公の美里とともに謎の解明にトライしていただき、文系頭の皆さんは難しいところは読み飛ばして人間ドラマだけ楽しんでいただきたいと思います。なおこの作品は近未来を舞台にしたSFで、ホラーではありません。

 

 

「ゼウスの火」 

 

 人間に火を贈ったプロメテウスはゼウスの怒りを買い、未来永劫にわたりコーカサス山の岩に磔(はりつけ)にされた。

さらにゼウスはその弟エピメテウスにパンドラという美しい女性を嫁がせた。

ゼウスはパンドラに「決して開けてはならない」と忠告して箱を渡したが、パンドラは好奇心に負けてその箱を開けてしまった。

 すると中から飛び出したのは病気や苦労、悪意や犯罪などのあらゆる災いだった。

 これによって人類はあらゆる災難に苦しめられることになった。

 あわててふたを閉めたパンドラは中に何かが残っていることに気が付いた。

 その残っていたものこそ「希望」であった・・・。

 

プロローグ 呪いのビデオ

 

202X年 91日(土曜日)

 

【A市 温泉旅館 海園荘】

 

「アー食った食った。腹いっぱいだぜ」

 卓は旅館の部屋に戻って仰向けに寝そべった。

 俊樹、慎太郎、桜子の三人もそれに続いて布団にあおむけになった。

「やっぱり旅館の飯はうめーなー!」

 俊樹が言った。

「でも、ちょっと私にはボリュームが多かったな」

 桜子が俊樹に寄り添って言った。

「最後の夏休みにここに来てよかったよね」

 慎太郎が大の字に仰向けになって天井を見ながら言った。

 

 卓、俊樹、慎太郎、桜子は大学の同級生である。4年目の最後の夏休みにA市の温泉旅館、海園荘に旅行にきていた。4人で1日中マリンスポーツを楽しみ、夕食を食べてたった今部屋に戻ってきたところである。

 寝そべってあたりを見回していた卓はテレビ台の下にあるケースに気が付いた。

「あれ?なんだこりゃ」

 卓は体を歩腹前進させるとケースを手に取った。

「なんだ。ゼウスの火(呪いのビデオ)・・・・おい! 呪いのビデオだってよ!」

「あー? 呪いだー?」

 俊樹がめんどくさそうな声で答えた。

「おもしれーじゃねーか。見てみようぜ! ちゃんとデッキもあるしよ」

 卓はそういいながらデッキのスイッチを入れた。

「おい・・やめようよ。なんか気味が悪いよ」

 慎太郎は卓の腕を持って制した。

「何だお前、こわいのか?」

「そうじゃないけど・・・本物だったらどうするんだよ」

 そこに横から俊樹が入ってきた。

「ばーか。呪いなんてあるわけないじゃん! 卓、見ようぜ! 面白そうだ」

「そうそう。せっかくの旅行なんだから新しいことどんどんやろうよ」

 桜子も賛同した。

「じゃあ、入れるぞ!」

 卓はDVDをデッキに挿入してセットした。

 しばらくすると画面には椅子に座った白いスーツ姿の男が映った。

 しかしその顔はぼかされ、人相は特定できない。

 周囲は黒っぽい壁が見えるだけだ。

<やあ・・・こんにちは・・・まず最初に忠告しておきます>

「お・・・はじまったぞ」

 卓の声に4人はじっと画面を見つめた。

<このビデオは呪いのビデオです。見た人間は1週間後に死ぬことになります。死にたくない人はここで再生を中止してください>

 機械で変換された低い声が聞こえてきた。

「お・・おい・・・やっぱやめようよ」

 慎太郎が卓の腕を引っ張った。

「馬鹿野郎。呪いなんてあるわけないだろ! この手のビデオはこんな出だしから始まるんだよ。根性なし」

 卓は慎太郎の腕を振り払ってビデオを見続けた。

<では呪いの内容を読み上げます>

 顔を隠した男が横のテーブルに置いてあった古臭い分厚い本を手に取った。

 

<プロメテウスにより火を授かりし我々にゼウスは怒り、

エピメテウスに嫁いだパンドラに箱を渡した。

パンドラは禁じられた箱をあけ、

パンドラの内からゼウスの火が世界に広がりし。

ゼウスの火に触れたものはその目を焼かれ、

8回目の日を見ずして旅立つであろう。

 

他の人間にゼウスの怒りを伝え、

そのものと交わったものにはゼウスの怒りは解かれよう。

4つ目の日を見る前にゼウスの怒りを伝え、

その次の日を見る前にそのものと交わればゼウスの火は消え去らん。

 

イージスの盾を持つものはゼウスの火により目を焼かれず。

戦いの女神アテナ、22のうち1つの男にイージスを授けるものなり>

 

 4人はかたずをのんでスーツ姿の男を見つめていた。

<このビデオを見ているあなた・・・あなたはもうゼウスの呪いにかかりました。ですからあなたは1週間後に死ぬ運命にあります。これはもう避けることはできないのです。しかしたった一つだけこれを回避する方法があります>

 4人は声も出さずに画面を真剣に見つめた。

<あなたがこの映像を見てから3日以内にこのDVDをまだ見ていない他の人間に見せなさい。そしてその24時間後にその人と交わるのです。それであなたの呪いは解かれます。しかしその人はまた誰かにこのDVDをみせて、24時間以内にほかの誰かと交わる必要があります。それができなければその人はビデオを見て7日後に死にます>

「交わるって?」

 桜子がつぶやいた。

「そりゃエッチするってことだろ?」

 俊樹が笑いながら桜子の肩を抱いて言った。

<ただし・・・親兄弟、近親相姦はいけません。血の濃い相手と交わることは神以外には許されていません。したがって呪いを解くことはできません。

よろしいですか? もう一度言います。あなたが助かるたった一つの方法は今から3日以内にこのビデオを他の人間に見せて、その人と交わることなのです。では・・・ごきげんよう>

 そこでビデオは終わり、あとは砂嵐画面となった。

「これだけ?」

 桜子がつぶやいた。

「ああ・・・そのようだな」

 卓も画面を見ながら言った。

 その時慎太郎がテレビののスイッチを切った。

「どうしよう! 俺達あと1週間の命だ!」

「ば・・ばか! こんなのでたらめに決まってるだろ!」

 俊樹が吐き捨てるように言った。

「そうよ・・・・これくらいで死んでたら日本から人間いなくなっちゃうわよ」

 桜子も声を詰まらせながら言った。

「でも・・えらくリアルだったよな・・・」

 卓がデッキからDVDを取り出しながら言った。

「誰かに見せる?」

 慎太郎が卓の顔を見ながら言った。

「ば・・ばかやろう! こんなのウソに決まってるだろ!」

「そうだよ。慎太郎、お前本当にこんなの信じてるのか?」

「慎太郎は臆病だからね。いつも肝試しもひとりじゃいけないし。今晩私の布団にもぐりこんでこないでよ」

 桜子の言葉を受けて俊樹が笑いながら言った。

「そんなことしやがったらお前の股間を蹴り飛ばすぞ!」

「そ・・そんなことするわけないだろ・・・」

 慎太郎はDVDをケースにしまいながらばつが悪そうにつぶやいた。

 

92日(日曜日)

 

93日(月曜日)

 

【慎太郎の部屋】 慎太郎→香里奈、友美

 

 慎太郎は自分の部屋で香里奈と友美にDVDが入ったケースを見せて旅館でのことを話した。

 香里奈と友美は短大生で慎太郎より2つ年下である。慎太郎と香里奈は半年前に合コンで知り合い、それ以来付き合っている。

「ふーん・・呪いのビデオね。あんたそれ見たの?」

 香里奈がケースを手に取りながら呆れ顔で慎太郎を見つめた。

 香里奈は年上の慎太郎にもタメ口である。

「ああ・・・見たよ。本当に1週間後に死ぬって言われたんだ」

「それで、信じてるわけ?」

 香里奈が馬鹿にしたような目つきで慎太郎をにらんだ。

「お・・俺だって信じてるわけじゃないけど・・でもなんとなく気味が悪いじゃないか」

「それで・・・今から私にそれを見せて明日エッチしてくれってこと?」

「まあ・・・香里奈がよかったら・・・」

「あきれた・・・。でも私明日はだめ、バイトだから」

「バイト?」

「そう」

「そんなこと言わずに付き合ってくれよ」

 慎太郎は情けない声で香里奈に懇願した。

「なんで私があんたのためにバイト休まなきゃいけないのよ。あーあ・・・最初はちょっとかっこいいと思って付き合い始めたけど、とんでもない臆病者だったわ」

 そんな香里奈に友美が笑いながら言った。

「まあいいじゃないの。バイトくらい私が代わってあげるって。明日は二人でまじりあいなさい」

「本当か?友美ちゃん!」

 慎太郎は嬉しそうに友美のほうを向いた。

「あーあ・・・。ごめんねー友美。臆病者の彼氏でー・・・」

「でも面白そうだから私にも見せてよ。その呪いのビデオ」

「し・・知らないぞ・・・俺はもう見ないからな」

 慎太郎はそそくさと部屋を抜け出した。

 

「見よう見よう!」

 香里奈はDVDをデッキに入れた。

 

9月4日(火曜日)

 

95日(水曜日) 

 

【呪いの伝搬】友美→竜司

 

「ねえ、竜司・・・お願い、このDVDみて」

 友美は事情を説明した後、男友達の一人である竜司にDVDを渡して言った。

「俺が?やだよ。気味悪いぜ。でもお前本当に呪いのビデオなんて信じてるのか?」

 竜司はDVDを放り投げると友美から目をそらした。

「私だって信じてないけど・・でもなんとなく気持ち悪いのよ。竜司だって信じてないでしょ? だったらいいじゃないの」

「俺はそんなもの信じないけど・・・」

「でしょ? だったらいいでしょ? お願い」

 友美は両手を合わせて拝むように竜司を見つめた。

「お前誰か男いないのか?」

「いないから頼んでるんじゃない! あんた私としたくないの?」

「まあ・・・・したくないってわけじゃないけど。わかったよ・・・見りゃあいいんだろ?」

「ありがと! 竜司。でもエッチは明日だからね!」 

 

「ゼウスの火」第1章(1/3)に続く

 

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