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2014年4月20日 (日)

「魔法の国のアリスと宇佐木君、そしてチシャ猫のお話」

 先日見た夢をモチーフにして短編を書いてみました。

 私は時々妙に印象に残る「変わった夢」を見るのですが、それらのうちいくつかは小説の題材になっています。ただ、すぐに下書きを書いておかないと2―3日すると忘れてしまうのですが・・・。

 今回は「世にも奇妙な物語」風にライトホラーにしてみました。

 

「魔法の国のアリスと宇佐木君、そしてチシャ猫のお話」

 

「でも驚いた。宇佐木君が誘ってくれるなんて・・・」

 秋葉ファッションに身を包んだ藤村美兎(みと)が『Bar チシャ猫』でカウンターの左隣に座っている宇佐木に微笑みかけた。

「あ・・・ああ・・・」

 宇佐木は薄く茶色に染めた髪をほんの少しかき分けながら憂いを含んだ目で美兎をちょっと見つめると、すぐに目をそらして前を向いた。

「それに宇佐木君にもらったこのピアス・・・こんな可愛くてすてきなの見たことない!」

 美兎は左耳に着けたピアスに触れながら言った。

「ああ・・・それはこの・・・アリスさんが・・・」

 宇佐木は目の前でカクテルをシェークしているアリスに目をやって答えた。

「気に入っていただけた? そのデザインは我が家に代々伝わるもので、私も母から習って作ったんだけど・・・純銀製なのよ」

 長い黒髪に憂いを含んだ瞳、妖艶な雰囲気を漂わせるアリスはカクテルをグラスに注ぎながら言った。

「えー! これアリスさんの手作りなんですか? 信じられない! こんなに精密なデザイン。 まるで本物の『不思議の国のアリス』がこの中に封じ込められたみたい」

 美兎は大きく息をのんで驚愕の瞳でアリスを見つめた。

「ほかならぬ宇佐木君がどうしてもこれをプレゼントしたい女性がいるっていうから、心を込めて作ったのよ」

 アリスは宇佐木をちらっと見ながら、二人の目の前にカクテルグラスを差し出した。

「私、一生大切にします!」

 美兎は両耳のピアスに触れながら感激の眼差しでアリスと宇佐木を交互に見つめた。

「アリスの作るアクセサリーはどれも一級品だからね」

 アリスの隣でグラスを拭いている小太りの中年男がしゃがれた声で言った。

「本当ですよね、チシャ猫さん」

 宇佐木はグラスを持ち上げてほんの少し頭を下げて乾杯のあいさつをした。

「チシャ猫? マスター、チシャ猫ってお名前なんですか? ああ・・・だからこのお店の名前も『Bar チシャ猫』なんですね」

 美兎はうなずくと、小太りの男を見つめながら言った。

「ああ・・そんな名前で通ってるよ」

 チシャ猫と呼ばれた男はグラスを丁寧に拭きながら答えた。

 

 店の中は4人だけの他愛もない会話が弾んでいた。

「あれ? あそこにあるのジグソーパズルですか?」

 ふと、美兎が後ろのテーブル席に置いてある円筒の缶の中身を指さして言った。

「ええ、そうよ。 やってみる?」

 アリスは、にやっと笑みを浮かべた。

「ええ、是非! 私ジグソーパズル大好きなんです!」

 美兎はカウンターの椅子から降りるとテーブル席に向かった。

まだ30ピースくらいしかないからすぐできるわよ」

「すごーい! なんて精密な絵なのかしら、どれもこれもまるで本物のお人形みたい・・・」

「そうでしょうね・・」

 アリスは妖艶な微笑を浮かべながら、まるで観察するように美兎をじっと見つめて言った。

「普通のジグソーパズルよりピースがずいぶん大きいわ。 でもこれくらいの数ならこのテーブルの上で完成できそうね」

 美兎はパズルのピースを一つ一つ取り出すとゆっくりと組み合わせていった。

 宇佐木はそんな美兎のほうは振り向かず、ほんの少し悲しそうな顔でカクテルグラスに静かに口をつけた。

「男女の人形がペアになって描かれているのね。 どれも本当に精密・・・。この一つ一つが芸術品だわ・・・」

 美兎は手早くパズルを完成させていった。

「もう少し・・・。 あれ? 1ピース足りない。 この男の子の相手の女の子のお人形が足りないみたい。 どこかに落ちたのかしら・・・」

 美兎は最後から2番目のピースを組み込むと周りをきょろきょろと見回した。

 その姿を見ていたアリスはみるみる口元をゆるませ、そして口を大きく開いて会心の笑みを浮かべた。

「あ・・・なんだかめまいが・・・」

 美兎が目をつむった瞬間、美兎の意識は急に薄らいでいった。

 

数日後・・・

 宇佐木は一人で『チシャ猫』のカウンターに座っていた。

「えー! アリスさん、またやっちゃったんですかー?」

 宇佐木はびっくりしてアリスを見つめた。

「ごめんねー・・・。 だってあんまりかわいかったから・・・つい声をかけちゃったのよ」

 アリスの声にあきれながら、宇佐木はカウンターの手元に置いてあるジグソーパズルの1ピースを見つめていた。そのピースにはジャニーズっぽいミドルティーンの男の人形が描かれていた。そしてその首には不思議の国のアリスを形どったネックレスがかけられていた。

「またピースが合わなくなっちゃったじゃないですか・・・。 この前せっかく完成したのに・・・」

「ごめんねー、宇佐木君。 またピースが一つ足りなくなっちゃったねー・・・」

 アリスは悪びれもせず、いたずらっぽい瞳で宇佐木の顔を覗き込んだ。

「それで? 今度はどんな女の子がお相手ですか?」

 宇佐木は呆れ顔でアリスを見返した。

 チシャ猫は笑みを浮かべて二人を見つめながら相変わらずグラスを丁寧に拭いていた。

「そうねー・・・今度はぐっと大人っぽい女性がいいと思うんだけど・・・。20代後半のバリバリのキャリアウーマンでどうかしら?」

「この男の子にバリバリのキャリアウーマンですかー?」

 宇佐木はパズルのピースとアリスを交互に見つめながら言った。

「そのギャップがいいのよ。宇佐木君の魅力ならそんな女性でも大丈夫でしょ?」

「まあ・・・何とかしますけど・・・。もうこれっきりにしてくださいよ。 僕も女の子たちに悪くって・・・」

 宇佐木は後ろのテーブルに置いてあるジグソーパズルの缶を見つめながら言った。

「わかった! 今度こそ約束! もう最後!」

 アリスは右手の小指を宇佐木に差し出して言った。

「はいはい・・・」

 宇佐木はあきらめ顔でうなずいた。

「今度のアクセサリーはペンダントにしようかしら。祖母の代から伝わっているいいデザインがあるのよ。アリスがウサギを追いかけてるとこなんだけど・・・」

 アリスは天を見上げて空想するように言った。

 

「おばあさんの代から・・・ですか。でもアリスさんたちって一体何歳なんですか? 悪魔も人間と同じように年取るんですか?」

「あ・・・その悪魔って言葉、いやだなー。 ねーマスター!」

 アリスはチシャ猫のほうを見やるとちょっと憤慨した声で言った。

「まあね、いかにも悪者って感じかな?」

 チシャ猫はグラスを拭きながら微笑んでしゃがれた声で答えた。

「そうよ。 ちゃんと正式に『魔法使い』って呼んでほしいわ。 私たちのほうが人間よりずっと前から地球に住んでいるんだからね。 あなたたちに文明を教えてきたのは私たちなのよ」

「はいはい、わかりましたよ。 魔法使いさん。 それで、アリスさん何歳なんですか? 僕よりずっとずっと歳いってるのはわかりますけど!」

 宇佐木はいたずらっぽい目で、下からアリスの顔を覗き込んだ。

「失礼ね! 私まだ2万7202歳よ! 青春真っ只中なんだから!」

 アリスは憤慨して答えた。

「俺は3万5460歳になったとこかな? もう中年に足を突っ込んだなー」

 チシャ猫が天を仰いで言った。

「ああ、2万7202歳と3万5460歳ですか・・・。思ったより若いんですね」

 宇佐木は苦笑して後ろを向くとカウンターの上にあったジグソーパズルのピースを缶に向けて投げ入れた。ピースは缶の端にあたるとテーブルの上に落ちた。

 缶の中に入っている一番上のピースには、秋葉系ファッションの女の子の人形が描かれていた。

そして、『不思議の国のアリス』がデザインされた彼女のピアスの横を、一筋の涙が静かにこぼれ落ちていった・・・。

 

「魔法の国のアリスと宇佐木君、そしてチシャ猫のお話」 終わり

 

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