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2014年9月15日 (月)

「虹の彼方のオズ」第3章(2/3)

【頼もしい援軍】

前方にいた足立一飛曹が突然大声を上げた。

 「敵機来襲!右上空45度!」

 「おいでなすったか・・・」

 井上中尉が右の空を見上げると20機ほどの編隊がゴマ粒のように小さく見えた。

「零戦が増槽を落としました。5機が迎撃に向かいます。残りの5機は残ります」

 宇佐美が言った。

「あの数じゃあ歯がたたんな。宇佐美上飛曹、敵さんが来たら逃げて逃げて逃げまくれ。何としても少尉殿を敵艦隊が見えるところまで運ぶんだ」

「わかっています。俺の腕前を見てください」

 靖彦は操縦席の後ろで軍刀を握りながらじっと目をつむっていた。

「左上から敵機来週!」

 足立がまた大声を上げた。

「畜生、さっきのはおとりだ。護衛の零戦を引き離してこっちをたたく作戦だ」

「残った零戦が迎撃に向かいます」

「右に旋回して高度をあげるぞ。全員戦闘準備。銃座につけ!」

 靖彦の乗った一式陸攻は大きく右に旋回して上昇していった。

「零戦、旗色悪いですね」

 宇佐美がつぶやいた。

「零戦といまのグラマンF6Fじゃあよっぽどの腕がないと太刀打ちできんだろうな。こっちの戦力はどんどん落ちるのに向こうはどんどんいい道具をつくりやがる」

 井上が吐き捨てるように言った。

 その時、右下から銃声が響いた。

 バリバリバリバリ・・・

「2番機、3番機がやられました!」

 江崎二飛曹が声を上げた。

「くそっ!また来るぞ!宇佐美、上昇しろ!」

 その時、上部の銃座にいる岡崎一飛兵が大声を出した。

「右後方から敵機!」

「撃ち落とせ! 宇佐美、左にかわせ!」

 バリバリバリバリ・・・

 機銃の音が交錯する中で長瀬の一式陸攻は大きく左に旋回して下降した。

「どうした?やられたか!」

「小隊長!敵機が二機とも落ちていきます!」

 宇佐美は操縦かんを握りながら歓喜の声を上げた。

「やったか!岡崎一飛兵」

「いえ・・・私ではありません!」

 岡崎が力なく答えた。

「じゃあ後ろの片山二飛曹か木村上飛曹が・・・」

「いえ・・違うと思います・・・なにか黒いものが上からものすごい勢いで落ちてきてそれと同時にグラマンも落ちて行ったのです」

 岡崎が困惑しながら答えた。

 その時、目をつむっていた靖彦がカッと目を見開いた。そしてその黒い物体は靖彦の右横に突然現れた。靖彦は、はっとして右を振りむいた。そこには・・・

「ドロシー・・・」

 靖彦がつぶやくとドロシーの操縦席で雅人がフェイスマスクをあげ、笑顔で長瀬に向かって敬礼をした。

「雅人・・・」

「前方から3機接近します!」

 足立の声が操縦席に響くと同時に雅人はフェイスマスクを装着するとドーン!という加速音とともにあっという間に前方のグラマンに向かっていった。そして左右に機体を揺らしながら一気に3機を撃ち落とすと急上昇していった。

機内の全員が呆気にとられた表情で無言のままその様子を見つめていた。

「す・・・すごい・・・なんて速さだ」

 宇佐美が呆然としてつぶやいた。

「なんだありゃあ・・」

 井上は操縦かんを握ったまま落ちていくグラマンを見つめていた。江崎は乗り出すようにドロシーの残した飛行機雲の彼方を見つめていた。

「あれは味方です」

 長瀬が静かに言った。

「味方?じゃあ帝国海軍の新兵器!」

 宇佐美が振り返って長瀬に問いかけた。

「まあ、そんなところです」

「あのスピードは尋常じゃないぞ。それにプロペラがない。ジェットエンジンをつんでいるのか」

 井上がつぶやくと、後ろから江崎が首を横に振って答えた。

「いいえ、ジェットエンジンではありません、たぶん・・・。あの機には空気を取り入れるエアインテークがありませんでした。あれは多分ロケットエンジンで飛んでいるのだと思います」

「ロケットエンジン!」

 宇佐美が叫び声をあげた。靖彦はほんのすこし笑みを浮かべ、感心した表情で左の江崎を見つめた。

「大本営は極秘にあんなものを開発していたのか」

 井上が感嘆の声をあげた。

「まだ試作品のようですが・・・」

「あれが量産できれば・・・日本は・・・勝てますよね・・・」

 宇佐美が寂しそうにつぶやいた。

「もっと早くできていれば・・・こんな作戦なんて・・・」

 そう言いかけて宇佐美はちらっと靖彦に目をやった。

「いずれにせよあいつが守ってくれるんなら百人力だ!敵の艦隊さえ見つければ必ずこの作戦は成功する!」

 井上は力を込めて言い放った。その横の宇佐美が言った。

「あいつグラマンの編隊に突っ込んでいきますよ・・・はやいなー・・・あいつから見たらグラマンなんて止まったハエみたいなもんだろうな」

 ドロシーは急上昇、急降下、旋回などアクロバチックな飛行を繰り返し、次々と敵機を撃ち落としていった。機内ではそのたびに歓声が上がった。

「また落とした!今度は2機いっぺんに落としたぞ!」

「でもあいつ・・・グラマンの尾翼だけを狙っているんじゃ・・・」

 宇佐美がつぶやくと井上が答えた

「人間を殺さなくても戦争はできるってことだな・・・」

 その時足立の金切り声が機内に響いた。

「左上から2機接近します!」

「宇佐美、振り切れ!」

「だめです!間に合いません!やられる!」

 

 雅人はグラマンの編隊を次々と落としていた。その時、ドロシーが警告を出した。

<マサト!一式陸攻の左上方から敵機が接近します>

「しまった!間にあわん!仕方がない・・・ミサイルを使おう」

 雅人はグラマンをロックオンし、ミサイル発射ボタンを押した。

 

「宇佐美、急降下して右に回れ!」

 その時、一式陸攻の前方で何かが光った。その2つの光は煙の尾を引きながら一直線に進んだかと思うと弧を描いて2機のグラマンを直撃した。そして大きな爆発音が機内に響いて1式陸攻は爆風により大きく揺れた。

「助かった・・・」

 宇佐美は機を立て直しながらつぶやいた。

「なんだありゃあ!火が飛んできたぞ」

 井上が大声を上げた。

「あれは・・・ミサイル・・・ロケット弾です」

 靖彦が答えた。

「ロケット弾!」

 江崎が靖彦を見ながら叫んだ。

「桜花のように爆弾にロケットエンジンを搭載したものです。ただしあれには人は搭乗する必要はない。自動で敵機を感知して追跡して確実に命中する」

「そんな兵器があるのなら・・・」

 江崎は言葉を詰まらせた。その時、足立が大声を出した。

「左前方敵艦隊発見!!」

 それを聞いた瞬間、靖彦はぴくっと体を震わせた。

「いたぞいたぞ!」

「井上中尉殿。私は桜花に乗り込みます。後をよろしくお願いします」

 靖彦はそう言いながら静かに席を立った。

「頼むぞ!少尉殿! 江崎二飛曹。少尉殿が桜花に乗るのを補助しろ」

「はい!」

江崎は機体の中ほどの桜花に通じるハッチを開けた。外気に開かれたハッチからは強い風が長瀬の体に吹き付けた。長瀬は大きく深呼吸し、これから自分が搭乗する予定の吊り下げられた桜花のコックピットをじっと見つめた。そしてふと江崎のほうに顔を近づけた。

「江崎二飛曹、耳を貸せ」

「はっ!何でありましょう!」

「あの航空機は実は未来からやってきたのだ」

「み・・未来でありますか!」

「そうだ。貴様の言うとおり、あれはロケットエンジンを積んでおり宇宙に行くことができる」

「宇宙に!少尉殿は宇宙に行かれたのですか!」

「ああ、行ってきたぞ」

 靖彦は笑顔で答えた。

「宇宙はどんな・・・」

「宇宙から見た地球は青いのだ」

「青い・・」

「そして宝石のように美しい」

「宝石のように・・・」

「これを貴様にやる」

 長瀬は手に持っていた軍刀を江崎に差し出した。

「こ・・これを自分にでありますか!」

 江崎は恐縮して丁寧に両手で受け取った。

「あれの操縦士は俺の叔母の家にいるはずだ。これを見せて俺の部下だと言えば、お前も宇宙に連れていってもらえる」

「ほ・・本当でありますか!」

「本当だ。だから・・・死ぬな!必ず生きて・・・生きて帰るんだぞ」

 靖彦は小柄な江崎の肩に右手を置いて諭すように言った。

「はい!」

 江崎は軍刀を両手で握り締めて目を輝かせながら靖彦を見つめた。

 そして靖彦は江崎の介助で吊り下げられている桜花に乗り込んだ。

 

 江崎は操縦席の後の航法席に戻ってきた。

「長瀬少尉殿、桜花に搭乗されました!」

「よし・・・なんだ?お前それもらったのか?」

 井上は後ろを振り返りながら聞いた。

「はい!いただいたであります!」

 江崎は靖彦にもらった軍刀を大切そうに抱えた。それを見た宇佐美が残念そうにつぶやいた。

「いーなー・・・俺もほしかったよ」

「これは自分の宝物であります!」

「さあ、目標まで一直線だぞ!しめてかかれよ!」

 

 雅人はグラマンの編隊の中で急降下、急上昇を繰り返していた。

<マサト。右後方から敵機が2機接近しています>

「了解。これだけ多いともう機銃だけでは無理だな。悪いけどミサイルを使わせてもらうよ。何とかパラシュートで脱出してくれよ」

 雅人は急旋回すると2機をロックオンし、ミサイル発射ボタンを押した。

<今度は上方から2機急降下してきます>

「了解」

 雅人は急上昇すると旋回し、2機の後ろにつくと機銃を照射した。

<右横下方から1機>

「はい」

 雅人は右に旋回すると急降下し、機銃照射した。

<マサト!1式陸攻の後方から3機接近しています>

「なんだって!しまった。また離れすぎたぜ!間に合うか・・・」

 雅人はあわてて3機をロックオンするとミサイルを立て続けに発射した。

 3本の光は1式陸攻に向かってまっすぐに伸びていった。

 

「小隊長、後ろから3機接近します!」

 岡崎の声が機内に響いた。

「宇佐美!急降下!」

 その時3本の光が前方から接近した。光が1式陸攻の頭の上を通り過ぎるとほぼ同時に2つの爆発音がした。

<マサト。一つ外れました>

「しまった!」

 雅人は慌てて方向を変えると一式陸攻に向かって突っ込んでいった。

 雅人が撃ち漏らした1機のグラマンは1式陸攻に向かって急降下すると機銃掃射を浴びせた。

 バリバリバリバリ・・・

 機内は大きな衝撃で左に大きく傾き、宇佐美は必死に操縦かんを握って機を立て直した。

「小隊長!江崎二飛曹がやられました!」

 岡崎一飛兵が後から大声を上げた。

「なに!どんな具合だ!」

 井上は操縦席から体を反転させて聞いた。

「頭に・・頭に穴が・・・江崎二飛曹の頭に大きな穴が・・・」

 経験が浅く、まだ僚友の死にほとんど立ち会ったことがない岡崎は動揺して震えた声で答えた。

「そうか・・江崎がやられたか・・・」

 井上はがっくりと頭をたれた。

「小隊長!江崎二飛曹の頭から・・・頭から血が流れて止まらないのであります!抑えても抑えても止まらないであります!」

 岡崎はどくどくと真っ赤な血があふれ出る江崎の頭を両手で押さえながら興奮して叫んだ。

「岡崎!落ち着け!江崎はもう死んだ!」

「死んだ・・・?江崎二飛曹は死んでしまったのでありますか・・・さっきまで元気でしゃべっていたのに・・・。江崎二飛曹!江崎二飛曹!目を開けてください!」

 岡崎は血で真っ赤になった江崎の体を抱きかかえながら叫び続けた。

「岡崎!もう江崎の血は止めなくていい。床が滑らないように江崎の体を毛布でくるんでやれ」

「はい・・・」

 岡崎は泣きながら毛布を持ってくると江崎の下に敷いた。

「小隊長・・・」

「なんだ!」

「江崎二飛曹が・・・軍刀を・・・離してくれないのであります・・・」

「なんだと?」

「軍刀を・・・硬く握り締めて・・・手から離れないのであります!」

 岡崎は泣きながら井上に訴えた。

「あいつ、よっぽどうれしかったんだな・・・」

副操縦席の宇佐美が下を向いてつぶやいた。

 井上は大きく息をつくと岡崎に向かって静かに言った。

「そのまま軍刀ごと毛布にくるんでやれ」

「はい!」

「それがすんだら後ろを見てこい!」

「はい!」

 岡崎は泣きながら後方を見に行くとすぐに戻ってきた。

「小隊長!片山二飛曹が胸から血を流して死んでいるであります!」

「なんだと?木村上飛曹は?」

「それが・・・後部銃座は粉々に壊れて・・木村上飛曹はどこにもいないのであります!」

「飛ばされちまったか・・」

 井上が悔しそうにつぶやいた。

 そのとき操縦席の連絡ブザーが鳴った。井上が受話器を取った。

<井上中尉どの!桜花を切り離してください!もう大丈夫です!>

「まだだ。長瀬少尉、ぎりぎりまで運んでやるから心配するな」

 井上はそういいながら受話器を置いた。

 

 その時一式陸攻の真上から一機のグラマンが急降下してきた。

<マサト!一式陸攻の真上から敵機です>

「だめだ間に合わん!」

 

 バリバリバリバリ・・・・

 機銃音とともに井上は右太ももに火箸でつつかれた様な鋭い痛みを感じた。

「くそっ!やられたか!」

 足を見ると2cmくらいの穴が開き血が噴出している。井上はマフラーをはずすと手早く足にくくりつけて出血を止め、ふと左の宇佐美を見た。

「宇佐美!おまえもやられたのか!」

「小・・・隊長・・・腹打たれました・・・。い・・痛いであります・・」

 宇佐美は苦痛に耐えた表情で赤くなった腹を左手で押さえていたが、右手ではしっかりと操縦かんを握っていた。

「足立一飛曹! 無事か!」

 井上は前方にいるはずの足立を呼ぶが返事はない。

「くそっ!足立もやられたか。岡崎!」

 井上が後ろを振り向くとそこには毛布にくるまれた江崎の死体の上で、喉からごぼごぼと血を噴出し痙攣している岡崎がいた。

「岡崎!・・・そうか・・・みんなやられちまったか・・・」

 そのとき連絡ブザーが鳴った。

<井上中尉殿!大丈夫ですか!>

「大丈夫だ。心配するな」

<中尉殿!私を切り離してください!ここからなら大丈夫です!>

「まだ飛べるぜ・・・。見てろ・・空母まで一直線のところまで持っていってやる」

<中尉殿!切り離してください!中尉殿・・・・>

 井上は受話器を落とすと両手でしっかりと操縦かんを握り締めた。右足からは真っ赤な血が滲み出し、ぽたぽたと床にしたり落ちていた。

「右に旋回・・もう少し・・・」

 そのとき左から1機のグラマンが急降下してきた。

 

<マサト。長瀬機の左からまた一機急降下します>

「くそ!数が多すぎる!間に合うか・・・」

 雅人はグラマンをロックオンするとミサイルを発射した。ミサイルが弧を描き命中する直前にグラマンの機銃が火を噴いた。

 バリバリバリバリ・・・

 そしてその直後ミサイルはグラマンを直撃した。

 一式陸攻の風防ガラスは粉々に砕け散っていた。

 井上は右腕と腹に強い痛みを感じた。

「くそ・・これまでか・・・少尉殿・・・あとは頼むぞ・・・」

 そして左手で桜花の分離レバーを引いた。

 

 一式陸攻から分離された桜花は音もなく数10メートル急降下した。長瀬は操縦かんを握り締めると3機のロケットを一気に噴射させた。ロケットを点火した桜花は花火のような音を発しながら一気に敵空母に向かっていった。

井上は傷ついた右手で腹を押さえながら突進する桜花を見つめていた。

「いったいった・・・宇佐美、見ろよ。少尉殿はロケットを一気に点火していったぜ」

「へへ・・・いったよ・・・空母までまっすぐだ」

 宇佐美は朦朧とした意識の中で桜花を見つめていた。

 靖彦は操縦かんを握り締めてまっすぐ前を見つめていた。

「目標敵空母。方向真正面。直線距離25Km・・・。ありがとう井上中尉殿、ありがとうみんな・・・。まっすぐドンぴしゃり。お見事です」

 そのとき靖彦は桜花の右にぴたりと寄り添う黒い影に気がついた。

「雅人・・・」

 雅人はほんのしばらく靖彦をじっと見つめると左手で敬礼をした。長瀬はほんの少し笑みを浮かべて軽く敬礼を返した。そして雅人は急上昇して桜花から離れていった。

「ありがとう、雅人。君のオズを見つけてほしい。そして・・愛子をたのむ」

 

 桜花は空母まであと30秒の位置にきた。空母からは機銃照射が雨のように降り注いでいるが桜花には当たらない。

Imagin all the people…Living life in peace…

 靖彦はいつしかイマジンを口ずさんでいた。

「愛子・・幸せになれ」

 そして桜花は急降下すると空母の甲板のど真ん中に散った。大きな炎に引き続いて黒煙が黙々と昇っていった。

「ばかやろう・・・」

 雅人は燃え盛る空母を見ながらつぶやいた。

 

 井上は苦痛に耐えながら必死で機のバランスを保っていた。

「やった・・・・・・あいつ空母のど真ん中にでっかい穴を開けちまったぜ。これであれは半年使い物にならん・・・見たか?宇佐美」

「へへ・・・やった・・・俺やった・・・かあちゃん・・見てくれ、俺やったよ・・・あんちゃんができなかったことやったぜ・・・ほめてくれ・・・」

 そして宇佐美は操縦席に倒れ掛かるようにして目を閉じた。

「宇佐美!」

「・・・かあちゃん・・・腹いてーよ・・・かあちゃん・・・・・・・・・」

 その言葉を最後に宇佐美は動かなくなった。

「宇佐美・・・いままでありがとう」

 井上は朦朧とした意識の中、震える右手で操縦かんを握り締め、燃え上がる黒煙をぼんやりと見つめていた。

「一式陸攻よ・・・ついに二人だけになっちまったな・・・。お前もこんなにぼろぼろになるまでよくがんばったぞ。いままでありがとうな。でも・・もういいんだぞ。一緒に休もうか・・・」

 井上の一式陸攻はゆっくり旋回して海面に向かって落ちていった。

「洋子・・・チビをたのむ」

一式陸攻はそのまま海面に落ちると大きな爆発音とともに視界から消えた。

 雅人はあふれる涙を吹きもせずにまっすぐ太陽に向かって飛んでいた。

「やっと友達になれたのに・・・やっと分かり合えたのに・・・この世界でたった一人の友人だったのに・・・。なんで死ななきゃいけないんだ!戦争ってなんだー!」

 

第3章(3/3)に続く

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